×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






004


イソギンチャクを頭にはやした人たちの後を追っていくと、各寮に繋がる鏡舎にたどり着いた。学年所属寮関係なしに、多くの生徒が集まっていた。「今回は絶対50位以内に入れたと思ったのに〜!」「ちくしょう、騙された! あのインチキタコ野郎!」「オレの学園生活お先真っ暗だ〜!」イソギンチャクを生やした人たちは口々にそう零している。


「全員オクタヴィネル寮の鏡に入って行ってるみたい」
「俺たちも行ってみるぞ」


ぞろぞろと列になってオクタヴィネル寮に向かっていくイソギンチャクに紛れ、ジャックと夜月もオクタヴィネル寮に続く鏡に向かった。オクタヴィネル寮に入ると、ジャックと夜月は目を見開いた。乾燥しているサバナクロー寮とは反対の世界だ。まさか海の中に寮があるなんて。


「わぁ、すごい!」
「マジかよ! すげぇな、ナイトレイブンカレッジって!」


思わず感嘆をこぼす2人。するとはっとなったジャックが咳払いをして「・・・・・・仮にも別の寮の縄張りに入るんだ。お前も浮かれてねぇで、用心しろよ」と誤魔化すようにして言う。素直になればいいのに。夜月はフフッと笑みをこぼした。

イソギンチャク集団の後追っていくと、オクタヴィネル寮にある『モストロ・ラウンジ』というカフェのようなところにたどり着いた。200人近くの人がここに集まっているようだ。「エースたちは何処に行った?」ジャックが辺りを見渡す。「人が多くて見つけられそうにないね」すると店内の照明が暗くなり、ある一点にだけスポットライトがあてられた。


「これはこれは。成績優秀者上位50名からあぶれた哀れなみなさん」


スポットライトにあてられた彼に視線が集まる。入学式の時、グリムを捕まえたもう一人の眼鏡をかけた人だ。「改めて自己紹介を。僕は、アズール・アーシェングロット。オクタヴィネル寮の寮長であり、カフェ『モストロ・ラウンジ』の支配人であり、そして――今日から君たちの主人あるじになる男です」アズールは高らかにそう告げる。「・・・・・・なんだって?」それを聞き、ジャックが眉間にしわを寄せた。「キミたちは僕と勝負をして、負けた。契約に基づき、これから卒業までの間、僕の下僕しもべとして身を粉にして働いてもらいます」


「ちょっと待った。こんなん詐欺だろ!」
「たしか君は、1年生のエース・トラッポラさんでしたね。詐欺だなんて人聞きの悪い」


異議を唱えたのはエースだった。「僕は契約通り君に完璧なテスト対策ノートを渡したはずです。しっかりこなせば、90点以上は取れたはずだ」そういうアズールに、エースは確かに92点はとれたと言う。アズールはそれは良かったと笑顔で頷く。「でも、対策ノートを渡した相手がこんなに居るなんて話は聞いてねーよ!」不満げに言うエースに続き「これじゃ、いくら対策ノートをもらったって上位50位に入れるわけないじゃないか!」とデュースも続け「みんなが90点以上じゃ85点とっても赤点と順位が変わらねぇんだゾ!」とグリムまで不満を述べた。「あなたたち、守秘義務、という言葉をご存知ですか?」やれやれとアズールは眼鏡を指で上げた。


「ほら、契約書127ページ目に秘密保持契約についての約款があるでしょう。僕はそれを守っているだけのこと」
「じゃあテスト対策ノートの担保に預けたオレ様の火の魔法は、どうなるんだゾ?」


グリムの言葉に周りの生徒も反応する。みんな口々に「オレのユニーク魔法、返してくれよ!」と声を上げた。「おやおや、みなさん。契約条件をもうお忘れで?」ニタリと口端を上げたアズール。アズールとの契約内容はこういうものだったらしい。期末テストの対策ノートを渡す代わりに、自慢の能力をひとつ彼に預ける。成績優秀者上位50名以内に入れば能力は返還、さらに卒業まですべてのテスト対策ノートを渡す。しかし、もし50位以内に入れなかったときは卒業までのあいだ彼に絶対服従の下僕になる。


