×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -






23


「――話は聞かせていただきました」
「――!?」


「なっ・・・・・・お前たち、どこから聞いて・・・・・・!?」背後から現れたフロイドや夜月とグリムの姿に目を見開く。「最初からすべて、ですよ」ジェイドは続ける。「談話室を出てからのおふたりの会話は、ずっとアズールのスマートフォンから全世界にライブ配信されていたんです」その言葉に「・・・・・・は?」と素っ頓狂な声を上げた。アズールのライブ配信を視聴中のユーザーは5000人越え。『某有名魔法士養成学校の闇実況』としていま話題騒然としている、とジェイドは続ける。


「副寮長の晴れ舞台。もちろん寮生のみなさんも談話室に集まって視聴中です」


するとバタバタと駆けてくる足音が近づいてくる。談話室にいた寮生全員が、急いで走ってきていた。「ジャミル副寮長、今の話は本当なんですか?」「今までずっと、寮長や僕たちを騙していたと・・・・・・!?」寮生たちは信じられないとジャミルを見る。「いい人ぶっておいて、ひでぇヤツ! とんだ嘘つき野郎なんだゾ!」グリムはジャミルに同情していた分、プンプンと怒っていた。

「そ、それは・・・・・・違う、俺は・・・・・・っ」ジャミルは取り繕うと言葉を探す。「もう言い逃れはできませんよ。アズールに使った洗脳魔法が動かぬ証拠」ジェイドがはっきりと告げる。「ジャミルさん・・・・・・貴方こそユニーク魔法でカリムさんを操り、スカラビアを混乱に招き入れた黒幕だ!」ジェイドに事実を突きつけられ、ジャミルはふっと息を吐いた。「事を荒立てるつもりはなかったが・・・・・・こうなれば仕方ない」


「アズール! 命令だ! コイツらを全員ねじ伏せて、拘束しろ!」
「・・・・・・はい、ご主人様」


「っ・・・・・・!」まずい、アズールはこの学園でもトップクラスの魔法士だ。奪った能力全てを返還していたとしても、相手にするのは困難だ。「くっ・・・・・・アズール! いけません、正気に戻りなさい!」ジェイドは唇を噛む。「呼びかけなど無駄だ!」ジャミルは勝ち誇ったように高嗤う。「はい。僕は、ジャミル様の忠実な下僕・・・・・・」


「――な、わけないじゃないですか」


「なにっ!?」アズールの様子にジャミルは目を見開いて驚愕する。「ジャミルさん、さきほどのお言葉そのままあなたにお返ししますよ」アズールはニヤリと嗤う。「僕を“傲慢な魔法士”と思って油断していましたね。熟慮の精神をモットーとするスカラビアの副寮長ともあろう者が、ザマァない」


「どういうことだっ? 確実に目を見て、洗脳したはず・・・・・・!」
「僕はいつでも万全の対策を練ってから行動を起こす、堅実な魔法士ですから。ねえフロイド」
「ウミヘビくんさぁ、ちょっと油断すんのが早かったんじゃない?」


「えっ!?」夜月が思わず声に出して驚く。「ふな”っ!? オメー、なんだその声!?」ぬっと現れたフロイドから放たれた低い声に驚く。「オレ、アズールと契約して、この低い声もらったんだぁ。どお? 渋くていいでしょ。かわりにぃ、オレの自慢のユニーク魔法『巻きつく尾バインド・ザ・ハート』をアズールに差し出した」そこで夜月は気づく。


「そっか・・・・・・フロイド先輩のユニーク魔法は、相手の魔法を妨害して矛先を逸らす魔法だから」
「ヨヅキさん、ご明察です」


「僕はフロイドから巻き上げた、もとい、担保に預かった『巻きつく尾バインド・ザ・ハート』を使いジャミルさんの洗脳魔法を回避した」アズールは事の種明かしをする。「そして、操られたフリで油断したジャミルさんから真相を聞き出した・・・・・・というわけです」

「さずがアズール! むちゃくちゃ性格わりぃんだゾ!」グリムの言葉に「頭脳派と言ってくれませんか」とアズールはフッと笑う。「ま、カリムさんがジェイドのユニーク魔法にも屈さないほど強く思う相手など彼しかいないだろう・・・・・・と予想がついていたからこそたてられた作戦ですがね」


「ジャ・・・・・・ミル?」


悲痛な声に気づいて振り返れば、よろよろとした足取りのカリムがそこに立っていた。「これは一体・・・・・・どういうことだ?」目を見開いて、ジャミルに問いかける。「カ、カリム・・・・・・」カリムを目の前に、ジャミルは足踏みをする。「お、お前がオレを操ってたなんて・・・・・・嘘だよな?」カリムはなんとか笑おうとして口の端をあげるが、その姿は痛々しかった。「最近たまに意識が遠のいて、いつの間にか時間が過ぎてたりしたことがあったけど・・・・・・でも、ただの貧血だろう? オレ、どこでも寝ちまうからさ」はは、と乾いた笑みを浮かべる。「お前がオレを操るなんて、オレを追い出そうとするなんて、するわけないよな?」悲痛な顔で、縋るようにジャミルを見詰める。


