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xiii


――なんだか、モヤモヤする夢だった。


「おい・・・・・・起きろ」
「んぅ・・・・・・?」


ドンドンドン、と部屋の扉を叩く音がして目を覚ます。ベッドから身を起こして扉のほうに目を向けた後、眠い目をこすって傍らに目を向けた。グリムはまだぐっすり夢の中みたいだ。再びドンドンと叩かれ、夜月はベッドから出て扉を開けた。するとそこには運動服を着たジャックがいる。「あれ、ジャック? どうしたの?」まだ眠い顔で問いかける。「朝のランニングついでだ。今日はマジカルシフト大会当日。寝坊されちゃたまらねぇからな」どうやら寝坊されないように起こしてくれたみたいだ。「そっか。ありがとう、助かるよ」夜月は朝が弱い方だ。起こしてくれるのはありがたい。


「フン・・・・・・じゃあ会場でな。二度寝すんじゃねぇぞ」
「わかってるよ。またあとでね」



△ ▼ △



「ふぁ〜〜! 見てみろヨヅキ! 食い物の出店がいっぱいなんだゾ!」
「本当だね、すごい量・・・・・・」


コロシアムに続く道にはすごい数の出店が出ていて、学園外からの観客もせわしく行き来していた。チュロスやフライドケーキ、スモークチキンなど美味しそうな食べ物の匂いが漂う。


「ちぇ〜。結局選抜選手になれなかった・・・・・・」
「同じく・・・・・・」
「そう落ち込まないで。来年があるよ」


選手枠に入れなくて2人は肩を落としていた。「だが、僕たちには今日大事な仕事がある。気を引き締めよう」デュースが気を取り直して言い「そーね。オレらはそっちを頑張りますか」とエースも顔を上げた。今日は作戦実行日。気を引き締めなければ。「あのタコ焼きって何なんだゾ? 食べたい、食べたい!」グリムは周りの出店に目を輝かせ、今にも飛び出して行ってしまいそうだった。「それはあとで。ほら、行くよグリム」グリムの首根っこを掴み、夜月たちは此処を後にする。



▼ △ ▼



『大変長らくお待たせしました。いよいよ選手の入場です!』


コロシアムを中心にアナウンスが流れる。『まずは去年の優勝寮! 君臨する閃光! ディアソムニア〜〜!!』アナウンスの声に、観客たちは声援や歓声やらをあげる。世界的に注目される行事というだけあって、それは派手なものだった。


「おー。すごい見物人の数ッスね。これだけいれば・・・・・・シシシッ!」


そんななか1人、ラギーは物陰から観客たちを見詰めていた。「まず、アズールくんからもらった魔法薬を・・・・・・」懐から出した瓶のふたを開け、一気に飲み干す。「なんだこの味、マッズ!」あまりの不味さに顔を歪める。腐ったシチューみたいな味がした。「気を取り直して。いくッスよ。オレのユニーク魔法とっておき!」ラギーは口端を上げた。


「さあ、ヌーの群れみたいにみんなで走れ! 『愚者の行進ラフ・ウィズ・ミー!


その瞬間、パレードにめがけて観客たちが突進をはじめた。「う、うわああ! 体が勝手に!」「逃げろ! 押しつぶされるぞ!」勝手に体が動き、観客たちは訳が分からない。猪突猛進する観客たちが、さらに他の観客を巻き込んで暴走している。「アズールくんの魔法薬、スゲー! こんな人数を同時に操れるなんて!」膨張した魔法に感動しつつ、疲れた身体を労わるように息を整える。


「さあ、一般人に向けて魔法撃てるっスか? 妖精族の王子様であるマレウス様は、使いたくても使えないっスよねえ!」


「さあ、潰されてしまえ! シシシッ!」パニック状態の観客たちはディアソムニア寮の選手団に向かっていく。ディアソムニア寮生はあっというまに観客たちの群れに飲み込まれ、無様に流されていった。


「やった・・・・・・大成功ッス!」


その様子を見届け、ラギーは足早にサバナクロー寮へと後戻りした。