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xxi


昼休み、夜月は植物園にいた。今日の放課後に補習を受けるための材料を取りに来たのだ。必要なものをリストアップしたメモを見ながらあたりを見て探す。メモにあった植物を見つけると、そのすぐそばに見たことのあるものが目に入った。一目見ればわかる。あれは尻尾だ。しかも何度か見たことがある。ゆっくりと尻尾の主をたどって覗き込むと、昼寝をしているレオナがいた。以前此処を自分の縄張りとも言っていたし、いるのは当たり前だろう。

夜月はレオナを起こさないようにゆっくりと足音を忍ばせ、目的の薬草のそばにしゃがみ込んだ。他の薬草を手で避けながらはさみで切っていく。起きないうちに早く用事を終わらせて帰ろう、そう思った矢先だった。


「おい、なにしてる」
「――!!」


突然の声にビックリしてはさみを落としそうになる。おそるおそる後ろを振り返ると、寝っ転がって寝ていたレオナがひじを立ててこちらを気だるげに見つめていた。


「お、起こしました?」
「そんだけガサガサしてればな」
「すみません・・・・・・」


薬草の擦れる音やはさみの音で起きてしまったらしい。「補習で必要な材料を取りに来たんです。用が済んだらすぐに帰りますから、もう少しだけ待ってください」夜月は手もとに視線を戻し、再び薬草を切っていく。レオナはその様子を無言で眺めていた。

メモを見ながら必要な薬草を必要な分だけ切っていく。これだけ集めればいいだろう、余分に切ってしまうのはもったいない。集めた薬草を確認する。集めた薬祖を乗せたプレートに使っていたはさみを置いて帰る準備をしていると、自分に影が被って視界が一段と暗くなった。不思議に思って顔を上げると、離れていたところに居たレオナが至近距離にいて自分を見つめていた。


「レ、オナさん――!?」
「・・・・・・」


驚いて身体を硬直させた夜月をそっちのけで、レオナは夜月の頬に手を伸ばし指で撫でた。突然のレオナの行動に夜月は頭がパンクしそうになる。なんでこんなことをされているのだろうと、疑問が飛び交う。すぐ目の前にいるレオナの顔を見ることもできず、目を泳がす。「あ、の・・・・・・」小さな声で戸惑いながら言う夜月に「動くな」と一言だけ告げられる。レオナの視線は頬に向いていて、態度とは裏腹に優しい手つきで頬を撫でる。恥ずかしさとともにくすぐったい気持ちにもなって、夜月は黙ってこれが終わるのを待った。


「傷は残ってないな」
「え・・・・・・ああ」


頬から腕が遠のき、少しだけ距離が離れる。レオナの言葉に夜月は顔を上げて見つめたが、撫でられた場所に指をあてて納得した声をこぼす。マジカルシフト大会当日のあの一件で、夜月は頬に傷を作っていた。とはいっても擦り傷程度で傷も浅く、血もそんなに出ていない。「薄い傷でしたし、すぐに治りましたよ」あれぐらいなら後に残りませんと続けると「おんなが易々と傷作ってんじゃねえよ」と怒られる。意外と気にしてくれていたみたいだ。夜月は思わず笑みを浮かべる。

「それじゃあ、用も終わりましたのでこれで帰りますね」そう言ってプレートを持ち上げ立ち上がろうとすると「あぁ? なんの詫びもせずに帰る気かよ」と口端を上げ含んだ笑みを向けられた。


「俺はせっかくの昼寝を邪魔されたんだが?」
「え、っと・・・・・・」
「それに、この俺の尻尾を踏みつけられた詫びもされてねえしな」
「う・・・・・・」


ニヤニヤとした笑みでレオナは言う。謝っただけでは許してもらえないことぐらいわかっていたが、今付けが回ってくるとは。それでも自分のほうに非があるため、夜月は「何をしたら許してくれます?」とおそるおそるに聞く。そんな夜月を見詰めた後、レオナは膝に手をついて立ち上がるそぶりを見せた。しかし次の瞬間、夜月の視界がぐらりと揺れた。


「っわ! え、レオナさん!?」
「うるせえな、暴れんな」


レオナが立ち上がった時には、夜月はレオナによって担がれていた。突然の浮遊感と視界の反転に、夜月は驚きを隠せない。そんな夜月をほっぽって、レオナは自分が昼寝をしていた定位置に戻ると夜月を下ろし、自分はその膝を枕にして寝っ転がった。


「どうせ何にも出来ねえなら枕代わりぐらいにはなれ」


「俺を起こすんじゃねえぞ」とくぎを刺し、レオナは目をつむった。流れるように枕代わりにされた夜月は目を丸くしてレオナを見下ろす。目をつむったレオナはすでに寝息を立てて眠っていた。

夜月は眠ったレオナを見て息を吐く。これは午後の授業は出れないな。薬草は放課後に使うものだから、急ぎじゃない。たまにはこんな風にゆっくりするのもいいかもしれない、と膝で眠るレオナを見て思う。こなに近くでレオナを見るのは初めてだ。整った顔立ちをしているな、なんて呑気に思っているとふと頭に生えた耳に目が行った。ライオンの耳。それを見て触りたい欲求が出てくる。


「少しぐらい、いいかな・・・・・・」


眠っているのをいいことに、夜月はゆっくりと耳に手を伸ばした。毛並みが気持ちいい。本物の動物の耳と同じだ。獣人なんて向こうの世界ではありえないから、夜月は思わず感動した。あんまり撫でてると起こしてしまうし、名残惜しいが夜月は耳から手を離し、子ども寝かし付けるように優しくレオナの頭を撫でた。ちょうどいい気温と木漏れ日、伝わってくる体温に睡魔に襲われ、夜月はゆっくりと瞼を下ろした。


「・・・・・・」


レオナはおろしていた瞼を上げ、夜月を見上げた。日頃の疲れがたまっているせいか、夜月はすぐに意識を手放して眠ってしまった。木に背をもたれさせて眠る夜月は気持ちよさそうに寝息を立てる。「・・・・・・フ」眠った彼女の姿を見て、レオナは再び瞼おろした。


後日、レオナを探して植物園に来たラギーが2人の姿を見て面白そうにレオナを揶揄っていた。