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04


その瞬間、凄まじい雷鳴が鳴り響いた。
晴れ渡った青空に、あっという間に黒雲が立ち込めていく。風も無いのに、室内の炎が消えて華やかな会場は不気味な薄闇に変わった。かたかたと窓が揺れて、不穏な空気に、人々が息を詰める。

ふいに、低い男の声が響いた。


「《アルシム》」


「・・・・・・今の声は・・・・・・」スノウが言う。
「もしや、ミスラ・・・・・・!?」ホワイトが言う。

賢者はミスラという名前に、賢者の書に書かれたことを思い出す。そして背筋を凍らせた瞬間、どん!という大きな地響きがした。

地響きがするなか、人々はミスラという名前を聞き顔を青ざめる。みな恐怖に震えていた。魔法使いのみんなも、もしミスラが暴れ出したとき止められるかという双子の問いに首を横に振る。冷汗を流す魔法使いたちも、人々と同じようにミスラを身構えた。

するとヴィンセントの背後に、不可思議な光を帯びた巨大な扉が現れた。隙間から青白い光を放って、扉が開いていく。開かれた扉から、何かが吹き付けた。吹雪だ。

銀色の粉雪を受けながら、扉に持たれて静かにたたずむ青年。
濡れたような色気を放つ美青年は「どうも」と口にする。


「北の魔法使いのミスラです。招かれざる客ですが、お邪魔いたします」


緩慢な動作で扉から身体を離して、すらりとした長身で歩き出す。
スノウもホワイトも、シャイロックやフィガロでさえ緊張を浮かべていた。さらに、彼らは絶望を浮かべる。扉から現れた人影は、ひとつだけではなかったからだ。


「オーエン・・・・・・」
「そなたもか・・・・・・」


「・・・・・・はは」死人のような青年が薄笑う。「ひどいなあ。誰も僕を歓迎してくれないのかい」笑みを浮かべたまま、辺りを見渡して冷たい声で言い放つ。


「北の魔法使い、オーエンだよ。よろしく」


続いて姿を現したのは、賢者もすでに会ったことのある人物だった。


「チッ。北の魔法使い、ブラッドリー」


いつかの夜に突然姿を消してしまったのだ。
ブラッドリーは悪態をつきながら、身体に付いた雪を払ってずかずかと大股で歩き出す。

突然現れた三人の北の魔法使いたち。
彼らを前に、華やかだった城の広間は、恐怖と絶望の空気に満ちていた。それは圧倒的な、彼らの力を示していた。ミスラ、オーエン、ブラッドリー。彼らがその気になってしまえば、この城は簡単に征服できてしまう。誰も身動きなどできなかった。

けれど、彼らは攻撃をしない。不満げに、不可思議な扉を振り返っている。誰かを待つように。
扉に2つの人影が伸びる。


「ターリア・・・・・・!」
「そなたも来たか・・・・・・!」


現れたのは、優し気に微笑みを浮かべている美しい女性。長く伸びた朝焼けのような色の髪が、はっと目を引く。
その姿を見てスノウやホワイトを筆頭に、一部の魔法使いたちが僅かな安堵を示した。


「北の魔法使い、ターリア。皆々様、以後お見知りおきを」


ターリアは左手でドレスの裾を指でつまみあげ、恭しくお辞儀をした。その様子は、どこかの令嬢か、一国の王女のような優雅な振舞だった。けれど広間の空気は張り詰めたまま。それは、いくら愛想が良くとも、彼女も北の魔法使いであるからだ。

そっとターリアが誰かを迎い入れるように扉に手を差し伸べながら振り返る。

最後に出てきたのは、進歩的な杖を手にした、オズだった。
オズが扉から出るのを待って、重々しい音を立てて扉が閉まる。粉雪だけを残して、幻のように扉は消滅した。みなが信じられないような顔で、オズを見つめている。


「中央の魔法使い、オズだ。これで賢者の魔法使いは揃ったはず」


オズは立ち尽くすヴィンセントに視線を向ける。


「中央の国王の弟よ。他に不服があるなら申してみよ」
「・・・・・・心から歓迎する」


苦々し気なヴィンセントの声に、広間の人々がほっと安堵の息をついた。
グラスを掲げて、ムルが笑う。


「それじゃあ、パーティーを続けよう!」


わあっと歓声が続いて、広間は再び明るい活気に戻っていく。
こうして――初めて、魔法舎の魔法使いが全員揃った。