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17


そしてなんとか、暴走したリドルを止めることはできた。黒い禍々しいオーラが消え去ったリドルはいつも通りの姿に変わり、気を失って倒れてしまった。もう目を覚まさないんじゃないかと不安になりながら、リドルを覗き込んで名前を呼びかけた。


「――はっ!」
「あ、目ぇあけた?」
「ハァ〜・・・・・・マジ、もう起きなかったらどうしようって超焦った・・・・・・」


パチリとリドルが瞼を開けた。それを見て、トレイやケイトは安堵の息をこぼす。「大丈夫ですか。身体、どこか痛かったりしません?」リドルを覗き込んで、身体の調子をうかがう。「ボクは・・・・・・一体・・・・・・?」まだ混乱しているのか、状況が詰めず周りを見渡した。「今は何も考えなくていい。寝てろ」トレイは優しく笑いかけてリドルに休むよう促す。

「あーっ、またそうやって甘やかすから!」その様子を見てエースは声を上げる。「確かに、ヤバかったな」リドルのせいで大変な目にあったというエースに、デュースも賛成する。「ストレスをためるとろくなことがねぇんだゾ」グリムもやれやれというような顔をする。

確かにひどい目にあった。見ての通り庭はボロボロ。リドル以外のみんなも体中擦り傷やら怪我を負い、服もボロボロに汚れていた。


「・・・・・・ボク・・・・・・・本当は、マロンタルトが食べたかった」
「え?」


リドルはポツリと本音をこぼす。薔薇は白でもいい。フラミンゴもピンクでいい。お茶を入れるのは角砂糖より蜂蜜が好きだ。レモンティーよりミルクティーが好きだ。食後のおしゃべりだってしたい。ずっと、もっと、トレイたちと遊びたかった。リドルは嗚咽をこぼして泣き叫んだ。まるで小さな子供みたいに。

「おいこら! 泣けば許されると思うなよ!」泣きわめくリドルを見てエースは釘をさす。「エース、時と言葉を考えて」じろりとエースを睨む。「お前もたいがい空気読まないな・・・・・・」呆れた顔でデュースも言う。


「俺も悪かった。だから、今日は言うよ。リドル、お前のやり方は間違ってた。だからみんなにちゃんと謝るんだ」
「うっ、ぐす・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・っ!」


ボロボロと大粒の涙をこぼして、リドルは子供のようにごめんなさいと繰り返す。「オレ、寮長が今までの行動を謝ってくれたら言おうと思ったことがあんスけど・・・・・・」泣いて謝るリドルを見て、エースは間をおいてから口を開いた。


「ゴメンの一言で済むわけね―だろ! 絶ッッ対許してやらねーーー!!!」
「え〜っ!? この空気でそれ言う!?」
「頑固だなあ」
「ったりめーだ! こっちは散々コケにされたわけだし?」


相当根に持っているみたいだ。「そんな・・・・・・じゃあ、どうすれば・・・・・・」リドルはエースの言葉にまた目を潤ませた。「・・・・・・オレ、しばらくは誕生日じゃないんだよね」エースは続ける。「だから、『なんでもない日』のパーティのリベンジを要求する」結局、エースたちはパーティに参加することはできなかった。そしてエースは、今度はリドルがお詫びのタルトを作って持ってくるように言う。トレイに手伝ってもらうのはダメ、苦労して自分一人で作れという。


「そしたら、許してやらないことも、ない」
「自分は手伝ってもらったのに、エースは素直じゃないね。ふふ」
「外野は黙ってろっ。いい? わかった?」
「・・・・・・うん。わかった」


そっぽ向いて言うエースにクスクス笑う。リドルも泣き止んで、素直に応じた。これでひとだんらくついた、と息を吐く。


「そんじゃ、俺たちはまずお庭の片づけとしますかぁ」


「せっかくのフォトジェニックなお庭がボロボロだよぉ・・・・・・とほほ」ケイトは肩を落とした。ボロボロになった庭に以前の姿はない。片付けも大変そうだ。「俺も手伝う」トレイはそういいだしたが、ケイトにリドルを医務室に連れて行くようにという。「オーバーブロットしちゃったわけだし、一度先生に診せたほうがいい」ケイトがリドルを見て言う。「私も付き添いましょう」クロウリーもうそう続け、トレイはリドルを抱えてクロウリーとともに医務室に向かった。

3人を見送って、残った人たちでお片付けを始める。夜月も一息ついてからケイトたちに続きお片付けを始めようとする。そのとき、手首に痛みが走って夜月は一瞬顔をゆがめた。


「どうした? 怪我でもしたのか!?」
「あ、大丈夫だよ、デュース。ちょっと掠っただけ。大したことないよ」
「あちこち擦り傷だらけじゃん、顔も汚れてっし」


怪我をしたんじゃないかと慌てるデュースを落ち着かせようと笑いかける。エースは夜月の顔に手を伸ばしてグリグリと土汚れをぬぐう。「い、痛いってエース!」気遣いのない力で拭われ、声を上げる。「おい、エース! ヨヅキがかわいそうだろ!」若干涙目になった夜月を見て慌ててエースを止めにかかる。エースは可笑しそうに笑い声を上げた。

するとグリムがドワーフ鉱山で落ちてたものとそっくりな黒い魔法石を見つけた。「本当だ、どこから落ちてきたんだ?」というデュースと「今度は食うなよ」というエース。しかしすでにグリムは口に含んでしまっていた。「お腹壊しても知らないからね」夜月がそんなグリムをあきれ顔で見やった。


「あーあ、ったくもー・・・・・・」


「お前たち、ありがとな」ケイトはポツリと静かな声をこぼす。エースやデュースやグリムは気づいてないみたいだ。「そんな小さな声だと、あの人たちは気づきませんよ」その声に気づいた夜月だけが、そういってケイトを見上げた。「えっ、聞こえてた?」うっそ、と少し気恥ずかしそうにケイトは目をそらす。


「ヨヅキちゃんも、ありがとね。あれだったら、医務室に行ってきていいよ」
「平気ですよ、本当」
「そう?」


気遣ってくれるケイトにお礼を言う。本当にそこまで痛くはないのだ。


「ん? 何話してるんスか?」
「んー? なんでもなーい。さ、お片付けと行きますか」