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ドスーン!! と大きな音を立てて、ようやく地面に着地した。地面が砂だったのが唯一の救いだ。「イテテ・・・・・・なんか最近こんなのばっかりなんだゾ〜〜」体を起こしたグリムが涙目で呟く。「ヨヅキさん、大丈夫ですか?」先に置きあがったジェイドがそばでうずくまっていた夜月に手を差し伸べる。「うっ・・・・・・はい、なんとか」地面に身体を打ち付けられ、全身が痛い。ジェイドの手を握り、なんとか立ち上がる。

「ずいぶん遠くまで飛ばされたようですね」辺りを見渡してアズールが呟いた。「うへぇ、マジで寒いんだけど・・・・・・! 流水の下みてぇ」フロイドの言う通り、此処は酷く寒い。昼時の真夏の暑さとは大違いだ。

「カリムさん、カリムさん、ご無事ですか? しっかりなさってください」まだ蹲っていたカリムに気づき、ジェイドがそばまで駆けよった。「カリム先輩、カリム先輩」夜月も一緒になって駆け寄り、しゃがみ込んで肩を揺らす。「う・・・・・・うぅ、ここは・・・・・・」するとカリムが目を覚まし、あたりをキョロキョロと見渡した。「よかった・・・・・・」気が付いたことに、夜月は安堵の息を漏らす。「どうやらスカラビア寮のある時空の果てのようです」辺りを見渡したジェイドが言う。


「グリムさんは毛むくじゃらですし、僕たち人魚はある程度寒さに強い身体ですが・・・・・・ヨヅキさんとカリムさんは長時間ここにいるのは命の危険が伴いそうな寒さだ」


アズールの言う通りだ。此処は酷く寒い。砂漠の夜は酷く寒いと聞いたけど、それは本当だったみたいだ。思わず夜月は寒さに身震いをして両手で腕をさすると、アズールがおもむろに上着を脱いでヨヅキの肩にそっとかけた。無言で上着をかけるアズールを見て、夜月はそれに甘え、肩にかかった上着を掴んで身体を丸めた。

「箒も絨毯もありませんし、飛んでいくことはできません。どういたしましょうか」「だるいけど、歩いて帰るしかなくね?」「吹き飛ばされて着地するまでにかなり滞空時間が長かった。徒歩で帰るには何十時間かかるか・・・・・・」


「それにしてもフロイドのその声、落ち着きませんね。契約を破って破棄しますから、元に戻しましょう」
「えー、結構気に入ってたのにぃ・・・・・・」


「あー、あー。うん。声、もとに戻ったみたい」『黄金の契約書』を破ると、契約が破棄されいつものフロイドの声に戻った。「アズールと契約してユニーク魔法を貸すだなんて、よくできますね。我が兄弟ながら感心します」ジェイドはフロイドにそういう。「なんだかんだ理由を付けて魔法を返してくれない気がするので、僕なら絶対にアズールと契約なんてしたくありませんよ」と言ったジェイドに「確かにアズールならやりそうだけどさ。オレ別に魔法が返ってこなくてもいーし」飽きたら別の契約すりゃいいじゃん、とフロイドは続けた。「お前たち、聞こえてますよ」アズールが腰に手を当てて2人を見やる。

ふと、隣から嗚咽がこぼれる音に気づいて目を向けると、カリムが肩を震わせ顔をうつ向かせてぽろぽろと涙をこぼしていた。「カリムせんぱい・・・・・・」そっと手を伸ばすと、その手をカリムは縋るように両手でで包み込み強く握った。「あれ、ラッコちゃん泣いてんの? 涙凍るよ」3人もカリムに気づいき、視線を向けていた。


「うう、ジャミル・・・・・・信じてたのに・・・・・・」


ぽろぽろと大粒の涙が瞳から零れ、頬から落ちるときには宝石のように凍った涙の粒が落ちた。「オレのせいだ・・・・・・! 知らないうちに、ジャミルのことを追い詰めちまってた」泣きながらカリムは続ける。「ジャミルは、本当はあんなことするようなヤツじゃない! いつも俺を助けてくれて、頼りになるいいヤツで・・・・・・ッ!」嗚咽と交りながら言うカリムの言葉に黙って耳をかたむけた。
物心ついたころから一緒にいたと言っていた。カリムにとって、ジャミルは誰にも代えがたい唯一の存在だったに違いない。顔を俯かせて涙を流すカリムに、夜月は目線を合わせるように腰をかがめ、カリムを覗き込んだ。


「カリム先輩がジャミル先輩のことを大切に思っていたのはわかります。でも、あなたのそういうところがジャミル先輩を追い詰めていたんじゃないんですか?」
「え・・・・・・?」


カリムは目を丸くして顔を上げた。「で、でた。ヨヅキのキツいツッコミ」グリムがゲッという顔をして言う。「あー、でもオレも小エビちゃんと同意見」フロイドは続ける。「ラッコちゃん、イイコすぎるっていうか・・・・・・なんつーか、ウザい」フロイドのキツい言葉に「え、ウザ・・・・・・?」カリムは一歩引く。「そうですねぇ。もし僕があんな裏切り方をされたら・・・・・・持ちうる語彙の限りにののしって精神的に追い詰め、縛って海に沈めます」ニコニコとしながらジェイドは続ける。「それを自分のせいだなんて、いいヤツを通り越して、ちょっと気持ち悪いです」続けてジェイドの言葉にカリムはまた一歩引いた。


