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10


その後、賢者とその魔法使いたちは追い出されるように魔法舎へ戻った。一度はバラバラになりかけたが、何とか保ち、全員が魔法舎へと留まった。それぞれが神妙な表情を浮かべ、その日の夜はとても静かだった。

次の日。
日が昇り朝になると、ターリアはキッチンへと向かった。シャイロックから朝食はネロが作ってくれるのだと聞いたのだ。そっとキッチンを除いてみると、明るい空色の髪をした青年が鼻歌を歌いながら料理に勤しんでいた。そっと近づき、声をかける。


「おはよう、ネロ」
「うわっ!?」


ぬ、と背後から声をかけられネロは驚いて声を上げた。そのまま振り返ったネロは、ターリアをみてぎょっとした。ターリアはフフッと笑って「東の魔法使いのネロが料理を作ってくれると聞いたのだけど・・・・・・あなたがそうよね」と問いかける。ネロは戸惑いながら「あ、ああ・・・・・・そうッスけど・・・・・・」とぎこちなく答えた。

ネロは北の国出身でブラッドリーと盗賊をしていた過去があるが、ターリアと面識はない。しかしターリアの名を知らないわけではない。とくに苛烈な噂を聞きはしないが、あの北の国で長年生き続け、今日まで生き残っているのだ。かなりの強者であることぐらい、誰にでもわかる。

警戒するネロだが、ターリアは「何を作っているの?」や「料理に魔法を使わないのね」と、感心するように後ろからネロの手元を覗き込んでいる。その表情や仕草が、まるで好奇心旺盛な小さい子のようで、良い意味でネロの予想を裏切った。あまりにも純粋な眼差しで手もとの料理を見つめてくるものだから、ネロは思わず彼女が北の国の魔女であることを忘れた。


「出来たら向こうに持ってくから、大人しく待ってな」
「あら本当? 嬉しいわ、ありがとうネロ」


笑いかけながら言ってくれたネロに嬉しそうに応え、ターリアは素直に食堂で彼の料理が出来上がるのを待った。

椅子に座って待っていると、食堂に金色の髪をした少年がやってきた。ターリアと目が合うと「あ」と声を零す。「いらっしゃい、一緒にネロの料理を待ちましょう」と誘うと、少年は頷いてターリアの隣に腰を掛けた。


「あの、あなたは」
「私は北の魔法使い、ターリア。あなたは中央の国ね。よろしく、仲よくしてくれると嬉しいわ」
「北の国・・・・・・あなたは他の方とは違うように見えます」


少年は恐れずに口にする。「北の特性は私にはあまり合わなくてね、どちらかと言うと西寄りだと思っているわ」周りには南寄りという人もいるけれど、と付け足す。「あなたは?」と促せば、少年は手稲に述べる。


「僕はリケです。神の使徒として教団の教えを伝えていました。よろしくお願いします」


リケから出た言葉にターリアは一瞬目を丸くした。それは一瞬のことで、すぐに目を細め優しい笑みへと変わっていく。「ええ、よろしくね、リケ」ターリアの笑みにつられて、リケも表情をほころばせた。



● 〇 ●



朝食を終えると、ターリアは部屋の模様替えをしていた。今回から魔法使いたちは魔法舎で共同生活をする方針であるらしい。昨日魔法舎へ来たばかりだったため、まだ荷物を持ってきてはいなかった。ターリアはひとまず必要な物だけ持ってきて、あとは魔法で好きなように模様替えをした。部屋は人数の少ない4階を選び、ムルの隣にした。ファウストはなるべく一人で居たいため、ターリアなりに気遣って隣の部屋を控えたのだ。

部屋の片づけが終わり、魔法舎をふらついていると「あの」と声をかけられた。南の兄弟たちがいた。フィガロに見知った顔も揃っている。兄弟は「こんにちわ」と挨拶する。


「まだ挨拶をしていなかったので。私はルチル、この子は弟の・・・・・・」
「ミチルです。よろしくお願いします」
「あら、わざわざ挨拶に来てくれたのね」


気さくに声をかけてきた彼らに嬉しそうに笑顔を向けた。


「私は北の魔法使い、ターリア。どうぞよろしくね」


南の兄弟から、その背後にいる人物に視線を移す。「レノックスも久しぶりね、元気そうでよかったわ」久しぶりに会った彼に笑いかければ「ターリア様も、お元気そうでよかったです」と、レノックスも嬉しそうに口端を上げた。

「レノックスさんとお知り合いだったんですか?」その様子を見てルチルが尋ねる。「フィガロ先生ともお知り合いなんでしょう?」続けてミチルも尋ねた。ターリアは頷き、応える。「ええ、ふたりとは古い付き合いよ」

再び兄弟たちに視線を移し、懐かしむように見つめた。「それにしても、大きくなったわねルチル。あの子の面影があるわ」ルチルに目を向け、穏やかな朗笑を浮かべる。「ミチルもこんなに育って、時間の流れは速いわね」次にミチルへ目を向け、愛しむように笑んだ。

「もしかして、母様のお知り合いですか?」ルチルがハッとして、問いかける。
「ターリアはチレッタの心友だよ。ふたりとも、本当の姉妹のように仲が良かった」それにはフィガロが答えた。

「ルチルは覚えてないかな。小さい頃の君とよく遊んでたよ」フィガロの言葉に、ルチルはうーんと思い出そうとしてみる。「最後に会ったのは確か、ミチルが生まれた時ね」ターリアも記憶をたどりながら答えた。すると「・・・・・・ああっ!」と思い出したルチルが声を上げる。


「こうしてまた会えて嬉しいわ。チレッタの子なら、私の子同然だもの」


その言葉から、自分たちを見つめる眼差しから、いかにターリアがチレッタを大切に思い親しい仲で会ったことが伺える。ルチルとミチルは嬉しそうに表情を緩ませた。

「あの、よかったら母様の話を聞かせてくれませんか?」ミチルは母の知り合いに会えて嬉しそうに、母のことを尋ねてみる。ターリアも嬉しそうに朗笑しながら「ええ、勿論よ」と頷き応える。

積もる話もたくさんあるだろう。フィガロに促されて、談話室でお茶でもしながら、懐かしい話に花を咲かせることにした。