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xii


ジャックとの勝負は、主に拳でのやりあいだった。とくにデュースとジャックが白熱し、そういうのが苦手なエースと夜月は途中から2人のやりあいを眺めていた。


「・・・・・・よし、これでケジメはつけた。俺の知ってることは話してやる」
「ケジメって、なんのケジメだよ」
「俺自身の心のケジメだ。所属寮を裏切ることには違いねぇからな」


「だが、俺はもう我慢ならねぇ!!」ジャックは怒りを貯めていたのか、こぶしをふるふると震わせた。どんなに強い相手だろうが、自分自身の力で挑んでこその勝負だ。今回のマジカルシフト大会だって、自分がどこまでやれるのか挑戦するつもりで鍛えてきた。卑怯な小細工なんて反吐が出る。そんな勝負になんの意味がある。自分自身の力で勝ち上がってテッペン獲ってやりたかったんだとジャックは話す。

「あ、こいつスゲー面倒くさい奴だ」エースがうわ、と声を出す。「あくまで自分のためなんだ」この学園、きっと他人のためとかいう人絶対いないな。「俺は分かるぞ! その気持ち!」1人だけデュースがジャックに共感を示す。


「ラギー先輩のユニーク魔法は、『相手に自分と同じ動きをさせることができる』ものだ」


操りたい相手と同じ動きをすることによって、本人の不注意に見せかけて事故を起こしてきた。だから食堂でグリムと同じ動きをしてパンを交換したのだ。「でも、待てよ」ターゲットのそばで階段から飛び降りるような動きをしたら、すぐに怪しまれるのではないかとデュースは言う。夜月も頷いた。「ラギー先輩が単独でやってるわけじゃない。おそらくサバナクロー寮の奴らほとんどがグルだ」寮生たちがラギーの壁になって目立たせないように誤魔化しているようだ。寮ぐるみの犯行となると、面倒だ。

「オレが特に気に入らねえのは寮長、レオナ・キングスカラーだ!」ジャックは目を吊り上げる。実力があるはずなのにちっとも本気を出さない。せっかく持っている力を何故磨かない。ジャックはそういうやつが一番嫌いだと言う。3年前、レオナが大会で見せたプレイは本当にすごかった。だから同じ学園、同じ寮に入れて、本気でレオナとマジフトの試合がやれると思っていたのに。ジャックは拳を震わせる。
「あのさー・・・・・・ヨヅキ」そんな様子を見て、エースはそっと夜月に耳打ちする。


「こいつ、さっきからずっと自分トコの寮長に文句言っているようでいて・・・・・・」
「実はすごく尊敬してたみたいだね・・・・・・」


ジャックは続ける。「今までの事件は、奴らにとって行きがけの駄賃みたいなものだ。もっと大きなことを目論んでる」デュースが聞き返す。「大きなこと?」ジャックは頷いた。「ディアソムニア寮寮長、マレウス・ドラコニアだ」話に聞くと、彼は2年連続ディアソムニア寮を優勝に導いたらしい。そのせいでサバナクロー寮は無得点のままトーナメント初戦敗退。優勝常連寮にとっては悔しいだろう。先輩たちはそれに恨みを持っているという。


「大会当日に、ディアソムニア寮に何か仕掛けるつもりってことね」
「そうだ。だから、俺はその計画をぶっ潰す!」
「話は聞かせてもらったよ」


そこにはリドルとケイトの姿があった。どうやら追い付いた後、こっそり話を聞いていたみたいだ。「今までのラギーの犯行に証拠がない以上、断罪することはできない」とリドルは言う。「つまり犯行現場を押さえるっきゃない、ってこと?」というエースに「ボクに少し考えがある。まずは・・・・・・」とリドルは話を続けようとするが「待て。知ってる情報を話はしたが、俺はお前らとツルむつもりはねぇ」とジャックに切り捨てられる。「え〜、ここにきてそれ言う〜?」ケイトが苦笑した。


