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逆境の中の希望



 雪のなかをおぼつかない足で歩き続ける。

 足を踏み込むごとに鈍い音がした。真っ白な雪の大地には、足跡ひとつない。自分が進んできた道だけ、小さな足跡が続いていた。あたりにはなにも無い。見渡せば、雪に覆われた山々と広大な大地。人とすれ違うことなど、まずない。冷たい風が吹きつけるなか、少女は歩き続けた。

 しばらく歩き続けたころ、少女は立ち止まる。今の今まで歩き疲れ、少女は疲れ果てていた。ほう、と息を吐けば白い靄が空気に舞った。それを追って視線を上げると、ひとり少年を見つけた。

 少年はひとりで、雪のなかぽつりと出た岩場に座っていた。大きなマントを身にまとって、顔は見えない。

 一歩、少年に向けて歩き出した。それに気づいた少年が、ゆっくりとこちらに視線を向ける。

 髪の隙間から除く、警戒心の強い赤い瞳。真白な白銀の世界に、その色がとても鮮やかに見えた。きつく睨みつけてくる少年に怯みもせず、少女は声をかける。


「あなたもひとりなの?」


 少年からの言葉はない。ただじっとこちらを睨みつけ、少女の動向をうかがっている。


「わたしもひとりなの」


 少年の返答はないまま、少女は声をかけ続ける。少年は黙って少女を見つめる。
 凍ったような風が吹き付ける。寒さに身震いをした。


「そっちへ行っていい?」


 少年は頷くことも首を振ることもしない。少女はゆっくりと少年の方へ歩き始めた。ザク、ザクと雪を踏みしめる。少年は自分の方へ歩み寄ってくる少女に警戒しながらも、何もせずに視線だけを送り続けていた。少年のもとまでたどり着くと、少女は少年が座っている岩場に腰を下ろした。そして両手を前に出して、冷たい手に息を吹きかける。

 しばらくのあいだ、会話がないまま時間が過ぎ去った。少年が口を開くことも、少女が話し出すことも無く、ただふたり並んで座って雪に覆われた大地を眺めているだけだった。


「・・・・・・おまえは、こわくないのか」


 最初に口を開いたのは少年だった。初めて聞く少年の声は、思ったより低かった。少年に目を向けるが、少年は目の前を見つめたままこちらに視線を向けることは無い。少女も同じように目の前を向いた。少年の視線の先には、雪のなか乱雑に散らばった宝石のような石がいくつも転がっていた。


「こわくないよ」


 はっきりと告げる少女の声に、少年は静かに目を見張った。少女はそっと少年に身体を傾ける。少年の身体は氷のように冷たかった。しばらくたって、少年も少女に寄り添うように、そっと身体を傾ける。少女は体温を分け合うように、少年の手を取った。握られた手を戸惑いながら少年も握り返した。

 ふたりの影はぴったりと重なって、いつまでも寄り添い続けていた。