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xiv


「レオナさん、やりましたよ! 中継見てたッスか?」
「ああ、上出来だラギー。あばよマレウス、今年の王の座は俺がもらう」


コロシアムからサバナクロー寮のマジフト場へ移動し、レオナたちとラギーは合流した。中継でコロシアムの様子を見て、サバナクロー寮生は笑みを深めた。「へへ、王様バンザイ! シシシッ!」ラギーが最初に歓声を上げた。「王様バンザーイ!」それに続いて他の寮生たちも各々にレオナをたたえる。


「話は聞かせてもらったよ」
「――!?」


そこに現れたのはトレイを除くハーツラビュル寮生とジャック、そしてグリムと夜月。「これはこれは、ハーツラビュルの皆さんがお揃いで。それにそこにいるのはウチの1年坊じゃないか」余裕そうに笑うレオナはジャックに目を向けた。「ハーツラビュルに転寮したのか?」と問うレオナに「俺はただ、今のあんたたちと肩を並べたくねぇだけだ」とジャックははっきりと告げる。


「伝統ある試合を汚す行為。厳格をモットーとするハーツラビュル寮の寮長として、見逃すわけにはいかない」
「あのなぁ、お坊ちゃんがた。正義のヒーローごっこはよそでやってくれないか?」
「わざわざ敵のまっただ中に少人数で乗り込んでくるなんて、酔っちゃってるッスねぇ〜!」


クスクスとラギーは笑う。「レオナさん、やっちまいましょうよ!」そのうちサバナクロー寮生の誰かが声を上げた。口端を上げてニヤつく彼らは今にも飛びかかろうとこちらを余裕そうに見ている。それを合図に、たちまちサバナクロー寮生たちとの乱闘が始まった。

夜月は魔法も使えなければ腕っぷしだって当然強くない。グリムを抱いて隅の方に避難する。「『首をはねろオフ・ウィズ・ユアヘッド』!リドルが叫ぶとたちまち相手は首輪を嵌められ魔法を封じられる。」「ふん。口ほどでもない。エース、デュース。まだやれるね?」リドルは2人に目を向ける。「全然、ヨユー」「もちろんです!」エースやデュースは軽々と避けながら答えた。「チッ・・・・・・やっぱりこいつらじゃリドルの相手は無理か」自分の寮生たちを見てレオナは呟く。「でも、こんなことしたって、どうせディアソムニアの奴らはもう手遅れッス!」そうラギーが笑った時だった。


「ほほう? それは興味深い話じゃ」
「誰が手遅れだと?」
「俺たちディアソムニア寮の選手には怪我ひとつない。そいつらのおかげでな」


現れたのは五体満足のディアソムニア寮生の3人だった。「えっ!? あれっ!? お前らはさっき、群衆に飲み込まれたはず」ラギーやレオナは目を見開いて彼らを見た。「ざーねん! あれはオレのユニーク魔法『舞い散る手札スプリット・カード』で増えて変装したオレくんたちでした!」ディアソムニア寮生たちと一緒に現れたケイトはピースサインをだした。「なんだと?」レオナは眉をひそめる。「オイ、この茶番はどういうことだ?」と声を低くして党レオナにリリアが答えた。「リドルから話を聞いてな。ひと芝居うたせてもらった」笑みを含めながらリリアは言う。「じゃ、じゃあ・・・・・・マレウスは?」動揺を隠せないラギーは聞く。「もちろんご健在だ!」3人の中で一番大柄の人が目を吊り上げながら答える。群衆の混乱も、すべての観客をコロシアムまで魔法で誘導してくれたという。「そんなのアリッスか!?」ラギーは驚愕する。あんなに慎重に組み立てたはずの計画が思い通りに事が進まなかった。動揺するサバナクロー寮生たちの声に紛れて、低い声が透き通っていった。


「・・・・・・あー、もういい」


よどめくなか、レオナの面倒くさそうな声が響いた。「えっ?」思わずラギーは目を丸くしてレオナを見た。「やめだ。やめ」レオナは面倒くさそうに繰り返す。「ちょ、レオナさん? それってどういう・・・・・・」額に汗が滲む。ラギーは声を震わせながら問う。「バーカ。マレウスが五体満足で試合に出るなら俺たちに勝ち目があるワケねぇだろうが。俺は降りる」そういうレオナに「そ、そんな!」とラギーは叫んだ。


「オレたちの夢はどうなるんスか?」
「所詮は学生のお遊びだ。お前らが目ぇキラキラさせて夢語ってんのが可笑しくて、少し付き合ってやっただけだろ」
「オレたちで、世界をひっくり返すんじゃなかったんスか!?」


いつも飄々としていたラギーが明らかに怒りを露わにしていた。「うるせぇな」レオナは鬱陶しそうに目を細める。「お前はゴミ溜め育ちのハイエナで、俺は永遠に王になれない嫌われ者の第二王子! 何をしようが、それが覆ることは絶対にねぇ!」レオナは強くラギーに言う。覆ることなど絶対にありえないのだと。「ふざけんなよ! なんだよそれ! ここまで来て諦めるなんて・・・・・・」拳を作ってそれを震わせながらラギーは怒りに叫ぶ。それに続け、他の寮生たちもレオナに訴えをあげた。


