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05


砂漠の中に立つ宮殿がスカラビア寮だった。まるで王様にでもなったよう。ギラギラと照らす太陽はまるで真夏のようだ。外は真冬だというのに。


「ここがスカラビア寮か。本当にムワッと熱くて、真夏みてぇなんだゾ!」
「冷えた身体が温まるだろう? さあ、こっちだ」


パンパンとジャミルが何か合図を送るように手を叩く。「客人のおでましだ! みな、歓迎の音楽を!」すると寮生たちによって音楽を奏でられながら寮へ出迎えられた。「わぁ、すごい・・・・・・」その歓迎の様に夜月は目を見張った。「にゃっはっは! オレ様ほどの有名人ともなるとこんなに歓迎されちまうのか」グリムは大喜びでスカラビア寮を進んでいく。

まず談話室へと案内され、促さるまま座れば目の前に先ほど作った大量の料理が次々に並べられた。どれも美味しそうで、目を引いた。


「さあ、冷める前にどんどん食べてくれ」
「ありがとうございます」
「いただきまーす! あむっ!」


含めば口いっぱいに広がるスパイスの香り、そして後引く辛味が絶妙に美味しい。なんともスパイスをふんだんに使った香りが食欲を誘う。異国の料理、という感じがしてまるで遠い異国に旅行にでも来ているようだ。「肉料理とスープもあるぞ。まだまだたくさんあるから、食べていってくれ」分け皿にジャミルは少しずつ盛り合わせてグリムや夜月に渡していく。「いろんな料理が食べれて、本当に楽園なんだゾ〜!」腹が満たされ、グリムは嬉しそうだ。


「・・・・・・お前たち、なにを騒いでいる?」
「――!! り、寮長・・・・・・!」
「カリム・・・・・・」


談話室に現れたのは、ジャミルと時と同じくマジフト大会前に話したカリムだった。カリムが現れ、談話室にいた寮生たちが固唾を飲み込んだ。「どういうことだ、ジャミル。客を呼ぶなんて、オレは聞いてないぞ!」カリムはジャミルに訴える。「カリム、これにはワケが――」誤解を解こうとジャミルが声を上げたその時「客を呼ぶときは、必ず先に報告しろと言ったはずだ! そうすれば・・・・・・」


「もっとスゲーご馳走と音楽隊を用意できたのに〜〜!」
「「えっ?」」


夜月とグリムが声を合わせて驚く。「よう、おふたりさん。よく来たな! 出迎えのパレードもなくて悪い! オレはスカラビアの寮長、カリム・アルアジームだ。はじめまして、だよな?」陽気な笑顔を浮かべながらカリムはそう言う。さっきの雰囲気はなんだったのだろう。「いいや、彼らとは初対面じゃない」ジャミルが首を横に振る。「お前は入学式でグリムに尻を焦がされたし、ヨヅキとはマジフト大会の前にも食堂で話したぞ」とジャミルが言えば「あれっ? そうだったか?」とカリムは首を傾げた。「オレ、あんまり人の顔覚えるの得意じゃねぇんだよな〜。気を悪くしないでくれ」悪いな、とカリムは一言夜月たちに謝った。


「そんじゃ、改めまして。お前ら、これからもよろしくな!」
「よろしくお願いします・・・・・・」


差し出された手に応えて握り返す。見上げればカリムはニッコリと眩しい笑顔を浮かべた。今までの寮長とは全く違うタイプの人だ。あまりの人付き合いの良さに、なんだか不思議な感じがする。


「今日の料理も美味しそうだ。出来栄えはどうだ? ジャミル」
「いつも通りさ。安心して食べていい、毒見も済んでる」
「えっ」
「むかっ!? ど、毒見っ?」


思わず手に持った食器を落としそうになった。話を聞けば、カリムは熱砂の国有数の大富豪の跡取りらしく、命を狙われることも少なくなく毒見は必須らしい。しっかり毒見役が付いてからは4年前を最後に、パッタリとやんだらしい。つまり、グリムと夜月は今回、カリムの毒見役にされていたようだ。人付き合いがいいだけで、やはりあまり他の寮と変わらないのかもしれない。


