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ix


――また、夢だ。


「そういやオマエ、昨日の夜どっかでかけてたのか?」朝、学園に登校するためメインストリートを歩いていると、唐突にグリムが問いかけてきた。


「外の空気を吸いに行ったんだ。そしたら頭に角が生えた人と会ったよ」
「ほぇー。名前は?」
「好きな名前で呼べって言われて、教えてくれなかったよ」


好きな名前で呼べと言われても、困ってしまう。どうしようと悩んでいると「うーん、じゃあ‥・・・『ツノ太郎』なんてどうだ?」とグリムが提案する。「うーん、流石に怒る気が・・・・・・」夜月は苦笑した。「好きに白って言ったなら、怒る資格はねぇんだゾ!」グリムは腕を組んで言う。それもたしかにそうだ。


「おはおはー、ヨヅキちゃん」
「ケイト先輩、リドル先輩。おはようございます」


そこには登校中のケイトとリドルの姿があった。挨拶をして会釈をすると、リドルは何かに気づき夜月に歩み寄った。「ん。キミ、少しタイが曲がっているよ」リドルの言葉に自分のネクタイを見下ろす。「ルールの乱れは衣服の乱れからだ。監督生がそれでは示しがつかないよ」リドルはおもむろに手を伸ばし、夜月のネクタイをほどいた。慣れた手つきで結びなおし「うん、これでよし」と満足そうに笑みを浮かべる。ネクタイはリドルと同じリボンに結ばれていた。


「キミにはこちらの方が似合っている」
「ありがとうございます。次からリボンにしてみますね」


「そういえば、エースとデュースはいないんですか?」と姿の見えない2人について聞くと、ハートの女王の法律第249条にのっとってピンクの服でフラミンゴの餌やり当番をしているらしい。エースは似合いそうな気がするが、デュースがピンク色の服を着ているイメージはあまりないな。


「ところで、昨晩またひとり怪我人が出たらしい」
「ふな”っ!?」
「またですか」


ケイトが言うには目撃していた肖像画の情報によると、怪我をしたのはスカラビア寮の2年生。ジャミル・バイパー。調理室で事故に遭ったらしい。肖像画を監視カメラ代わりにするとは、さすが魔法学校といえる。「今なら朝食の時間だし、大食堂にいるかもしれない。行ってみよう」リドルの言葉に頷き、足早に4人は大食堂へと向かった。



▲ ▽ ▲



大食堂には朝食の時間というのもあって、多くの生徒が集まっていた。ケイトの情報によると、ジャミルは色黒で長い黒髪らしい。あたりを見渡して探していると、頭にターバンを巻いた生徒の隣にそれらしき人を見つける。

「オマエ、昨日調理室で怪我したヤツだろ?」その人に近寄るとグリムが最初に声をかけた。「はぁ? 急に何なんだ、あんたら」ジャミルは怪訝そうに見つめる。「あ〜っ! この狸、入学式でオレの尻燃やしたヤツ!」グリムを見て隣の人は指さして叫んだ。「すまないね、朝食中に」リドルは突然の訪問に謝罪を述べる。


「ハーツラビュル寮長と、入学式で暴れた狸。あっはっは! なんか面白い取り合わせだな」
「オレ様は狸じゃねえ、グリム様だ! んで、コイツはヨヅキなんだゾ」
「オンボロ寮の監督生になったヨヅキです。よろしくお願いします」
「そうか! オレはスカラビア寮寮長のカリム。こっちは副寮長のジャミルだ。よろしくな」


カリムはそう笑顔で言う。気さくな人みたいだ。同時にこちらのペースを乱してくるような感じもする。


「・・・・・・で? 何故俺が怪我した話を聞きに?」
「学園長に頼まれていて」
「学園長が? ふーん・・・・・・まあ、いいだろう」


カリムとは対照的に怪訝そうに見つめてくるジャミルに端的に事情を説明すれば、事故のことを話してくれた。昨日の夜、ジャミルはカリムに頼まれて調理室で夜食の羊肉の揚げ饅頭を作っていた。その時、具材を細かく刻んでいた時になぜか手もとが狂って手を傷つけてしまった。マジフトの練習で疲れていたのか聞くカリムに、ジャミルはその程度で手もとを狂わせたりはしないという。ジャミルは調理中に一瞬、意識が遠くなったような感覚があったという。


「めまい、ですか」
「殆どの奴らはそう思うだろうが・・・・・・オレにはあの感覚に少し覚えがある。おそらく、ユニーク魔法の一種だ」


それを聞いて、リドルたちは顔を強張らせた。「そっか、ジャミルのユニーク魔法は・・・・・・フガ!」何かを言おうとしたカリムの口をふさぎ「今は俺の話はいいから」とくぎを刺す。「とにかく、犯人が使ったのは相手の行動を制御できるような魔法だと思う」「なるほどね〜」ケイトが納得したように相槌を打った。


「だから目撃者には本人の不注意にしか見えなかったんですね」
「もしそれが一瞬のことなら、被害者自身も判別がつかないかもしれない」
「てか、そんな魔法・・・・・・犯人を捜すの無理ゲーじゃん。どうする?」


「人を操る魔法・・・・・・」ケイトの言う通り、そんな魔法を使う人を探すのは困難だ。どうしたものかと3人が唸っているとグリムが呑気なことを言いだす。「オレ様もそれを習得すれば、デラックスメンチカツサンドも食べ放題・・・・・・ん?」だがどこか思い当たる節があって、グリムは首を傾げた。「・・・・・・あれ? そういえば学食で・・・・・・」グリムの言葉で、夜月もあれ、と首をかしげる。そういえば、先日の学食でグリムは確か・・・・・・夜月とグリムは顔を見合わせ、目を丸くした。


「あ〜〜〜っ!!」
「なんだ!? 急に大声出して」
「オレ様、知ってるんだゾ! そのユニーク魔法使うヤツ!」


「なんだって?」グリムの言葉にリドルは眉を潜める。「犯人はきっとラギー・ブッチです!」続けて慌てて夜月が言い出した。あの時、グリムは渡すつもりはなかったのにパンを差し出した。きっと間違いない。「ラギーって・・・・・・サバナクロー寮の」ケイトは目を丸くする。「捕まえて話を聞きだそう」リドルは早々に指示を出し始める。


「ええっと、ラギー・ブッチくんは2年B組だね」
「2人とも、ご協力感謝する!」
「失礼します!」


4人は足早にラギーの教室へと向かった。