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19


「ハーツラビュル寮の件に巻き込まれたようだな」


クルーウェルの言葉に目を丸くした。「手が止まっているぞ」厳しい声にハッとなって思わず止めてしまっていた手を動かし、釜の中をかきまわした。今は放課後で、クルーウェルの授業の補習中だ。魔法が使えないため授業であまり上手くいかず、できないなりに頑張ろうと図書室などで一人勉強していたのを発見され、補習を開いてくれた。

完成した液体を小瓶に移してクルーウェルに渡す。小瓶を掲げ色などを確認すると「Good girl!」と笑みを見せる。よかったと安心し、白衣やゴーグルや手袋を脱ぐ。手袋を外すと、先日手当てしてもらった手首の包帯が見える。


「怪我を見せろ」
「手当てはしてあるので平気ですよ」
「いいから見せろ」


差し出してくる手に従い、包帯を巻かれていたほうの手を出す。まかれていた包帯を丁寧にとって、怪我の様子を確認する。包帯の下にはあざが出来上がっていた。デュースの言う通り、時間がたってから痛みが増し痣までできてしまっていた。「痛みは?」怪我に視線を落としながら問いかけてくる。「少し」そういう夜月に「医務室へは行ったのか?」と続ける。医務室にまだ行っていなかった夜月は黙り込み、クルーウェルは深いため息を落として「ステイ、そこで待っていろ」と手を放して背を向いた。

部屋にある小瓶がたくさん並んだ棚を漁り、一つの小瓶を手にして戻ってくる。片手の赤い手袋を外し、小瓶に入ったクリーム状のものを指で吸い上げ、痣に塗り込んだ。


「炎症を抑えるものだ、痛みもすぐに引く」
「ありがとうございます」


薬を塗り終えると、外された包帯をまた丁寧に巻き直す。小瓶のふたを閉め、外していた手袋をつけなおした。


「飼い主の許可なく怪我をするなよ、仔犬」
「かいぬし・・・・・・」


何か文句でもあるのかとでもいうように眉を吊り上げるクルーウェルに、夜月は慌てて何もありませんと首を振った。フ、と笑みをこぼして「もう行っていいぞ」という彼に補習や手当のお礼に一礼し、夜月は教室を後にした。



◆ ◇ ◆



「いた、ヨヅキ」
「あ、トレイ先輩」


教室から出て廊下を少し歩いたところで、夜月を探していたトレイに話しかけられる。「なんですか?」と疑問を浮かべる夜月に、トレイは笑顔を浮かべて片手に持ったケーキ箱を掲げた。「前言ってた約束だ」


「タルトを焼いてきたんだ、受け取ってくれ」
「本当に作ってくれたんですか!」
「お前が言ったんだろ?」


箱を受け取り目を輝かせる夜月を見下ろし、トレイはクスクスと笑みをこぼした。今すぐ食べていいかと言う夜月に、大食堂にならお皿とフォークもあるからと言い、2人は大食堂に足を運んだ。

昼時には賑わう大食堂だが、放課後の今は人が少ない。席に座ってていいというトレイに甘え、夜月は席に座ってトレイを待った。お皿とフォークを持ってきたトレイはタルトを切り取ってお皿に乗せ、夜月に渡す。


「さあ、チーズタルトを召し上がれ」
「いただきます」


以前好きなものを聞かれたときに言ったチーズタルトだった。夜月はチーズタルトを口に含む。濃厚なチーズとそれを邪魔しない甘い味がした。クッキーの部分もちょうどいい具合に焼けていて、香ばしい。


「甘いものが好きそうだったから、砂糖を大めに入れてみたんだ。どうだ?」
「美味しいです! 私、甘いもの大好きなんです」
「それはよかった。予想は外れてなかったな」


美味しそうに食べる夜月を頬杖をつきながら眺める。「トレイ先輩も食べませんか?」と聞く夜月。「いや、それはお前に作ったからな。ヨヅキが食べてくれ」トレイは遠慮した。そんなトレイに夜月はタルトを一口サイズに切りフォークで刺してトレイに差し出した。


「美味しいですよ、ぜひ食べてみてください」
「・・・・・・じゃ、遠慮なく」


パクリと食べ、味を確かめる。「・・・・・・うん、悪くないな」砂糖増しましのタルトに頷く。夜月はまた美味しそうにタルトを食べ始める。


「数日後に『なんでもない日』のパーティをするんだ。詳細はエースとデュースに伝えておくから、2人に聞いてくれ」
「リドル先輩は大丈夫ですか?」
「ああ、おかげさまでな」
「それはよかったです。楽しみにしてますね、パーティ」