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33


スカラビア寮での一件が終わり、そろそろ終わるホリデーの後半を謳歌していた今日この頃のある日、夜月とグリムはスカラビアに来ていた。

スカラビア寮の前で夜月とグリムは目の前に立つジャミルを見上げる。ジャミルは2人を見て眉間にしわを寄せ、夜月は申し訳なさそうに視線を逸らす。グリムは呑気に「また来てやったんだゾ」などと口に零す始末。ジャミルははぁ、とため息を落とした。


「そう毎日のように来られても困るんだが?」
「すみません・・・・・・」


ジャミルの言葉に夜月は素直に頭を垂れた。「いつでも来いって言ったのはそっちなんだゾ」不満そうな顔をしたジャミルにグリムは言う。「今日もたらふく食べてやるんだゾ〜」グリムの言葉通り、スカラビアへ来た理由は食事をご馳走してもらうためだ。いつでも来い、と言ったカリムの言葉に甘え、すっかりスカラビアの料理を気に入ったグリムはあれ以来、毎日のようにスカラビアに入り浸った。

流石に夜月は甘え過ぎだと自重したのだが、食欲旺盛のグリムが言うことを聞くはずもなく。またこうしてスカラビアへと来てしまった。


「おっ、ヨヅキ〜!」
「あ、カリムせんぱ――ッ!?」
「今日も来てくれたのか! 嬉しいぞ!」


夜月を見つけたカリムはぱあっと花が咲いたように喜んで大振りに手を振って駆け寄っては嬉しそうに抱き着いた。ギュウッ、と背中に腕をまわして抱きしめてくるカリムに戸惑いながら、夜月はほんのりと頬を赤く染めた。

先日の絨毯で散歩をした夜のことを、夜月はまだ整理できていなかった。一方、カリムはあの日以降も特に何も変わった様子はなかった。変化した部分と言えば、以前よりもスキンシップが増えたくらいで、変に意識をした態度はしなかった。

ギュウギュウと抱きしめてくるカリムに困って狼狽えていると、それを見かねたジャミルがカリムの肩を掴んで引き離す。


「おいカリム、そろそろ放してやれ」
「あ、ちょっと強くしすぎたか。悪いな」
「い、いえ。大丈夫です」


口では謝るものの、カリムは口元を緩ませて少し照れ臭そうにしていた。えへへ、と笑みを零すカリム。それにつられて夜月も照れ臭そうに微笑み返した。

「おいカリム、今日もオレ様が来てやったんだゾ」偉そうに言うグリムにカリムは視線を向けた。「おうグリム! 今日もたくさん食っていけよ、今から昼餉の準備をするところだったんだ」気楽に今日も了承したカリムにジャミルは深くため息を落とす。「作るのは俺なんだが?」用意する人数が増え、面倒そうに零した。

あんなことがあって以前より過保護な従者ではなくなり言葉にも棘があるが、やはり長年染みついたものは中々拭えず、なんだかんだでカリムの助けをしている。そのたびこうして深いため息を落としている。


「まあ良い。ヨヅキ、食事の手伝いをしてくれ。ついでに作り方を教える」
「はい、是非お願いします!」


スカラビアにお邪魔するたび、夜月は料理を手伝うついでに約束通りジャミルに料理を教えてもらっていた。夜月は喜んで頷く。夜月はグリムをカリムに預け、ジャミルと共に大食堂のキッチンへ向かった。


ハーツラビュル寮にはキッチンが付属しているが、サバナクロー寮やスカラビア寮にはキッチンが整備されてないらしく、わざわざ大食堂のキッチンを使わなければいけないのが手間だ。

キッチンに香ばしいスパイスの香りが漂い、軽快な包丁捌きの音や焼けるジューシーな音が響く。ジャミルは人に教えるのが上手だ。順調に料理を進めながら的確に教えてくれるため理解しやすく、いろいろな味付けも教えてくれる。夜月にとって、ジャミルから料理を教えてもらうのは最近のお気に入りの時間だった。