「自分の寮の落とし前は自分でつける。じゃあな」
「でも、今までの事件も止められてないよね?」
「・・・・・・あ?」
「そう睨まないでよ、事実を言ってるだけよ」
「・・・・・・」


すぐさま帰ろうとするジャックを夜月が引き留めた。ジャックは夜月の言葉に言い返せず、すごむまま無言だった。「ひ、久々に出たんだゾ・・・・・・ヨヅキのグサッと刺さる一言・・・・・・」グリムがぼそりと呟く。「確かに1人対寮全員じゃ、勝算が低いよな」とデュースが言った。


「一匹狼もいいけど、賢い狼は群れで狩りをするものよ」
「・・・・・・いいだろう。話くらいは聞いてやる」


ニッコリと笑う夜月にジャックは沈黙を置いた後に頷いた。「だが。もし気に食わねぇ作戦だったら、俺は抜けるぜ」というジャックに夜月はわかったと頷く。それを見て、リドルは先ほどの話を進めた。「じゃあ、さっきの話の続きをするよ。まず・・・・・・」



▲ ▽ ▲



「なるほどね。いーんじゃね?」
「さすがローズハート寮長です」
「んじゃ、オレは当日までにいろいろ根回ししとくね」
「頼んだよ」


「どう? ジャック」リドルの作戦を聞き、夜月はジャックを覗き込む。「・・・・・・卑怯な作戦ではなかった。今回は、協力してやってもいい」頭をガシガシとかいて、目をそらしながらジャックは言った。「コイツ、いちいち素直じゃねぇんだゾ」グリムが一言零す。よろしくねという夜月に、ジャックは小さく答えた。

「じゃ、今日のとこは長に帰ろうぜ。じゃぁ、もうクタクタ」「オレ様も腹が減ったんだゾ」疲れた顔をするエースとグリム。それじゃあ帰ろうかと言おうとしたとき「そうだ、1年生たち」とリドルが引き留めた。「今回は情報提供に免じて、校則第6条『学園内での私闘を禁ず』の違反を見逃してあげるけれど・・・・・・」


「次に見つけたら全員首をはねてしまうよ。おわかりだね?」
「「はい、すみません」」
「ごめんなさい」
「・・・・・・ッス」
「よろしい。では、寮に戻ろう」


リドルとケイトは踵を返した。「弱っちそうだと思ったが、お前らのところの寮長こえーな」小さく言うジャックに「そーだよ。か弱いハリネズミと見せかけて、超攻撃型ヤマアラシだから。マジで逆らわないほうが良いぜ」とエースは耳打ちする。経験者は語る、といったところか。

「さ、私たちも寮に戻ろ」と手を叩いた夜月。話し込んでいたエースたちも踵を返し、リドルたちの後を追う。夜月も帰ろうとしたその時「・・・・・・おい」と腕を掴まれた。「どうかした?」振り返って首をかしげればジャックは手を放してどう話を切り出そうかと目を泳がす。


「お前からは、他の奴らとは違う匂いがする」
「におい?」
「この学園の奴らからはしないような・・・・・・」


曖昧な言い方をするジャック。獣人のジャックは聴覚も良ければ臭覚もいい。だからそんなことを言うのだろう。けれど一体何の匂いなのか、夜月にはわからない。変なにおいでもするのかな。それとも、以前レオナに言われたように魔力の匂いがしないって意味なのかな。そんなことを思っていると、ジャックはしどろもどろになりながら口を開いた。


「お前・・・・・・おんなじゃないか?」


すぐには言い返せず、夜月は目を丸くしてジャックを見上げた。少しの沈黙が流れると「おーい、お前ら帰んねーの?」「ヨヅキ、早く帰るんだゾー!」と先に行ったエースとグリムが声をかけてきた。今行くよ、と答え夜月はそちらに足を向けた。「ジャック」数歩歩いた後、夜月は再びジャックに振り返りそっと人差し指を立て唇に当てた。


「みんなには、ナイショね?」
「――! お、おう。わかった」


ピンと耳を立てたジャック。夜月はジャックに一笑し、この場を後にした。