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それから数日後。
王都に居るアーサーから一向に連絡か来ず、カインはそわそわとして、様子を見に行こうとするが、それをシャイロックに止められる。まだ月蝕の館の犯人もわからないのだ、気が落ち着かないのだろう。
そんなそわそわとするカインに大量の本を押し付け、トビカゲリについて調べろという。カインは嫌そうだ。トビカゲリについては、どうやら欠片のムルが言ったそうだ。
「トビカゲリ、トビカゲリ・・・・・・」
「なんじゃったかのう・・・・・・」
「ほらほら、思い出して。スノウ、ホワイト」
唸りながら思い出そうとする双子に、ターリアは笑いながら、少し揶揄うように言った。双子なら知っているはずだと、ムルが言っていたらしい。
「魔法科学兵団の起動装置についても、何もわかってないんだろう?」
「わかっても報告なんて来ないわよ。自分たちの醜聞を晒す行為だもの」
「醜聞ひとつやふたつがないと、魔法使い狩りが始まるよ」
フィガロとターリアに会話に「以前にもそうおっしゃっていましたね。どういう意味なんですか?」と、賢者が尋ねる。
魔法科学道具の原動力はマナ石によるものだ。マナ石とは魔法使いの石で、魔法使いの魔力そのものだ。魔法科学道具ができたせいで、マナ石が消費され、最後にはなくなってしまう。そうなれば、マナ石を求めて魔法使い狩りが始まる。実際、西の国では魔法生物乱獲がおこり絶滅寸前にまで至ったのだ。
「まずは魔法使いの信用を上げることだ。諸悪の根源のオーエンはどこにいるんだ?」
カインは語気を強くして、オーエンの所在を尋ねる。しかし双子はそれに首を横に振るしかない。
「どこじゃろうなあ」
「お宅訪問するほど仲良しではないのでな」
「北の魔法使いのことなんだから、しっかりしてくださいよ」
「あら、私はオーエンと仲良しよ」
カインの言葉に、心外だとターリアが言うと「そうだ! ターリアならオーエンがどこにいるか知ってるんじゃないか?」と閃いたかのようにカインが食いついてきた。しかしターリアも「さあ、今はどこにいるのかしらね」と首を傾げるだけ。肩を落としたカインにフフッと笑って「けれどひとつだけ、教えてあげる」と囁くように言った。
「オーエンはなにもやってないわよ」
「ほう」スノウが目を丸くする。
「なんと」ホワイトが目を見開く。
「えっ、そうなの?」クロエが驚く。
「そうなのか!?」カインが問い詰めるように寄ってくる。
「ターリア、その話くわしく聞かせてくれ!」と勢いよく付いてくるカインに「嫌よ。オーエンが嫌がるもの、話してくるのを待つのね」と素気なく返す。「今はそう言っている場合じゃないだろう!」と声を上げるカインだが、ターリアは気にもしない。
「無理ですよ、カイン。ターリアはこう見えて頑固ですから、絶対に話しませんよ」
様子を見ていたシャイロックが、カインに無駄だと口添えをする。「ターリアは頑固だもんね〜!」とムルも同意した。魂が砕けたムルはわからないが、お互い長い付き合いだから言えたことだ。
すると、シノとヒースクリフが賢者を連れて魔法舎の外へと出ていった。
しばらくすると、3人はクックロビンとその妻カナリアを連れて戻ってくる。どうやらドラモンドの発案で、人間たちに魔法使いたちのことをもっと知ってもらいたく、彼らについて記録を残したいという。カナリアもクックロビンの話を聞き、自分も役立ちたいため魔法舎で働きたいといった。
自分たちを理解しようと自ら歩み寄ってきた人間たちに、魔法使いたちは少なからず喜んでいた。
「賢者様以外の人間が魔法舎へ来てくれるなんて、嬉しいわ。それに魔法舎で女性は私たちふたりだけだから、カナリアが来てくれて賢者様も安心だわ。仲良くしてくださってね」
「はい、よろしくお願いしますね。カナリアさん」
「まあ、私もおふたりと親しくしていただけて嬉しいですわ!」
早速好意的姿勢をみせたターリアに、賢者もカナリアも喜ぶ。はやくも親し気な仲になる女性人たちを見て、クックロビンや他の魔法使いたちも積極的に彼らを受け入れる言葉を述べた。
カナリアとクックロビンは賢者と共に魔法舎の案内へと談話室を立ち去り、残った者は引き続きトビカゲリについて調べ漁ることになった。