「最近、カリムと何かあったのか?」
「え?」


ある程度作り終え、お皿の盛り付けなど細々とした作業をしているとき、ふと突然なんの素振りもなく問いかけられた。思わず気の抜けた素っ頓狂な声が出た。ジャミルはじっと横目で夜月を見詰めた。なにかあったのか、という問いに夜月は先日のことを思い出してしまい言葉を濁らし目を泳がせた。


「フ、君は誤魔化すのが下手だな」
「うっ・・・・・・べ、べつに。なにもないです・・・・・・」
「ふーん・・・・・・?」


じーっと見てくるジャミルの目から逃れるようにそっぽを向く。凝視してくる瞳から逃げたくて、目をそらした夜月は背中に冷汗を流した。幸いなことに、ジャミルはそれ以上聞いてくることはなかった。追及されなかったことに、夜月はほっと胸を撫でおろした。

料理が出来上がってジャミルと夜月はせっせとスカラビア寮へ戻り、談話室で胡坐をかいて待っていたカリムやグリムの前に並べる。ジャミルと夜月も床に腰を下ろし、やっと昼餉にありついた。

グリムは目の前の料理に目を輝かせ、パクパクと次々に口に運んでいく。そして美味しそうに食べるグリムに「こっちも美味いぞ!」とカリムは無理やりグリムの口に運ぶ。もはや恒例行事なっている。大半を平らげたグリムは吐きそうなって床に転がるのもいつものことだ。

一息ついたところで夜月はお手洗いに腰を上げた。案内をしようかと言うカリムに場所は知っていると言って断り、談話室を後にする。お腹が膨れて転がるグリムとジャミルとカリムが残った談話室で、ジャミルが口を開く。


「ヨヅキと何かあったのか?」
「え? え、っと・・・・・・」


突然の問いにカリムは肩をビクリと揺らし、夜月と同じような反応をした。じっと見つめれば、カリムはもじもじとしながら恥ずかしそうに頬を染めて、ためらいがちに口を開く。


「その、実は・・・・・・こないだ勢い余って、その・・・・・・キス、しちまって・・・・・・」
「――――は?」


ジャミルは目を見開き口をポカンと開けた。カリムはそれに気づかず、おずおずと恥じらいながら続ける。

ヨヅキは不思議な人だった。いつも楽しそうで、初めて絨毯で雲の上に連れて行った時には、目をキラキラさせて目の前の光景に見入っていた。ありがとうと本心で笑ってくれて、真っ直ぐ自分を見詰めてくれた。魔法が使えないのに怖がらずオーバーブロットしたジャミルを助けてくれた。お礼にドレスやアクセサリーを用意したが、それよりもまた絨毯で散歩がしたいって言った。そしてまた連れて行ったら、また嬉しそうにありがとうと喜んでくれた。


「オレ、ヨヅキのことが好きみたいなんだ」


初めて恋をした喜びに、初めて好きな人ができた歓喜に、カリムは子供のように目を輝かせて語る。それを見て、ジャミルは目を見開いて口をポカンと開けた。そして自分で聞いたにもかかわらず、そんな返答が返ってくるとは思っておらず、なぜカリムの惚気話を聞かなければならないと苛立ちを募らせる。そわそわと嬉しそうにするカリムとは正反対に、ジャミルはみるみるうちに不機嫌になっていった。

するとお手洗いに出ていた夜月が良くも悪くも談話室に戻ってきた。出ていく前の2人の様子と比べ、夜月は目を丸くして首を傾げた。元居た場所に腰を下ろし、次はデザートを食べようと言うカリムとデザートの単語に目を覚ましたグリムを横目に、あからさまに不機嫌なジャミルに目を向ける。


「どうして不機嫌なんです?」
「ふん」


隣からくるピリピリした空気に、夜月は肩を落とした。