×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -






05


上辺だけ賑やかで華やかなパーティーが再開された。人々は笑顔を浮かべパーティーを楽しんでいるかのように振舞うが、広間に現れた北の魔法使いたちとオズを常に警戒し、距離を取っている。

ターリアは広間を見渡す。

オズとブラッドリーの姿は見えないが、この城のどこかにいるだろう。オーエンは周りにいる人々を見渡しながら散歩をするように歩いている。ミスラは広間を歩き回りながらすれ違う人に「ごきげんよう」と挨拶をしたり、用意された食べ物を手掴みで食べている。その後を尾行するスノウとホワイトがもいる。

辺りを見渡していた視線が、ピタリと止まる。見つけた人物に向かって、ターリアは歩き出す。


「やあ、ファウスト。その様子だと、身体はもう平気なようね」
「・・・・・・君も、そのようだね」


声をかけたのはファウストだ。お互い<大いなる厄災>との戦いで深手を負っており、こうして再び顔を合わせるのは今日が初めてだ。お互いの安否を確認し「お互い無事のようで良かったわ」と微笑むターリア。ファウストは視線を逸らし、自分はそうではないという意思を示す。


「ターリア様!」


駆け寄ってきたのはヒースクリフだった。「ヒースクリフ。あなたも無事なようで安心したわ」ターリアを見つけて駆け寄ってくるヒースクリフの姿を見て、胸を撫でおろす。「おふたりのおかげです。ターリア様こそ平気ですか、魔法舎にもしばらくいらっしゃらなかったので・・・・・・」ヒースクリフはそういって、心配そうに眉尻を下げた。そんな顔をするヒースクリフに「ええ、大丈夫よヒースクリフ」と微笑めば、よかったと明るい笑顔を取り戻した。

安否の確認が済むと、ターリアはまた違う人を探して広間を見渡し歩いた。そして見知った背をみつける。「シャイロック、ムル」と声をかければ、ふたりが振り返り、ムルは「あっ、ターリアだ!」と声を上げる。


「ターリア。お久しぶりですね、怪我は大丈夫なんですか」
「ええ、この通り大丈夫よ」
「ターリア帰ってきた〜!」
「あら、ムルったら、ふふ」


腰に腕を巻き付けて抱き着いてくるムルに、くすぐったそうに笑う。それをシャイロックが笑顔を浮かべながら眺めた。その様子をラティスカとクロエが見ていると、二人と目が合ったターリアが「新しい西の魔法使いね」と笑いかけた。

シャイロックがええ、と頷き「こちらがラティスカ、そちらの子はクロエです」と二人を紹介する。それに合わせてお辞儀をする二人。「初めまして、私はターリア。シャイロックとムルとは古い仲よ」ターリアはよろしくね、と朗笑を浮かべた。


「美しい人だ・・・・・・ターリアが僕の探していた花嫁だったのかい」
「ふふ、シャイロックとはまた違う色男ね。花嫁を探しているなんて素敵ね。けれど私は違うわ、ごめんなさいね」
「ああ、それは残念だ」


次にラティスカの隣に居るクロエに視線を移す。視線が交わると、クロエはビクリと肩を揺らし、少し気まずそうにそして逃げるように視線をさまよわせた。それを弁解するように、ラティスカがクロエは女性が苦手なのだと説明する。クロエは視線を落としながら「ご、ごめんね。気を悪くさせたよね・・・・・・」と肩を落とした。


「そんなことないわ。私はあなたと仲よくしたいもの。気長にゆっくり、やっていきましょう」
「う、うん。ありがとう!」


クロエは嬉しそうに笑う。するとあのね、と言いづらそうにしながら「もしよかったら、今度仲良くなったしるしに服を作らせてくれないかな・・・・・・」と少し不安になりながら尋ねた。ターリアは嬉しそうに花を咲くように「まあ、服を作れるのね。嬉しい、楽しみにしてるわ」と喜んだ。クロエもそれに喜び、隣にいるラティスカも嬉しそうに笑んだ。

新しい西の魔法使いたちへのあいさつを終えると、ターリアは再び広間を歩き出した。あたりを見渡してみるが、やはり人が多い。パーティー中に挨拶を交わすのは難しいかもしれないとターリアは考えた。

