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デザートも食べ終え一息ついたところで、今度は食べ終えた食器を下げにジャミルと夜月が立ち上がった。夜月が「食器ぐらいは私が洗います」と言えば「1人じゃ持てないだろ。それに、2人でやったほうが早い」と素早くジャミルは言い放った。

食器を片付けに再びキッチンに2人は戻ってきた。積み上げた食器を流し台に置いたところで、狙ったようにジャミルは口を開いた。


「カリムとキスをしたようだな」
「――――え。な、なんで・・・・・・」


狼狽える夜月にジャミルは「カリムに聞いたらあっさり教えてくれたぞ」と答える。それを聞き、夜月は知られてしまった事実に頬を染め片手でそれを隠すように顔を覆った。


「君は、カリムのことを好いているのか? それとも、恋人にでもなったのか?」
「恋人だなんて、そんな・・・・・・人として好きではありますけど・・・・・・」
「ほう。じゃあ君は、好きでもない恋人でもない相手に唇を許したのか?」
「ゆ、許すもなにも。突然のことで・・・・・・」


拒む暇もなかった、と夜月はしどろもどろになりながら答える。腕を組んだジャミルに見下ろされ、次々に言葉を放たれ、夜月は肩をすくませた。怒られているような雰囲気に身を縮ませる。その姿をみたジャミルは、間をおいてから深いため息を大きく吐きだした。それにビクリと肩を揺らす。


「君はもう少し危機感を持て。そう簡単に男と2人きりになるな。今もそうだ。俺が君に、何もしないとでも思ったのか」


その言葉に目を丸くして瞬きをし、呆れた顔をするジャミルを見上げた。「なにかするんですか」単純で、素直な問いかけだった。問いかけたというより、ジャミルの言葉を反復したに近い。目を丸くして見上げてくる夜月に、ジャミルはそっと目を細め口端を上げた。


「――さあ、どう思う?」


怪しく微笑んだジャミルは一歩、また一歩と夜月に向かって足を動かす。徐々に近づいてくるジャミルに比例して夜月が一歩ずつ後退る。此処は狭い場所だ。もともと夜月が立っていた場所が流し台の前だったこともあり、あっという間に夜月はジャミルの両腕に閉じ込められ身動きが取れなくなる。

台所の淵に手をついて夜月を閉じ込めたジャミルは、怪しい笑みを浮かべながらゆっくりと顔を近づけた。鼻が触れ合いそうな距離まで来たところで、夜月は片手でジャミルを押し返し、抵抗らしい素振りを見せる。


「ジャ、ジャミル先輩は、べつに私のことが好きなわけじゃないでしょう・・・・・・?」
「・・・・・・好きでもない相手にキスぐらいできる奴はそこら中にいるよ」


距離を取ろうと弱い力で押し返し視線を逸らしながら言う夜月に、ジャミルはフッと笑みを零す。ジャミルの放った言葉に何か言い返そうと口を開くが、言葉が見つからずに閉ざす。何も言えず、夜月は黙り込んで顔を俯かせてしまう。


「まあ、俺はどうだか知らないがな」


「え?」独り言のように呟かれた言葉に顔を上げると、思ったよりも近くにいたジャミルに戸惑い、サッと視線を逸らす。髪から除く耳がほんのりと赤く染まっていたのを見て、ジャミルは満足そうに笑みを零した。


「ほら、さっさと後片付けを始めるぞ」
「え、あ・・・・・・は、はい」


何もせずにジャミルは夜月から離れ、何事もなかったかのように後片付けに戻る。熱を帯びた頬に気をやらず、これ以上余計なことを考えないようにと夜月はすぐさま頷き、言われた通りに食器の後片付けに手を伸ばした。普段通りにとふるまう夜月を横目に、ジャミルはそっと口端を上げた。



■ □ ■



結局、今日も夜月とグリムは夜までスカラビアにお邪魔して夕餉まで取らせてもらった。いつものようにカリムは泊っていけと言ってくれるが、これ以上は迷惑だからと夜月は断り、グリムは閉じ込められた時の記憶がまだ浅く首を横に振った。


「またいつでも来いよ! 明日も来ていいぜ」
「明日も飯食いに来るんだゾ〜!」


食い意地を張るグリムにあはは、と苦笑を零す。流石に毎日来るのは迷惑すぎる。今度こそスカラビアに入り浸ろうとするグリムを止めなければ、と夜月は秘かに思う。

「それじゃあ、今日もありがとうございました」お礼を告げ、夜月はお辞儀をする。笑顔で手を振るカリムを背に、スカラビアを出ようとした。すると背後から「ヨヅキ」とジャミルに名前を呼ばれ、腕を掴まれる。少し緊張しながら「はい?」と返事をして振り返ったその時だった。


「――――」


振り向いた顔に手を添えられ、流れるような手つきで口づけをされた。理解するのは早かった。触れられた唇に目を丸くしていると、ゆっくりと瞼を上げたジャミルがそれを見て、妖美に目を細め口端を上げた。まるで蛇が絡みついたように、身動きができなかった。やがてゆっくりと唇が離される。唇は熱を帯びていて、わずかに濡れていた。


「フ・・・・・・道中には気を付けて帰れよ、ヨヅキ」


妖艶に笑うジャミル。夜月は顔を真っ赤に染め上げ、片手で口元を覆い隠した。

一方、カリムとグリムは目の前でされた光景に大きく目を見開いて大口を開け、呆然としていた。口端を上げて見つめるジャミルと赤く顔を染め上げる夜月。何も言えず、動くこともできずに、ただ呆然を立ち尽くした。その状態から先に復帰したのはカリムだった。


「ジャ、ジャミル・・・・・・? え? えぇっ・・・・・・?!」


ゆらゆらと揺れる指でジャミルを指さし、信じられないとでもいうような顔をするカリム。それを見て、ジャミルはニヤリと口元を歪めさせた。


「もう遠慮はしないと言ったからな」
「い、言った、けど・・・・・・! こんなの聞いてない!」
「そもそも、最初に手を出したのはお前だろう。お前がとやかく言う権利はないと思うが?」
「うっ・・・・・・そ、そうだけど・・・・・・」


まさかジャミルが自分の恋敵だなんて思ってもみなく、カリムは狼狽える。「いくらジャミルでも、ヨヅキは譲れない!」ジャミルを真っ直ぐに見て宣言するカリム。「ならせいぜい頑張るんだな」ジャミルはニヤリと口元を歪めさせ、吠えるカリムを上から見下ろした。


「わ、わたし・・・・・・帰りますッ!」


口論を始めた2人の外では顔を真っ赤に染め上げた夜月がとうとう恥ずかしさに耐えられず、グリムを抱き上げてそそくさと鏡をくぐってスカラビア寮から逃げ出した。

「あっ、ヨヅキ!」慌ててカリムが振り向くも、夜月はすでに鏡をすり抜けてしまった。伸ばした手は行き場をなくし、呆然と鏡の向こうを見詰める。そんなカリムを背後から見詰め、ジャミルはフッと笑い唇を舌で舐めとった。