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あたらしい朝を、受け止めた



 それから数年後。

 オズに続くように、フィガロも屋敷を去った。フィガロは軽い調子で、旅にでも行ってこようかな、と言っていたが、実際のところは分からない。此処に居てもつまらないのだろう。師のスノウやホワイトから学ぶことはもう無く、友人のような存在であったオズも居ない。残ったのはドロシーだけ。フィガロにとっても、ドロシーにとっても、お互いの存在は兄妹弟子以上でも以下でもなかった。

 屋敷を出ていく際、フィガロから温度の感じられない無表情な視線を一瞬だけ向けられたが、それを見つめ返すことは無く、外界を拒絶する重い扉はパタリと閉まって、フィガロはついに屋敷を出て行った。

 屋敷に残ったドロシーは、双子と今まで通りの日々を過ごした。双子は優しく、居なくなってしまった兄弟子たちの枠を埋めるように、いつもドロシーに構った。けれど結局のところ、双子にはドロシーの孤独は理解できなかったし、それを埋めることもできなった。双子という存在は、一心同体ともいえる、お互いがお互いにとって唯一無二の存在。血のつながった兄妹ではないけれど、オズとドロシーもそれに近しい存在であった。そんなドロシーが、片割れのオズを失った。その喪失を、スノウやホワイトが理解できるわけが無かったのだ。
 
 吹雪が吹き荒れる外界を眺めながら、いつまでもいつまでも、ドロシーはオズの帰りを待った。
 幾日も、幾月も、幾年も。
 朝も、夜も。
 凍える冬の日も、温かな春の日も。
 オズの帰りを待ち続け、待ち続けて。
 
 そしていつしか、ドロシーはオズの帰りを待つのをやめた。







「とうとう、そなたまで出て行く時が来るとはのう」
「寂しくなるのう」


 温かいマントを身に纏ったドロシーを目の前に、スノウとホワイトは少し残念そうな声色で、別れを惜しむように言葉を紡いだ。そんな双子に、ドロシーは苦笑をほのかに浮かべる。

 ドロシーがこの屋敷から外へ出たことなど、両手で数えるくらいしかない。その際には必ず誰かが居て、こうして一人で外へ出るのは、今日が始めてた。この屋敷に来てから数百年が経ったが、外の世界はどれくらい変わっただろうか。ひとりきりという寂しさと不安を抱えつつ、もう決めたことだと、ドロシーは瞼を閉じた。


「ドロシーよ」


 スノウに呼ばれ、視線を向ければ、双子が真剣なまなざしでこちらを見据えていた。


「オズを探しに行くのか」


 ホワイトが問う。
 探しに行けたなら、どれだけ良いだろう。けれど、探しには行けない。オズはもう、帰ってこないのだ。オズはもう、私の前には現れないのだ。だから、探しには行かない。


「いいえ」


 静かに、答えた。胸に秘めただけだった想いが言葉となって発せられ、呪いのように身に染みる。


「そうか」


 少しだけ目を伏せたホワイトが、言葉を飲み込むように頷いた。


「気を付けるのじゃぞ、ドロシー」
「元気でのう、ドロシー」
「はい。今まで、お世話になりました、スノウ様、ホワイト様」


 生きる術を与えてくれた師に感謝を述べる代わりに深々とお辞儀をして、屋敷を出る。冷たい外気が身体の体温を奪っていく。背後で、外界を遮断する重たい扉が閉まった。ドロシーはひとり、白銀の世界へ踏み出した。