「そうだ、グリム。羊乳の青カビチーズはもう食べたか? クラッカーに乗せて食うと美味いんだぜ」
「はあ? 青カビなんて食えるわけねぇ・・・・・・むががっ! 急に口に入れてくるんじゃ、もがっ!」
「そうかそうか。美味いか! もっとたくさん食えよ、あっはっは!」
「むぐぐ〜! ふががっ!」


カリムは笑顔を浮かべたまま、無理やりグリムの口に押し込む。「今日は宴だ!」カリムの陽気な声が談話室に響き、楽し気な音楽とともに宴が開かれた。



■ □ ■



「も、もう無理・・・・・・出そう…・・・」
「あのカリムってヤツ、めちゃくちゃカビののったクラッカーを食べさせてきやがる」


カリムに勧められるがまま食べたおかげで、これ以上ないぐらいお腹が膨れ上がった。しばらくはあまり食べたくない。「おーい、2人とも。おやつにしないか? アイスクリームがあるぜ。それともフルーツの盛り合わせがいいか?」カリムはまだ食べさせるらしい。「ピスタチオとアーモンドの焼き菓子もあるぞ。ジャミルに持ってこさせようか」流石に食べられないと夜月は首を振った。「ふな"っ! い、いらねぇ、もう一口足りとも入らねぇんだゾ〜!」それはグリムも同じだった。「そうか、どれも美味いから食べてもらいたかったんだけどな」


「ま、オレたちはこの冬休みはずっと寮にいる予定だしいつでもメシ食いに来いよ。な、ジャミル!」
「ああ、いつでも」
「そういえば、寮に残った理由って・・・・・・」
「ん? ああ・・・・・・」


「この間、寮対抗マジフト大会と期末テストがあっただろ? ウチの寮、どっちも順位が最下位になっちまってさ」カリムは不甲斐ないと頬を指でかいた。「それで、一念発起。寮生みんなで自主的に特訓しようぜってことになったんだ」カリムに続き、ジャミルが口を開いた。「この冬休み・・・・・・俺たちは毎日6時間、勉強したり魔法の実技訓練をして過ごそうと思ってる」スカラビアの寮生は真面目な人たちらしい。「それじゃあ、学園で授業があるときと何も変わらねぇんだゾ」


「ホリデーってのは休むもんだ。宿題何か休み明けてからやりゃいいんだよ。って、レオナは言ってたんだゾ」
「それはレオナさんだからできる技だよ、グリム」
「あいかわらずだな、あの人は・・・・・・」
「うーん。でも、言われてみれば確かにそうかもしれない」


「レオナの言う通りメリハリが大切かもな。よし! オレは決めたぜ、ジャミル」カリムはジャミルに向き直った。「やっぱり休暇はちゃんととるべきだ。寮生たちを明日実家に帰してやろう」さっきと言っていることが逆だ。「えっ!?」ジャミルは思わず声を上げた。「このあと寮生たちには夕食の席で話すことにする。ジャミル、みんなに欠席しないよう伝えおいてくれ」と言ったカリムに「あ、ああ・・・・・・わかった」とジャミルは頷く。


「そうだ、ヨヅキたちにスカラビアを案内してやるよ。見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
「こら、カリム! 寮生には勉強させておいてお前が遊んでいたら示しがつかないだろ」


「せっかく客人が来てるんだ。今日は良いじゃないか」と言うカリムに「・・・・・・カリム」と咎めるようにじとりと見れば「うっ、わかったよ。そう怒るなって。じゃあ、防衛魔法の特訓をするか」とカリムは頷く。「試合は腹ごなしにもちょうどいい。おーい、誰か、相手をしてくれないか!」カリムの言葉を聞き、寮生たちが集まる。
夜月やグリムはそれを見学させてもらうことになり、彼らと一緒に庭へ出た。