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xvii


目を開けると、ぼんやりとした視界で自分を覗き込む影を見つけた。


「あっ、ヨヅキ! 目が覚めたんだゾ?」
「・・・・・・ん、あれ?」


起き上がって辺り見渡すと、此処は保健室だった。外はもう暗く、いつ間にか夜になっていた。「後半試合が始まってすぐ、グリムがぶん投げたディスクが頭に直撃して気絶したの。覚えてない?」状況を理解していない夜月にエースが説明する。なんとかんくそんな記憶がある。「超ロングシュートをきめてやろうと思ったんだけどな〜」などとのんきに言うグリムに「初心者が無茶な真似するからだ」とジャックはあきれる。「とにかく目を覚ましてよかった」デュースが安心したように言う。話を聞くと寝ている間に閉会式もとっくに終わってもう会場の撤収作業が始まっているみたいだ。大会はどうだったのかと聞くと、違うベッドから声が放たれる。


「チッ・・・・・・あいつら、マジでディスクじゃなくて俺たちを直接狙ってきやがって」
「おかげでディアソムニア寮と戦う頃にはオレたちヨレヨレ。結局優勝はディアソムニア寮ッスよ」


「この俺が昼寝以外で保健室のベッドを使うハメになるなんてな」「ディアソムニア寮生は1人もここに担ぎ込まれてないことがまた、腹立つッスねぇ」違うベッドにはレオナとラギーの姿があった。どうやら2人も此処に運び来られて来たらしい。「噂には聞いてたけど、マジでディアソムニアの寮長ハンパなかったわ」エースが大会を思い出してそんなことを言う。「そんなにすごいの?」と首をかしげる夜月に「ああ、凄かった。ヨヅキも観たら驚くはずだ」とデュースも頷く。


「来年は絶対ディアソムニア寮に勝って見せる。卑怯な手を使わず、俺の全力を尽くしてな」
「フン。卑怯な手だって、自分の力のうちだろ?」


ジャックの言葉に当たり前のように返すレオナ。「全然反省してない・・・・・・」とつぶやくように言って苦笑すると「反省? どこに反省の必要が?」とレオナはニヤリと笑った。


「今年の大会は、俺なりに全力を尽くした。来年もまた、勝つために全力を尽くすだけだ」
「シシシッ! さすがレオナさん、そうこなくっちゃ」
「先が思いやられるぜ・・・・・・」


ジャックはやれやれとした。「来年こそはトーナメント戦に出てやるんだゾ!」と息巻くグリム。「僕たちも選手枠として出られるように頑張らないとな」デュースがそういい「確かに。今年みたいに格好悪い目立ち方は、もう勘弁だわ」とエースも同意した。あまり覚えていないが、エキシビジョンマッチは酷い惨敗だったみたいだ。


「それはそうと、ヨヅキはもう少し身体を鍛えたほうが良いぞ」
「え?」


突然の話題の変化に、夜月は目を丸くしてデュースを見た。「細いし軽すぎだ」と心配げに気遣うデュースと「そうそう。お前、そんな顔してるし身体も小さいからさ、いつか絶対女だって間違われるぜ」と揶揄うエース。言葉に詰まってどうしよかと思っていると「は?」とレオナが目を丸くして小さく零した。それはラギーも同じだった。


「えっとー、エースくんたちは何を言ってるんスか?」
「え? なにって、何が?」

ラギーの言葉に不思議そうにするエース。「あ、あのラギー先輩」ジャックが状況を察してラギーの発言を止めようとしたが、レオナから放たれた言葉で無意味に終わる。


「どっからどう見ても、そいつはおんなだろうが」
「「は・・・・・・?」」


素っ頓狂な声が2人重なる。2人は夜月に視線を向けた。2人から視線を受けた夜月は言い逃れることもできず、気まずそうに誤魔化すように微笑みを浮かべた。


「「・・・・・・はああああ〜〜〜〜〜っ!!!!?」」


保健室に大きな2人の叫び声が響く。


「お、おお・・・・・・おんなあっ!!?」
「そんな、うそだろ・・・・・・っ!!?」


驚愕する2人は大きく目を見開いて夜月を見た。言葉が出ず、エースとデュースは口をパクパクと開閉させる。「あれ? もしかして・・・・・・気づいてなかったんスか?」シシシ、と2人を見て笑いをこらえるラギー。どうやらラギーにもいつの間にか見破られていたみたいだ。「馬鹿かよ、どうしたらコレが男に見えんだ」四六時中一緒にいといて気づかないのかよ、とレオナは呆れている。「いやっ、だっておまえっ! ここは男子校だぞ、なんで女がいんだよ!!」エースはビシッと夜月を指さして訴える。「そ、そんなこと言われても・・・・・・」夜月だって理由を聞かれても困る。