「つまり、能力を返すも返さないも僕の自由だ」


だからあの時、エースとグリムが喧嘩をした際に魔法を使わなかったのか。というよりも、使えなかったというほうが正しい。はたから話を聞いていたが、遊び惚けて楽をしようとしたのがそもそも悪い。悪徳商売、とは思うが。


「さっきから聞いてりゃ・・・・・・どいつもこいつも気に入らねぇ!!」


すると突然、隣にいたジャックが大声で叫んだ。当然周りからの視線は集めてしまう。「ジャ、ジャック!? それにヨヅキまで! なんでここに!?」デュースはジャックと夜月がいることに気づく。「ん? 君たちは・・・・・・頭にイソギンチャクがついていませんね」2人に視線を向けたアズールは、彼らにイソギンチャクがついていないのに気づく。「今はスタッフ・ミーティング中です。部外者はご遠慮いただけますか?」と言うアズールに「グルル・・・・・・部外者だと?」ジャックは目を吊り上げた。ああ、嫌な予感がする。


「俺は、自分の力で勉強した奴らと真っ向から競い合って勝ちたかったんだ。それが、あんたらのせいで台無しになった。充分に当事者だろうが!」


ああ、意識高すぎて面倒くさいことになってきた。夜月はやってしまったと片手で額を抑え俯いた。。「ヨヅキ、ジャック、オレ様たちを助けに来てくれたんだゾ!?」目を輝かせるグリムに「勘違いすんなよ。俺は此処に居る全員が気に入らねぇんだ」とジャックが切り捨てる。「アコギな取引を持ち掛けたヤツも、他人を頼ったお前らも、どっちの見方をする気もねぇ!」怒鳴るジャックに「お前、何しにきたの?」とエースはこぼす。

「実力で勝負すればいい! つまり、アズールから実力行使で契約書を奪って破り捨てれば向こうなんだゾ!」ジャックの言葉を聞いてグリムがそんなことを言えば「言われてみれば・・・・・・」「こっちには人数がいるんだ! やっちまえ!」と周りの生徒たちがマジカルペンを取り出し始めた。こっちは逆に意識が低すぎる。これはまた乱闘騒ぎになる。


「やれやれ・・・‥あまり手荒な真似はしたくないんですが。ジェイド、フロイド。少し遊んであげなさい」
「かしこまりました」
「コイツら全員絞めていいの? あはっ、やった〜」


アズールが背後にいたジェイドとフロイドに言いつける。これを合図に、イソギンチャク集団に加えジャックとアズール、ジェイド、フロイドとの乱闘が始まった。けれど得意魔法を奪われた彼らに立ち向かえる相手でもなく。さらにアズールは強力ないろいろな魔法を使ってくる。よく見るとアズールが持っている金色の契約書が、エースたちの攻撃を全部弾いているように見えた。


「みなさんはこの『黄金きんの契約書』にサインをした。正式な契約書は、何人たりとも破棄できない」


「どんな魔法を使おうが、この契約書に傷ひとつつけることはできませんよ。フフフ・・・・・・」勝ち誇ったアズールが笑みをこぼす。頭にイソギンチャクが生えている限り、契約のもとアズールの命令に従わざるを得ない。「まずはラウンジの掃除をしてもらいましょうか。次に食材の仕込みを。さあ、立ち上がってキリキリ働きなさい!」目を吊り上げたアズールがイソギンチャクが生えた彼らに命令する。ジェイドやフロイドに促され、彼らは肩を落として言いつけ通りに動き始める。


「サバナクロー寮のジャック・ハウルくんにオンボロ寮のヨヅキ・ユウさん・・・・・・でしたね」


2人の前にやってきたアズールはひとりひとりに目を向ける。「君たちはどうぞお引き取りを。次はぜひ、お客様として店においでください。いつでも歓迎しますよ」ニコリと営業スマイルをむけるアズール。「グルル・・・・・・」気に入らないジャックは唸りを上げる。


「おい、ヨヅキ。いったん戻って仕切りなおすぞ」
「そうだね。一度帰ろうか」


ジャックと夜月はいったん、オクタヴィネル寮を出ることにした。