「気持悪・・・・・・いや、でも。ジャミルは絶対にオレを裏切ったりしないはず・・・・・・」
「いや、めっちゃ裏切ってるじゃん。しかもラッコちゃんに罪を擦り付けて追い出そうとしてたとか、マジでサイテーじゃん」
「卑劣さのレベルで言えば、アズールと比べても見劣りしません。自信をもって『裏切り者!』と罵っていいと思いますよ」


「カリムさんの他人を信じ切った良い子ちゃん発言は、計算で生きている人種からすればチクチク嫌味を言われている気にすらなります」アズールとジャミルは似たような人種だ。だからこそ言えるのだろう。「小さい頃からずっとそうやってジャミルさんを追い詰めてきたんですね、あなた」アズールは続ける。「ですが、あなたは何も悪くありません。あなたは生まれながらに人の上に立つ身分であり、両親や身の回りの人間から一身に愛情を受け、素直にまっすぐ育った。それゆえに、無自覚で傲慢である・・・・・・というだけですから」アズールやジェイドやフロイドそして夜月の言葉を聞き、カリムは開いていた口を閉じ考え込むように再び顔を俯かせた。そうしてしばらくすると、ゆっくりと顔を上げ口を開く。


「・・・・・・そうか。ジャミルは、悪いヤツ・・・・・・なのか」
「・・・・・・そうですね。だからこそ、あなたにはそれを糾弾する権利がある」
「それなら、早く帰らなくちゃ」


「アイツを殴って『裏切者!』って言ってやらないと」声を張り上げるカリム。「一発じゃ足りねぇんだゾ! さらにオアシスまで10往復行進させてやるんだゾ!」今までの鬱憤を込め、グリムが続けた。「ええ。それに、早くジャミルさんを正気に戻さなければ、彼自身の命も危ない」アズールの言う通り、このままオーバーブロットを放置し続けるのは危ない。早う戻って正気に戻さなければ。

「だからさー、どうやって戻るの? 早歩き?」フロイドが言う。「川でもあれば泳いで戻れたんですが・・・・・・周辺の川はどこも干上がっているようですね」辺り砂漠の風景を見て、ジェイドが言う。「川? 水が欲しいのか?」カリムは3人に聞いた。「ええ。フロイドとジェイドの本来の姿に戻れば、箒以上に速度が出るはずです」アズールは頷く。


「しかし、渇いた川を元に戻すなんて僕らには不可能・・・・・・」
「オレ、できるぞ」
「「「えええええええ!?」」」


「俺のユニーク魔法『枯れない恵みオアシス・メイカー』は少しの魔力でいくらでも水が出せるんだ。川を作れば、寮に戻れるんだな?」そうだ。オアシスで見せたカリムのユニーク魔法は、水を出す魔法。魔力を注げば川くらいだって作れるはずだ。「な、なんですかそのユニーク魔法!? すごすぎませんか!?」話を聞いたアズールは驚愕する。「あっはっは! 普段は全然役に立たない魔法なんだけどな」滅多に褒められないユニーク魔法に、カリムは笑って言う。「あっはっはじゃないですよ! まだ治水環境が整っていない国などでは英雄モノの魔法じゃありませんか! そんなの、そんなの・・・・・・商売になりすぎる!!!」アズールの言葉に、どこまでも商売脳だなこの人、と苦笑する。


「下世話なアズールのことは置いておいて・・・・・・カリムさん、お願いできますか」
「川を作ればいいんだな。わかった! 任せておけ」


頷いたカリムはさっそくユニーク魔法を発動し、大水を降らす。魔力を注いでいるのか、焦っているからなのか、オアシスを満たしたときよりも水が出る量が多かった。あっという間に、砂漠の中に川が出来上がった。ジェイドとフロイドはすぐに人魚の姿に戻り、川の中へ入る。


「では、フロイド。川が凍る前に行きましょう。アズール、グリムくん。僕の背中に捕まって」
「小エビちゃんとラッコちゃんはオレの背中ね〜」


「あれ? でもアズールは人魚なんだろ? 自分で速く泳げるんじゃねーのか?」と聞くグリムに「アズールは人魚になっても泳ぐのが速くありませんから」とクスクス笑みを浮かべながらジェイドが言った。「それは尾びれの形状差のせいです。さあ、スカラビア寮へ向けて出発しますよ!」そう言って、アズールとグリムを背に乗せたジェイドが先に泳ぎ出した。3人はみるみるうちに遠くへ行く。

「しっかり捕まっててね、特に小エビちゃん。じゃないと振り落としちゃうよ」フロイドの言葉にギクリとしてフロイドの背中にしがみつく。ここで振り落とされるのは困る。するとカリムは上から覆うように夜月を押さえつけるようにしてフロイドに捕まった。振り向くと、カリムがニッコリと笑って「大丈夫だって! オレが押さえといてやるから、お前はしっかり捕まっとけよ」と言い放った。


「そんじゃ行くよ」
「おう、よろしくな!」


それを合図にジェイドたちを追うようにフロイドも川を泳ぎ出した。