「あぁ・・・・・・面倒くせぇ。黙れよ雑魚ども!」


その瞬間、何かが吹き荒れた。「な、なんだコレ? 鼻が乾く・・・・・・目がいてぇ!」グリムが目をかく。目も、喉も、肌も乾いていく。顔を上げると、レオナが触れたものがすべて砂へと変わっていった。「これが俺のユニーク魔法・・・・・・『王者の咆哮キングス・ロアー』」砂となって消えていくのを見詰めていた。「皮肉だろ? 何より干ばつを忌み嫌うサバンナの王子が持って生まれた魔法が、すべてを干上がらせ砂に変えちまうものだなんて!」レオナはまるで自嘲するかのように言った。


「レオナ・・・・・・さ・・・・・・っ苦し・・・・・・ッ!」
「――! 腕にひび割れが!」
「レオナ、それ以上はやめるんだ! 『首をはねろオフ・ウィズ・ユアヘッド』!」


レオナに腕を掴まれていたラギーは腕にひび割れが走った。触れたものはすべて干上がらせる。それは人も例外ではない。すぐさまリドルが魔法封じを放ったが、レオナはそれを弾いた。「秀才だかなんだか知らねぇが、年上をナメるなよ」レオナはきつく睨みつけた。「まずい、あのままじゃラギー先輩が!」ジャックが苦しむラギーを見て声を上げる。「早く止めないと!」このままではラギーの身が持たない。

「それほどの力があって、何故こんなことをする!」リドルはレオナに真正面から訴える。「何故・・・・・・? 理由なんて聞いてどうする。オレを叱って、慰めてくれるって?」はは、と乾いた笑みをこぼした。


「もうやめねぇか!! 『月夜を破る遠吠えアンリイッシュ・ビースト』!」


ジャックが声を上げた瞬間、ジャックの姿は消えかわりに大きな銀の狼がそこにあった。狼はレオナにめがけて飛びつき、対処しきれずレオナの身体がよろけた。「レオナに隙がついた! 『首をはねろオフ・ウィズ・ユアヘッド』!」レオナの隙を見逃さず、リドルはすぐさま魔法封じを放つ。レオナの首には首輪がはめられ、ラギーは腕を離されたその場に倒れこんだ。「早くこっちへ!」デュースが急いでラギーをレオナから引き離した。「ラギー先輩!」「がはっ! ゲホゲホッ・・・・・・!」すぐに運ばれたラギーのもとに駆け寄って傷の様子を見る。ひび割れはひどいもので、ラギーは苦しそうに咳をする。

「ジャック! テメェ変身薬なんてご禁制の魔法薬どこで手に入れた?」レオナがギロリとジャックを強く睨みつけた。「身体を狼に変化させる、俺のユニーク魔法だ!」狼の姿からいつものジャックの姿へと戻る。


「俺は・・・・・・俺は! あんたに憧れてこの学園を目指した! 俺の憧れたあんたは、どこにいっちまったんだ!?」
「勝手に俺に夢見てんじゃねぇ・・・・・・うぜぇな・・・・・・」


「お前らに何が分かる? 兄貴みてぇに俺に説教たれてんじゃねぇよ・・・・・・」レオナは低く低く唸る。声音や表情からも怒りがにじみ出ている。「サバンナの王者のライオンが聞いて呆れるわ」するといままで黙って様子を見ていたリリアが口を開く。「その程度の器で王になろうなどと・・・・・・我らが王、マレウスと張り合おうなどと、笑わせる。その腐った心根を捨てぬ限り、お主は真の王にはなれんだろうよ!」嘲るように、リリアはレオナを鼻で笑った。「はは・・・・・・あぁ、そうだな。そうだろうよ」


「俺は絶対に王になれない・・・・・・どれだけ努力しようがなぁ・・・・・・!」


どれだけ努力したって、覆せない。努力をしても、どんな成果を出しても、それを覆すことなんてできない。まるでそびえたつ高い高い壁のよう。絶対に越えられぬだと、壁は言うのだ。嘲るように、同情するように、興味のないように。別に同情をしているわけではない、共感しようとしているのでもない。ただ何をしても覆せないというレオナの叫びは、どこか覚えがあった。

全身に鳥肌が立つような感覚に襲われた。「なに、これ・・・・・・」思わず自分の腕を撫でおろす。「全身の毛がゾワゾワするんだゾ!」動物の勘なのか、それはグリムも他の人たちも同じだったようだ。「レオナの魔力が高まって・・・・・・っ」魔法封じが維持できず、リドルはなんかとしようと足掻く。「ちがう。これは魔力ではない。この邪悪な負のエネルギー・・・・・・まさか!」リリアがはっとなった次には、レオナは魔法封じを吹き飛ばしていた。


「俺は生まれた時から忌み嫌われ、居場所も未来もなく生きてきた。どんなに努力しても、絶対に報われることはない。その苦痛が、絶望が・・・・・・お前らにわかるかぁアアアアアッ!!」


黄色の宝石が、闇色に染まった。