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27


あれからジャミルの体調も回復し、冬休みの課題も終わったころ。カリムはホリデーの宴を開くと宣言した。やっと難が過ぎ去り、思い残す課題も終わったのだ。寮生たちは大喜びでそれに賛成し、夜月やグリム、オクタヴィネルの3人も宴に加わることになった。

宴はオアシスでするらしい。食事などの準備、それらをラクダや象に積ませる作業で寮生たちは朝から大忙しだった。けれどみんな、憂いた顔は一切せず楽し気にしていた。


「おーい、ヨヅキ!」
「カリム先輩?」


声に振り向けば、カリムが手を振りながら駆け寄ってきた。「此処に居たのか、お前を探してたんだ」目の前で立ち止まるとカリムはそんなことを言った。「どうしたんですか?」と夜月が尋ねればカリムはニカッと笑って夜月の手を取った。「お前に渡したいものがあるんだ、来いよ!」カリムに引かれ、夜月も引っ張られるまま走り出した。

カリムはある部屋の前に来るとピタリと足を止めた。この部屋には来たことがない。何の部屋だろう、と尋ねる前に「ほら、こっちだ!」と繋いだ手を引いて夜月を部屋の中へと招き入れた。そして、目の前の光景を見て驚愕する。


「こ、これは・・・・・・」
「ああ、実家に頼んで送ってもらったんだ」


部屋の中にぎっしりと確実に高価なものが並べられてあった。何着ものマネキンに着飾れた熱砂の国のドレス、靴、宝石をはめ込んだアクセサリーや髪飾り、化粧道具や香水。それだけにはとどまらず、小物や家具や絨毯などさまざまなものが敷き詰められていた。


「今回のスカラビアの一件で巻き込んじまったし、いろいろ助けられたからな。だからそのお礼がしたかったんだ」


カリムは頬を指でかいて、あの一件を思い出した。「そんな、お礼なんて・・・・・・」巻き込まれたのは事実だが、お礼をされるほどのことは何もしていない。活躍したのはオクタヴィネルの3人だ。夜月がそう伝えようとする前に、カリムは部屋のものを指して「だからこれ全部お前にやるよ!」と爆弾発言を落としてくる。

「い、いえ! 大丈夫です! そんな高価なもの受け取れません!」ニコニコするカリムに夜月は首を振った。「そんな大したもんじゃないぞ?」カリムにとってはそうかもしれないが、それは絶対嘘だ。到底手が出ないほど高価なものぐらい見ればわかる。「あ、やっぱ多かったか? なら好きなヤツだけ持ってけよ!」再び夜月は首を横に振った。少しジャミルの気持ちが分かったような気がした。


「ほんとうに、そのお気持ちだけで私は嬉しいですよ」
「・・・・・・でも、オレはお前にお礼がしたいんだ」


本当だ、嘘じゃない。それでもカリムはどうして夜月に何かお礼がしたいと引き下がらなかった。「何なら喜ぶんだ? お前が好きなものを言えよ」カリムは目の前に並べたものが気に入らなかったのだと勘違いしたのか、夜月にそう聞いた。善意に笑顔を浮かべるカリムに、夜月は唸って考えた。


「・・・・・・じゃあ、また魔法の絨毯で夜の散歩がしたいです」
「え? そんなのでいいのか?」


カリムは目を丸くして夜月を見た。「そんなの・・・・・・伝説の絨毯のレプリカ使うぐらいですし、そんなものじゃない気がするんですけど・・・・・・」なにせアジーム家の家宝でもある。易いものではないと思うが。「駄目ですか?」夜月が聞けばカリムは「よし、なら今度また連れてってやるよ!」と笑って答える。「よかった、嬉しいです」空の景色は別世界のようで、空を飛ぶなんてことは夜月一人ではできない。それを味わえるのはとても嬉しいことだった。

「うーん、でもなあ・・・・・・」カリムは腕を組んで零す。やはり何かもらってほしいと言い出したカリムに夜月は何とか説得しようとしたが、1つだけでもいいからと詰め寄るカリムに根負けし、1つだけこの中から受け取ることにした。

夜月は部屋を歩き回って、なかでもあまり値のしなさそうなものを探した。とはいってもやはり大富豪の集めるモノは高価で、なかなかそう言ったものは見つからない。というか、ドレスや女性ものアクセサリー。これはとっくの前に女だとバレていたみたいだ。カリムが気づいていてジャミルが気づかないわけがない。ジャミルにもバレているのだろう。結局夜月は目に入ったピアスをもらうことにした。宝石類の装飾は少なく小さい。大振りのピアスだが、シンプルなものだった。


「それでいいのか? もっと宝石のついたのもあるぞ?」
「これでいいんです」
「そうか。お前がいいなら、いいか」


「でもお前、耳に穴開けてないよな?」夜月の耳に手を伸ばして耳たぶを指で触れる。それが少しくすぐったくて夜月は身をよじった。「これを機に開けるのもいいかもしれませんね」カリムの言う通り、ピアスの穴は空けていない。少し冒険をする気持ちで、開けるのもいいかと思ったのだ。


「それより早く戻りませんか、みんな宴の準備してますよ」
「そうだった。早く行こうぜ!」


来た時と同じようにカリムはまた夜月の手を取って、宴の準備をするみんなのもとへ駆け出した。