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viii


夜になりベッドに入ってしばらく時間がたったが、いまだに眠れない。グリムはベッドの隅に身体を丸めて寝言をつぶやいている。本当に目がさえてしまった。夜月はベッドから出て寒くないよう上着を羽織って気分転換に外の空気を吸いに行った。外に出ると、冷たい風が無遠慮に吹き付けてくる。
やっぱり、夜の外は冷えるな。


「・・・・・・ん? そこにいるのは誰だ?」
「――!」


夜中に突然声をかけられ夜月はビクリと肩を揺らした。おそるおそる声のした方を振り向くと、制服を身に着けている高身長の男の人がいた。紋章の色は黄緑色だ。たしか、ディアソムニア寮だったはず。


「これは驚いた。お前、人の子か」


その人は夜月の姿を見て呟く。なんだか不思議な雰囲気を放つ人だ。なにより目を引いたのが、頭に生える2本の角だ。動物の角というより、おとぎ話に出てくるようなドラゴンの黒い角に似ている気がする。「オマエ、此処に住んでいるのか? この館にはもう長いこと廃墟だったはず」その人はオンボロ寮を見詰めていう。


「独りで静かに過ごせる僕だけの場所として気に入っていたのだがな」


残念だ、とその人は言う。


「あなたは、誰ですか」
「誰って・・・・・僕のことを知らないのか? 本当に?」


「・・・・・・ふぅん、そうか。それはそれは・・・・・・珍しいな」一瞬驚いた様子を見せ、見開いた眼を徐々に細め怪しく口端を上げた。問いかける夜月のしばらく見つめた後、その人は口を開く。


「オマエ、名前はなんという」
「悠・・・・・・あ、ヨヅキ・ユウです。この寮の監督生をしています」
「ふむ・・・・・・珍しい響きの名だ。僕は・・・・・・」


しかしその後に続く言葉はなかった。「いや、やめておこう。聞かないほうがお前のためだ」目を細めて夜月を見下ろす。「知ってしまえば、肌に霜が降りる心地がするだろう。世間知らずに免じて、好きな名前で呼ぶことを許す」喉でクツクツと笑う。その様は妖艶で、とても綺麗にも見えた。「それにしても・・・・・・」


「人が住み着いてしまったということは、もうこの廃墟は廃墟ではない。残念だ」
「ごめんなさい、住む場所が此処しかなくて」
「まあいい。では、僕はこれで」



次の瞬間にはその人の姿はどこにも無かった。魔法を使ったのだろう。どこにも見当たらないその人を探して辺りを見渡したが、鬱蒼とした風景しかない。夢みたいな不思議な感覚だ。ヒューと冷たい風が吹く。夜月は身を震わせ、寮へと踵を返した。