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12


「トレイ先輩」
「! お前たちか・・・・・・」


マロンタルトを作る際に使っていたレシピ本を返しに行くと思い、4人は図書室でトレイを待ち伏せた。予想通り本をもってトレイは現れ、4人は声をかける。
エースとデュースはリドルのやり方に納得できないと伝える。トレイはその気持ちもわかるが、自分からは何も言えないと口を開く。


「小さい頃からずっとそうやって、アイツにぺこぺこしてきたわけ?」
「誰から聞いた?」
「チェーニャという人です」


「そうか、あいつか・・・・・・」驚いた様子を見せたトレイに伝えると、納得したと頷く。「リドルよりオマエのほうが年上なんだろ? ビシッと怒ってやればいいだゾ」グリムがそういえば「もちろん、必要があればそうする」とトレイは答える。しかしトレイはリドルを叱ることなんてできないと、どこか思いつめたような顔で言った。

リドルのすべては厳しいルールのもとで造られたと、トレイは話す。リドルの両親は地元では知らない人がいないほど有名な医術士だった。とくに母親は優秀な人で、彼にも優秀であることを求めた。だからリドルは起きてから寝るまで、学習プログラムが分刻みできまっているような生活をしてきた。食べるもの、着るもの、消耗品から友達まで、全て決められていた。

それでもリドルは両親の期待に応えようと、黙ってそれらをすべてこなした。そして10歳にして、あの強力なユニーク魔法を完成させるにまで至る。成績もエレメンタリースクールからずっと学年首位を保持し続けている。いったい、どれだけの努力をしたのだろうか。


「リドルは厳しいルールで縛ることがみんなのためになると思ってる。恐れで支配してこそ、成長できると信じてるんだ」


かつての自分がそうだったように。そしてルールを破ることは、絶対的な悪だと思い込む。そうでなければ、今までの自分を否定することになってしまう。それはとても怖いことだ。今までの自分を作り上げてきたものが間違いだったなんて認めるには、相当の勇気がいる。どこかおかしいのだと気づいていても、目をそらしてしまう。

トレイの話でみんなが押し黙ったなか「今の話を聞いて、よーくわかった」とエースは口を開く。親を選べなかったのは仕方がないと、エースは続ける。


「アンタは少なくとも寮長の親が寮長にやってたことは間違ってるって昔から思ってたんでしょ?」
「それは・・・・・・」

エースの言葉にトレイが言いよどむ。


「ちゃんと言えよ、直してやれよ。可哀想な奴だからって同情して甘やかして、どんすんの?」エースは睨みつけるよう続ける。「アイツがみんなに嫌われて孤立してくの見てるだけ?」トレイは何も言い返さず、眉間にしわを寄せ、エースを見詰める。「それとも何? アンタも首をはねられるのが怖くて黙ってるって?」


「ダッセえな!! 何が幼馴染だ。そんなんダチでもなんでもねえわ!」
「コラ! 君たち! 図書室では静かにー!!!」


突然、著書室にクロウリーの大声が響く。「アンタが一番声でけぇんだゾ」グリムが正論を言う。「おっと、失礼」クロウリーは咳払いをした。「学園長はどうしてここに?」そう聞くとクロウリーは「ユウくんの元の世界に変える方法を探してたんですよ。別に、忘れてなんていませんよ?」と目をそらしながら言う。夜月は怪訝そうにクロウリーをじろりと見て、ため息を落とした。一体いつ帰れるのだか。


「ところでみなさん、お揃いでどうしたんです?」
「それが・・・・・・」


クロウリーは話をそらそうとしたのか、5人にといかける。それにはデュースが答えた。丁寧に事の次第を伝えると、クロウリーはふむ、と顎に指を添えた。


「そうですねぇ。転寮するという選択肢もありますが、そうなると面倒な手続きや儀式が必要になりますよ」


一応転寮はできるらしい。だが、今は闇の鏡に魂の素質で寮が分けられていて、それを変えるとなるとかなり面倒だという。エースは転寮だと負けたような感じがして嫌だと微妙な顔をする。


「ではローズハートくんに決闘を申し込んで、君が寮長になっちゃえばいいんじゃないですか?」
「「「ええええ〜〜!!?」」」


「こらっ! 声が大きい!」小さい声でクロウリーが怒鳴る。「学園長が変なこと言うからだろ」エースも小さな声で訴えた。それはそうだろう。学園長みずから決闘すればいいなんて言われれば、誰でも驚く。そこでふと、あることに夜月は疑問を持った。


「そういえば、寮長はどうやって決めてるんですか?」
「前寮長に指名されたり、現寮長に決闘で勝利したりなど。決闘というのはシンプルな方法の1つですね」


だから2年生のリドルが寮長で3年のトレイが副寮長なのか、と夜月は納得する。「たしかに決闘の相手に事前にハンデをかすことは禁じられてる。リドルに謝ることなく首輪は外してもらうことはできるが・・・・・・」トレイは目をそらし考えながらそう零す。「寮長に挑む権利は入学してから全生徒に与えられています」クロウリーはにこやかな笑みを浮かべながら伝える。


「どうしますか? トラッポラくん」
「おっし。ならいっちょやってやろうじゃん」
「なら僕も」
「え、やるの?」
「ったりめーだろ」


「俺様もだゾ!」とグリムも声を上げたが「別の寮生は挑むことができないんですよ」という言葉に一刀両断される。自分の首輪和どうするんだというグリムに、エースは自分が寮長になれたら外させるという。そう上手くいくだろうか。


「お前たち本気か? デュースまで言い出すとは思わなかったぞ」
「そうですか? 男なら、一度ならテッペンとってみたいじゃないっすか」


デュースは両手を組んでまた不良みたいなことをする。「デュース、言葉」「出た、ワル語録」夜月とエースがデュースにそう伝えると「えっ? 普通・・・・・・だろ?」とちょっとビクリとしていつもの優等生スタイルに戻る。「では、決闘の手続きは私が請け負いましょう」クロウリー気前よくそう言う。


「大丈夫かな・・・・・・」
「大丈夫だって。で、ヨヅキ。なんか作戦ない?」
「結局人任せなの」
「いーじゃん、オレら友達だろ〜?」

エースは夜月の肩に腕をまわし、グイっと身体を引き寄せる。肩を組まれた夜月はエースを見てため息を落とした。魔法封じの魔法を使うリドル相手にどう対抗すればいいのだろう。魔法なんて、決闘が始まってすぐに唱えられてしまうのに。


「おっと、言い忘れてました。決闘では魔法以外の攻撃は使用禁止ですからね」
「え”っ」
「はっはっは! ルールを守って楽しい決闘を!」


わざと言わなかったのか、クロウリーはそれだけ言い残して図書室を去る。どうやらエースとデュースは魔法以外も使っていいと思い込んでいたらしい。確かに腕っぷしなら小柄なリドルにも勝てるだろう。だが此処は魔法学校、あくまで学校だ。決闘だからと言って暴力行為が許されるわけがない。

「よ、よーし! 何とかなるっしょ!」エースは考えなしにそういい放つ。「お、おう!」気持ちをのせておこうと思ったのか、デュースもそれに答えた。


「お前たち・・・・・・」
「オレが寮長になったら、せってぇ『ボクが間違ってましたゴメンナサイ』って言わせてやるからな!」


ふつふつと怒りを目に宿すエースに、どうしたものかと夜月は脱力した。