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vii


リーチ兄弟から逃げた後、リドルはいったん寮に戻ると言ってハーツラビュル寮に戻っていった。リドルと別れた5人は本日最後の標的になりそうな人を尋ねに、サバナクロー寮へと足を踏み入れた。


「おぉ〜、ここがサバナクロー寮か」
「すごい野性的だね」
「ウチの寮とは全然雰囲気が違うな」
「それなー。なんか、空間そのものがワイルドだよね〜」


サバナクロー寮の外観を見てエースや夜月たちは言葉を零した。「で、ジャックだっけ? どんな奴なんスか?」エースがケイトに聞く。特徴は褐色肌に銀髪でオオカミっぽい耳とフサフサの尻尾が生えているという。あたりを見渡してみると「おっ、アイツじゃねーか?」とグリムが遠くを指した。「ビンゴ! グリちゃんお手柄」ケイトはそれを見て頷く。

大きな身体つきをした男子生徒だった。背も高く、すごく男性的な人だ。「ヨヅキちゃん、緊張してる? オッケー、ダイジョウブ、リラ〜ックス!」夜月の様子に気づいたケイトが安心させるように声をかけ、肩に手を置いた。「いきなり噛みついてきても守ってあげるからさ」ウィンクをして夜月に笑いかけるケイトに「ありがとうございます、ケイト先輩」といつも通りの笑顔を向けた。


「オイ、そこのツンツン頭!」
「・・・・・・あ?」


「オマエが悪い奴に狙われてるかもしれねぇから、オレ様たちが守ってやるんだゾ!」グリムは上から目線な物言いで声をかける。「なんだ? てめーは。走り込みの邪魔すんじゃねぇよ」ジャックはそういってグリムを睨みつける。「グリム!」咄嗟にグリムを抱き上げ「あ〜あ〜」とエースは呆れ「話しかけ方に問題アリすぎでしょ!」とケイトがグリムの口をふさいだ。


「いきなり何なんだ、テメェら。この俺を守る、だと?」
「実は、マジカルシフト大会の選手候補が怪我をさせられる事件が多発しているんだ」
「で、オレたちはその犯人を捜してるんだけど」
「それとオレに何の関係が?」
「それで、次に狙われそうな人をマークして犯人が現れるのを待つ作戦をしてて」
「どお? ちょっと俺たちに協力してくんないかな?」


少しだけ間を置いた後「断る。俺は1人でなんとかできるし、お前らに守ってもらう必要はねぇ」と吐き捨てる。「でも、1人だと危ないかもしれないし」引かずに控えめに夜月は言葉をかけるが「・・・・・・いらねぇって言ってんだろ」と一言睨みつけながら繰り返す。それに、とジャックは小さく零す。


「俺が狙われることは、多分・・・・・・ない」
「え?」
「じゃあな」
「あ・・・・・・」


小さくつぶやいた後、ジャックは踵を返してどこかへ行ってしまった。「なんかぶっきらぼうでカンジの悪いヤツだったんだゾ」というグリムに「あの話の振り方じゃ、誰でもムッとするだろ」とエースは言う。機嫌を損ねてしまっただろうか、など思っていると数人のサバナクロー寮生が5人に近づいていた。

「おい、お前らそこで何してんだよ」柄の悪い男子が1人声をかけた。「俺たちの縄張りにずかずか踏み込んできて、無事で帰れると思ってねぇだろうなぁ?」他の男子が下に見るように言う。これは絡まれるパターンだ。「あ、もう帰るんで! お邪魔しました〜」エースたちもそれを察してすぐさま寮を出ようとするが、絡んできた数人の男子に足止めを食らう。


「やめとけお前ら」


そこに現れたのは以前植物園で出会った人と先日の大食堂で声をかけてきた人だった。「レオナ寮長!」と1人の男子が言う。どうやら彼は寮長だったようだ。すると、彼の隣にいた大食堂での人と目が合った。「ん? あれ、アンタ・・・・・・」少しだけ目を丸くして、小さく呟いた。「ああっ、オマエ! デラックスメンチカツサンド!」グリムが彼を指さして叫ぶ。「ちょっとちょっと、オレにはラギー・ブッチっていう男らしい名前がついてんスけど」ふと視線をそらしたレオナと目が合う。


「あぁ。よく見ればお前、植物園でこの俺の尻尾を踏んづけた草食動物じゃねぇか」
「あ・・・・・・えっと・・・・・・」
「あ、そっか。どこかで会ったと思ったんスけど植物園だったんすね」


肩をすくませ縮こまりながら「その節は、ごめんなさい・・・・・・」と小さく言う。が、取り巻きの男子生徒に怒鳴られ夜月はさらに身を縮ませた。すぐに喧嘩を始めそうな寮生を一言でレオナは止める。「暴力沙汰なんか起こして、マジフト大会出場停止にでもなったらどうする気だ」面倒そうに言うレオナに見逃すのかと男子が言うと「ここは穏便に、マジカルシフトで可愛がってやろうぜ」と怪しく口端を上げた。


「試合中ならどれだけ魔法を使っても校則違反にはならねぇからな」
「シシシッ!こんな弱そうな奴ら、ワンゲームと持たないっすよ」


嫌な予感がする。笑われたことに腹を立て、グリムを筆頭にまた厄介なことに巻き込まれる。


「そこまで言われちゃ引き下がれねぇんだゾ!」
「断って帰れる雰囲気でもないな」
「いっちょやってやろうじゃん。ケイト先輩! 選手選びの件、忘れないでよね」
「え〜、ったくしょうがないな〜」


結局面倒ごとに巻き込まれてしまった。すっかり試合をする気満々の彼らを見て、夜月は1人肩を落とす。「ヨヅキちゃんは安全なところで見てて。相手チームの動きをよく見て、オレたちに教えてね」夜月は魔法も使えないため参加はできない。ケイトの言葉に頷き、マジフトをするために場所を変えに歩き出した。



△ ▼ △



試合は完敗だった。こちら側は1点も入らず、隙のないフォーメーションに勝ち目などなく。さすが運動神経のいい生徒が集まるサバナクロー寮というべきか。ケイトが言うには、レオナは昔から天才司令塔として有名だったらしい。確かに見ているとレオナの指示は的確で正確だった。


「シシシッ! さっきの威勢の良さはどうしたんスか?」
「ほら、立てよ草食動物ども。もうワンゲームといこうぜ」


彼らは余裕そうに泥だらけで汗だくになって地面に座り込む4人を見下ろす。これはどう見ても暴力行為だ。夜月がそう声を上げようと口を開こうとしたときジャックが言葉を被せてきた。「何してんスか、あんたら」と聞くジャック。「初心者いたぶって何が楽しいんスか」続けるジャックに「なーにぃ? ジャックくん。正義のヒーローみたいでカッコイイッスねぇ」とラギーはクスクス笑いながら煽るように言う。「俺はただ、みっともなくて見てられねぇって言ってるだけっす」ジャックは負けずに言い返す。


「まあいい、もう飽きた。行くぞ、ラギー」
「ウィーッス」


ジャックの言葉にしらけ、レオナたちはこの場を後にする。彼らの姿が見えなくなったころ、夜月は助けてくれたジャックを見上げお礼を言った。


「ありがとう、助けてくれて」
「別に。お前らを助けたわけじゃねぇ」


ぶっきらぼうに答えるジャック。泥だらけだし汗だく、お腹もすいたということで今日は帰ろうかという意見に賛成し、5人はジャックと別れて寮を出て、それぞれの寮に帰っていった。