×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






20


数日後。ハーツラビュル寮で再び『なんでもない日』のパーティが開催された。拍手と歓声とともに現れたリドルもいつも通りの様子で、体調に問題はなさそうだ。


「はーぁ。結局庭の片づけとか今回の準備とか、全部オレらがやらされたんだけど?」
「まあまあ、いいじゃないエース」
「寮長の体調も何事もなく回復したわけだし」

エースのぼやきに2人で答える。
パーティが始まり、リドルの言葉で乾杯がなされる。するとエースはリドルの元へ向かい、先日自分が言ったことを問いかけた。


「で、寮長の詫びのタルトは結局どうなったの?」
「ち、ちゃんと作ってきてるよ」


「この苺のタルトはボクが作った」お皿に乗せられたタルトをリドルが手に取り、エースに差し出す。「初めてにしては上出来じゃないか」トレイの言う通り、形は不格好だが苺のつやを出すナパージュを塗るひと手間もかけている。美味しそうな苺タルトだ。


「わあ、美味しそう!」
「んじゃ、いただきますーす!」


夜月やエースやデュースそしてグリム、ケイトやトレイもその苺タルトを一斉に口に含んだ。「ん!?」口に含んだエースが声を上げる。「こ、これは・・・・・・」苺タルトのはずなのに、ひどくしょっぱい。「なんだこりゃ!? めちゃくちゃしょっぱい! 何入れたらこうなるワケ!?」エースが続けて叫ぶ。「塩・・・・・・じゃ、ないね」夜月が言う。「もしかして・・・・・・オイスターソース」ハッと思いついたデュース。


「だってトレイが昔、美味しいタルトには絶対隠し味にオイスターソースが入ってるって」
「んなわけねーだろ!」


確か以前もトレイにそういう冗談を吐かれたことがあったな。「しかもこれ、隠し味って量のしょっぱさじゃないよね」ケイトが口にする。「どれくらい入れたんですか」と問う夜月に「適量とか言われてもわからないだろう?」とリドルは小さく言った。


「プッ、あはは! 本当に入れる奴がいたなんて・・・・・・あはは!」
「・・・・・・あは、そうだね。馬鹿だな、ボク‥・・・あはは!」


「なんかこれはこれで美味しい気がしてきたんだゾ!」グリムはそういってガツガツとタルトを食べていく。「あ、それわかるかも」と同意するケイトにエースやデュースは少し引いていた。「このタルトは甘くないから悪くない、だろ?」トレイはそう補足を入れた。


「お前、甘いもの嫌いだもんな」
「え、そうなんですか?」
「えっ、トレイくん、何で知ってんの?」


驚くケイトに、トレイはユニーク魔法の話を持ち出すふりをして味を返させていたのではないか、甘いものが苦手なのではないかという。まんまと見破られていて、今度はケイトでも食べれそうなキッシュを焼いてきてくれるという。

「ふんふふーん。トレイのお菓子はいつ食べても絶品だにゃあ〜」すると突然パーティにチェーニャが現れた。どうやらチェーニャとトレイとリドルの3人は幼馴染のようだ。話に聞くと、チェーニャはナイトレイブンカレッジの長年のライバル学校ロイヤルソードアカデミーの生徒だという。それを知った途端、周りの生徒が急に殺気を出しはじめた。100年も延々と負け続けているため、ナイトレイブンカレッジ生は高確率で彼らを敵視しているみたいだ。それに気づき、すぐさまチェーニャは姿を消しどこかへ行ってしまった。


「お祝いの日にそんな暗い話はナシ! 今日は『なんでもない日』のパーティを楽しうよ」


ケイトの言葉に頷き、みんな好き好きにパーティを楽しんだ。あの事件以降リドルは以前より大分寛容になり、寮生たちは安心した。それでも厳しいことには変わりないが、前ほどの恐怖は消え去っていた。

「監督生」エースやデュースたちを横目に眺めながらケーキを食べようとしているとリドルに話しかけられた。「リドル先輩、どうかしましたか?」そう聞くと、リドルは言いにくそうに「先日のことで、キミにも謝りたくて・・・・・・」と顔をうつ向かせた。


「すまなかった。キミや、キミのご両親のことを酷く言ってしまった」
「気にしてませんよ」
「しかし・・・・・・」


笑顔を向ける夜月にリドルはそれでもと言葉を続けるが、夜月が笑って平気だと言い続けるとリドルもつられて微笑みを浮かべ、わかったと頷いた。これでリドルは先日の心残りをすべて払拭できただろう。


「キミもタルトをお食べ。好きな味はなんだい?」
「うーん、チーズですかね」
「無難だね」
「結局無難なものに落ち着いてしまうんです」


目の前のケーキに目を輝かせながら頬を緩ませる夜月にリドルは「そうだね」と微笑んだ。