ふと、テーブルに並べられた料理に目を移す。どれも美味しそうだ。流石は王家の品々だと感心した。


「どれも美味しそうね。そうは思わない、フィガロ」


ターリアの背後から近づいてそっと手を伸ばしていたフィガロは、後ろを振り向かないまま先に声をかけられてしまい、降参だと両手を挙げて「残念」と笑いながらつぶやいた。振り向いたターリアはそんなフィガロを見てフフッと笑みを浮かべる。


「久しぶりだね、ターリア」
「そうね、フィガロ。南でのご隠居生活はどう?」
「うん、それはもう楽しくやってるよ」
「あら、それなら良かったわ」


南に行ったフィガロは特に問題なく過ごせているようだ。「<大いなる厄災>との戦いで怪我を負ったって聞いたけど」フィガロが他の魔法使いたちから聞いた話を持ち出す。「ああ、それなら平気よ。少し、まだ本調子ではないみたいだけど」それを聞くと目を見開いてえっ、と声を零した。「俺が見ようか?」と医者として言うフィガロに首を振り「いいわよ、そんな大事になってないもの」と答える。フィガロもそれ以上は詰め寄らず、頷いて身を引いた。


「君がそういうなら良いけど、何かあったら言ってくれよ。君を失いたくは無いし、俺たちももう歳だからね」
「レディーに年齢の話を持ち出すなんて、紳士のすることじゃないわね」
「はは、ごめんごめん。君は昔からずっと、美人で可愛いよ」
「あら、口説いているのかしら?」
「勿論さ。俺は昔から君一筋だからね」
「まったく、都合の良いことばかり吐く口ね」


久しぶりのフィガロとのやり取りにフフッと笑みを浮かべれば、フィガロも表情を和らげる。こうして会話をするのは久しぶりだ。お互いが近況報告をするように会話を弾ませていると、ふと自分たちに魔力が纏った。次の瞬間には、フィガロとターリアは広間ではなく、バルコニーに居た。


「あれ? オズ、おまえが呼んだのか?」
「いきなり呼び出すことしかできないのかしら、オズ」


目を丸くしてオズを見るフィガロと、困った子だと視線を送るターリア。「弱い魔法なら、なんとか使えるようだ・・・・・・だが、眠い・・・・・・」オズはひとり眠そうに欠伸をした。そんなオズに「私の膝の上で眠る? 眠りにいざなってあげてよ」と揶揄うように言った。


「一時的に魔力を失っている。ミスラとオーエンからアーサーを守れ」


「お前たちならできるだろう」オズの言葉にフィガロが苦笑いをし、ターリアは前に立つミスラとオーエンを一瞥する。

賢者が、フォガロは南の魔法使いだから弱いのではないか、と口にすると、オズが「フィガロは北の魔法使いだ。私より長く生きている」と答える。思わず驚いて声を上げた賢者がフィガロに目をやった。

「おまえさあ・・・・・・こうやって毎回、俺のスローライフを邪魔するのは止めてくれないか?」フィガロはオズに向かってぼやき始める。善良な一般市民としての平穏な生活がしたい、何も知らない子たちがフォガロは何もできないのだからと言って世話を焼かれていたいと言う。


「ああ、賢者様にも知られちゃった。頼りない青年風味で、素朴に迫ってたのに」
「賢者に迫ったのか・・・・・・」
「賢者様に迫ったんですか?」
「自身を偽って賢者様に迫るなんて、最低な男ね」


「賢者様も怖かったでしょう?」労わるように優しく声をかけてくるターリアに、賢者は「そ、そうですね」と頷いた。実際、迫ってくるフィガロは賢者にとって怖かったのだ。

「ますます最低な男ね。ミスラ、オーエン、フィガロは殺していいわよ。私が許可しましょう」微笑みを浮かべたままとんでもないことを許可するターリアに賢者は目を丸くして、ぽかんと口を開いた。優しいがやはり北の魔法使いだと、賢者は理解する。「ちょっと、ターリアが言うと冗談にならないんだけど」フィガロもそれは勘弁だという。

先ほどの発言で、ミスラとオーエンに加勢しそうなターリアに「ターリア・・・・・・」と諫めるようにオズが名を呼ぶ。


「ふふ、分かってるわよ、オズ。ふたりからアーサーを守ってあげましょう。私にとっても、アーサーは甥っ子のような存在だもの。ついでに可愛い弟分であるあなたのことも守ってあげるわ、オズ」