夜月はエースとデュースに男装していた理由を話した。何かの手違いで此処に来て生徒として通えるようになったが、そもそも此処は男子校。制服だって男子制服しかない。だから渡された制服は必然的にそれになる。男装を強要されたわけではないから無理に取り繕うとはせず、恰好だけある程度、とはいっても制服ぐらいだが男装していたと話す。

「お、おんな・・・・・・かんとくせいが、おんな・・・・・・」デュースは衝撃的な事実に、ボソボソとつぶやく。事情を聞いたエースはだんだんと顔を赤く染め、問い詰めるように夜月の両肩に掴みかかった。


「お前っ! 女だったらなそう言えよなっ! そしたら俺だって強引にお前のベッド使って寝ようとしなかったわっ!!」
「なあっ!? お前、なんてことしてるんだっ!!」
「男だと思ってたんだから仕方ねえだろ!」


泊まりに来たエースと何度か一緒のベッドで寝てしまったことがある。夜月は断ろうとしたのだが、エースの上手い強請りでベッドにあげてしまっていた。「あ・・・・・・全然思いつかなかった・・・・・・」そこで女であることを言えば良かったのか、と夜月は気づく。「おまえっ・・・・・・はあ〜〜・・・・・・」呑気に気づかなかったという夜月に続けて何かを言おうとしたが、言う気が失せたのかエースは深いため息を吐いて項垂れた。

「・・・・・・? ジャック、お前は驚かないのか?」横であまり驚いた様子を見せていないジャックにデュースは不思議に思って聞いてみる。「俺は・・・・・・わりと前から知ってた」ジャックは言いにくそうに頭をかいて事実を告げる。「そっ、そうなのか・・・・・・やはり野生の勘のせいか・・・・・・?」レオナ、ラギー、ジャックは気づいていたということにデュースは肩を落とす。


「ごめんなさい、隠してたわけじゃなかったんだけど・・・・・・あんまり口外しないほうがいいかなって・・・・・・」
「いや、こちらこそすまなかった。全然気づいてやれなくて」
「俺はぜってー謝んねえからな、隠してたお前が悪い!」


いまだ落ち込むデュースと拗ねるエース。入学当日からの付き合いであり、此処に来てからの友人だ。早めに2人には言っておいた方がよかったかもしれない。2人の様子にどうしようと苦笑いをしていると、保健室の扉が無遠慮に開かれた。


「あーっ! おじたん! やっと見つけた! レオナおじたん!」


そこにいたのは尻尾と耳が生えた小さい子供だった。「あ〜・・・・・・クソ。うるせぇのが来た」レオナは酷く面倒くさそうな声を上げる。「レオナ、おじ・・・・・・たん?」子供が放った言葉に目を見開くジャック。「この毛玉は兄貴の息子のチェカ・・・・・・俺の甥だ」レオナは仕方なさげにそう説明する。「お、甥〜〜!?」それを聞き、この場にいた全員が声を上げて叫んだ。この子供が、王位継承第一位。「お前、お付きのヤツらはどうした?」近寄ってくるチェカにレオナは聞く。「おじたんに早く会いたくてみんな置いてきちゃった。えへへ」チェカ嬉しそうに笑った。


「え・・・・・・っと。レオナ先輩の苦悩の種って・・・・・・」
「この子供、だね・・・・・・」
「しかもめちゃくちゃ懐かれてるんだゾ」


「ねえねえ、おじたん! 次はいつ帰ってくるの? 来週? その次? あっ、ボクのお手紙呼んでくれた?」グイグイとレオナに迫るチェカ。相当懐かれている。「あー、ホリデーには帰・・・・・・痛っ、おい、腹に乗るな!」あろうことはチェカはレオナの腹の上に馬乗りになる。大物だ。「プッ・・・・・・あはは! レオナさんが実家に帰りたがらないの、こういうことだったんスね」みんなそれぞれに笑いをこらえ、ラギーは腹を抱えて笑った。


「お、おじたんって・・・・・・アハハ! いでで、笑ったら傷に響く〜」
「てめーら笑ってんじゃねぇ! 後で覚えてろ・・・・・・!」