×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -






13


その日の授業がすべて終わり、放課後になる。エースやデュースは決闘の作戦を立てると言って、すぐさまオンボロ寮へと帰っていった。「監督生も手伝ってくれよ」というエースに、今日は調べ物がしたいから後で参加すると言い、断った。図書室にこもることになるし、グリムは退屈だろう。夜月はグリムを2人に預け、日が暮れる時間帯に図書室へと足を向けた。

次から次へと問題が起こり忙しない数日を送っていたせいで、ろくに自分で調べ物もできなかった。早く元の世界に変える方法を探さなくて。

そういえば、ここに来る直前まで何をしていたっけ――

あれ、と思い至って夜月は思わず足を止めた。おかしい。此処に来る直前の記憶がない。此処に来る直前、私は一体何をしていたのだろう。夜月は全身から血の気が引いていく感覚を覚えた。

おかしい。元居た世界での記憶はあるのに。なぜここに来る直前の記憶だけ抜けているのだろう。なんとか思い出そうと記憶の引き出しを漁っても、何も出てこない。思い出そうとすると、なんだか頭が痛くなる気がする。おもむろに片手で額をおさえた。

私、どうして此処に来たんだろう――



◇ ◆ ◇



図書室にこもって、どれだけ時間が過ぎただろう。時間や空間に関する分厚い本を棚から引き出し、テーブルの片隅に積み上げていく。どの本もページ数は多く、書いてある言葉も難しい。こちらの魔法に関する常識を知らない夜月にとって、それは難解だった。
疲れたな、と思って本から顔を上げ肩を触る。ずいぶん長いこと同じ姿勢で読んでいたため、肩が凝ってしまった。


「そこで何をしている、仔犬」


はぁ、とため息を落とす瞬間だった。驚いて声の下法を振り向けば、そこには図書室の出入り口に半身を預け腕を組み、こちらを見詰めているクルーウェルがいた。夜月は驚いて席を立った。


「クルーウェル先生・・・・・・!」
「何をしていたんだ、仔犬」
「あ、えっと、調べものです」


「調べもの?」クルーウェルがふとテーブルに積み上げられた本に視線を落とす。空間や時間に関する魔法の本が積み上げられているのに気づき、事情を知っているクルーウェルは何を調べていたのかだいたい察した。「それで、調べ物は見つかったか?」本から視線を上げたクルーウェルが問う。まったく、と答える夜月に「だろうな」とさも当たり前のように言われた。


「こんな時間まで学園内に残るな。続きは明日にでもしろ」
「え?」


目を丸くして見上げる。クルーウェルから図書室の窓に視線を移すと、外はすでに真っ暗。月が昇り切っていた。どうやら時間を忘れて長い間こもってしまったらしい。たった今それに気づいた夜月に、クルーウェルはやれやれとため息を落とす。「す、すみません・・・・・・」夜月は肩をすくめた。

「先生は、どうしてこんな時間に?」問いかけると「校内の見回りだ」とクルーウェルは答える。話に聞くと、教師は当番制で夜の学園内を見回っているらしい。毎年数人は夜の学園内に忍び込んで何かをやらかすらしい。教師も大変だな、と夜月は苦笑いをする。


「さっさと片付けろ、寮まで送っていく」
「え、いえ、大丈夫です! 一人でも帰れます」
「ほう、俺に口答えとはいい度胸だな、仔犬。そんなに躾けられたいのか?」


口端を上げ見下ろし、片手に携えた鞭をクルーウェルの手の中で数回叩く。それを見てビクッと肩を揺らした夜月は急いで本の片づけを始めた。引き抜いた本をすべて元の場所に戻し、再びクルーウェルのもとに戻る。片付けたのを確認すると「行くぞ」と一言だけ言ってクルーウェルは踵を返し、夜月も急いでその後を追った。

夜になり静まった学園内の廊下に2人分の足音が響く。だいぶ夜も遅くなってしまった。先生の手を煩わせるのは忍びない。そう思い、夜月は再び後ろからクルーウェルに言葉を放った。


「あの、やっぱり申し訳ないですし。私、一人でも平気です」
「Be quiet!」


大きな声に夜月はビクリとする。足を止め振り返ったクルーウェルは目を吊り上げてこちらを見下ろしてくる。同じように足を止めた夜月は身体を小さくして不安そうに自分の手を握り顔をうつ向かせた。


「お前はもう少し自覚を持て。女性がこんな時間に一人で出歩くな」
「え・・・・・・」


瞬きをして見上げれば、クルーウェルは呆れた様子で腰に片手を当てながら視線を向けていた。

お前は女だろうというクルーウェルに、少しだけ戸惑う。別に女であることを隠せとも男装を強要されているわけではない。だから無理に男になり切ろうとも思っていない。だが此処は男子校だ。無論まわりの生徒たちはここは男子校であるし、夜月のことなど女だと思っていないだろう。そんななか女性扱いをされ、少し戸惑ってしまった。


「ごめんなさい・・・・・・」


返事は、と眉を吊り上げるクルーウェルに慌てて頭を下げる。少しだけ、嬉しいと思ってしまった。べつに今の扱いに不満があるわけではない。親しみを感じられて、むしろ楽しいと感じている。


「いい子だ。素直な仔犬は好きだぞ」


機嫌をよくしたのか、クルーウェルは赤い手袋をした手で頭を下げた夜月の頭を撫でる。おそるおそるに顔を上げると、クルーウェルはニコリと笑みを浮かべてこちらを見詰めていた。頭を撫でられながら、もしかしたら優しい人なのかもしれない、と夜月の中で彼の印象が変わった瞬間だった。


「さあ、もたもたしていないで寮に戻るぞ」
「は、はい!」


素直に返事をすると、クルーウェルは微笑みを浮かべた。
そのまま夜月はクルーウェルにオンボロ寮まで送られた。遅くまで学園内に居残らないようにと一言注意を受け、送ってくれたことに礼を述べ、クルーウェルは立ち去った。

オンボロ寮に戻ると帰ってきたのに気づいたエースが「遅い!」と仁王立ちをして「ヨヅキ、お前の力を貸してくれ・・・・・・!」と作戦に根を上げたデュースが助けを求めてくる。グリムは飽きたのか、すでに眠ってしまったらしい。そんな2人にクスリと笑みをこぼして、夜月も2人の作戦会議に参加した。