すこし不服そうにしながらも何も言わないオズ。アーサーはオズも守ると言ってくれたのが嬉しいのか、感激したように「ターリア様・・・・・・!」と口にする。嬉しそうなアーサーを見てターリアも「アーサーは素直で良い子ね」と笑った。


「・・・・・・さて、ミスラたちの相手だっけ?」
「嫌な男が出てきましたね・・・・・・」
「ターリアまでいるなんて、興醒めだよ」
「ふふ、悪い子にはお仕置きよ」


フィガロが口端を上げ、ターリアが目を細めて微笑んだ。それと対峙するふたりからびりびりと殺気が放たれている。固唾をのんだその時、思いもよらない来客が現れる。


「フィガロ先生〜」
「フィガロ先生いますかー?」


南の兄弟が現れたのを見て、フィガロは動きを止めた。それに連動するようにターリアも動きを止め様子を見始める。
フィガロは突如、気の抜けた声で「なーにー?」とにこやかに笑って振り返った。

南の兄弟はフィガロの好きな栗のケーキが出てきたので一緒に食べに行かないかと声をかけた。フィガロはまるで子供のように思える反応をして、一緒に行くことを告げる。それを見ていたオズが若干呆れたようにフィガロを見る。

ルチルがみんなの分も持ってこようかと問えば、甘いもの好きなオーエンがすぐに食べると答える。オズとアーサーと賢者は首を横に振り、ミスラは頷く。最後に目線を向けたターリアと目が合うと、ターリアは首を横に振った。


「ケーキだって、ターリアは食べないの?」
「気が向いたら行くわ。ミスラも行儀よく食べるのよ」
「気が向いたら、気を付けます」


食べ物しか今は頭にないオーエンとミスラは早々に広間の方へ戻っていく。それに南の魔法使いも続こうとすると、ふと空を飛ぶものに気づいた。魔法科学兵団のもので、それで壊れた塔を修復する。その様子を見ていた人間たちは、人間でも魔法のようなものが使えると感激した。

あれは以前のムルが開発したものだ。少しだけそれを見に来たシャイロックは、それに嫌悪を向けると、すぐにムルと一緒に広間へ戻っていく。


「・・・・・・魔法科学兵団か。あんなものが増えたらまずいことになるぞ」
「ええ、このままいけば確実に、魔法使い狩りが始まるわ」


フィガロの言葉に、ターリアが頷く。「どういうことですか?」ふたりの言葉の意味が理解できず、賢者は素直に聞き返した。それにフィガロが「あとで」と答え、ヴィンセントにそっと目を向ける。ヴィンセントはフン、と吐き捨てると広間へと戻っていった。

徐々にバルコニーから広間へ人が戻っていき落ち着きを取り戻したころ、ターリアが賢者に向き合った。


「賢者様、まだご挨拶をしていませんでしたね」


賢者と視線を合わせ、ターリアは広間での自己紹介のように恭しく賢者に頭を垂れた。


「申し遅れました。私は北の魔法使い、ターリア。主に北の魔法使いたちをスノウとホワイトと共に取り纏めております。そこにいるオズとフィガロは私の弟弟子です。改めて弟共々、よろしくお願い致します、賢者様」


「困ったことがあれば何でも言ってくださいね」と言葉を添えて、丁寧に告げるターリア。優雅な立ち振る舞いと丁寧な言葉に、賢者の反応が遅れる。それを助けるようにアーサーが「賢者様、ターリア様は私の面倒も見てくださったお優しい方なんです」と賢者に告げる。


「こちらこそ! よろしくお願いします、ターリア」
「まあ、早速名前を呼んでくださるなんて。握手までしてくださるなんて、ありがとうございます賢者様」


ターリアは嬉しそうに表情を綻ばせ、差し出された手を大事そうに両手で包み込んだ。
微笑むターリアを見て、賢者もほっと安心する。周りの魔法使いが言うように、賢者の書に書いてあるように、ターリアは優しいひとのようだ。先ほどのような、北の国特有なものが出るのはきっと珍しいのだろう。

微笑んでいたターリアが「ところで・・・・・・」と辺りを見渡す。賢者は「どうかしましたか?」と首を傾げた。


「スノウとホワイトを御存知ないかしら?」