「ジャミル、お前だけは・・・・・・お前だけは絶対にオレを裏切ったりしないよな? だってオレたち、親友だろ!?」


カリムの悲痛な叫びにジャミルは答えなかった。「・・・・・・はは。はははは」答えたのは、乾いた笑み。「あははははははははは!!!」ジャミルはおかしそうに声を上げて笑う。「・・・・・・そういうところだよ」ジャミルはカリムに視線を向けた。「え・・・・・・?」


「俺はな・・・・・・物心ついた時からお前のそういう能天気でお人好しで馬鹿なところが・・・・・・大っっっ嫌いだったんだ!!!」


「こっちの苦労も知らないでヘラヘラしやがって!! お前の笑顔を見るたびに虫唾が走る。もううんざりだ!」今までため込んできたものを、全てさらけ出す。「もう取り繕っても意味がない。俺はな、お前さえいなければと毎日毎日願い続けてきた。だが、それも今日でおしまいだ!」ありったけの憎悪を込めて、カリムを見やる。


「俺も、家族も・・・・・・なにもかも、どうにでもなれ!!」
「ま、待て、ジャミル!」
「『瞳に映るはお前の主人。尋ねれば答えよ、命じれば頭を垂れよ――蛇のいざないスネーク・ウィスパー』」


ジャミルはこの場にいた寮生全員にユニーク魔法をかけた。「なっ・・・・・・! まさか寮生全員を洗脳にかけただと!?」寮生たちはそれぞれに頭を抱え、迫りくる頭痛に蹲る。「お前たち、カリムとオクタヴィネルのヤツらを外につまみ出せ!」洗脳をした寮生たちにジャミルが命令を下す。

洗脳された寮生たちは虚ろな瞳でジャミルの命令を聞く。じわじわと囲い込んで迫ってくる寮生の一人が、魔法の使えない夜月に襲い掛かった。「ヨヅキさん、下がって!」咄嗟に近くにいたアズールがそれをかばう。


「あ、ありがとうございます」
「お礼は良いですから、僕から離れないでください!」


「信じられない。これほど大人数を同時に、しかも個別に操るなんて!」ジャミルの魔力は学園の中でも間違いなくトップクラスだとアズールは言う。「コイツら何度絞めてもまた起き上がってくんだけど。ゾンビかよっ!」何度薙ぎ払っても起き上がって襲い掛かってくる。


「ジャミル! もうやめろ、わかったから。お前が寮長になれ! オレは実家に戻るから・・・・・・っ」
「はぁ? なに言ってんだ。俺の呪縛は、そんなことで簡単に解けはしない・・・・・・カリム、お前がこの世に存在する限り!」


寮生の攻撃を避けながらカリムは叫ぶが、ジャミルの耳には届かない。「いけません。これ以上ユニーク魔法を使い続ければ、ブロットの許容量が・・・・・・!」ジェイドが忠告をするがジャミルは聞かない。「うるさい! 俺に命令するな。俺はもう、誰の命令も聞かない!」


「俺は、もう自由になるんだーーーー!!」


――臙脂色の石が、黒く塗りつぶされた。

強い魔力が爆発し、夜月たちは咄嗟に目をつむった。目を開ければ辺りは赤黒い空で覆われ、先ほどまでの光景とは一変された。そして黒いものに飲み込まれたジャミルは、黒く姿を変貌させた。

「なんだあれ!? ジャ、ジャミルの姿が!?」初めてブロットを見るそれに、カリムが目を見開く。「空模様まで変わっていく。これは、アズールの時と同じ・・・・・・!」ジェイドの言葉に夜月が続けた。「オーバーブロット・・・・・・」いままでと同じだ。このままだと、オーバーブロットでジャミルの命にもかかわってしまう。「援軍の見込みがない冬休みだというのに、厄介なことになりましたね」アズールは冷静に眉間にしわを寄せ、状況を把握する。「アイツも闇落ちバーサーカーになっちまったのか!?」ジャミルの姿を見て、グリムは怯える。


「ブロットの負のエネルギーが膨れ上がっていく・・・・・・みなさん、構えてください!」


アズールの言葉に、それぞれがマジカルペンを構える。「さあ、カタを付けてやる・・・・・・こんな暮らしはもうおしまいだ」ジャミルは目を見開き、口端を上げて目の前にいる6人に吐き捨てる。「早く正気に戻さなければ・・・・・・彼の魔力がつきたらおしまいですよ」ジャミルの攻撃をかわしながらアズールが言う。「ジャミル! 頼む、正気に戻ってくれ!」カリムは何度も何度も呼びかけた。

「無能な王も、ペテン師も・・・・・・お前らにもう用はない!」ジャミルは不気味に笑う。「宇宙の果てまで飛んでいけ! そして、二度と帰ってくるな!」その瞬間、ジャミルは魔法を6人に打った。魔法によって打ち上げられる直前、アズールは近くにいた夜月を咄嗟に抱え込んだ。6人はあっという間に空に打ち上げられた。


「ドッカーーーーン!! ナイスショーーーーット! フハハハ! あばよ、カリム!!」


「ひゃーーーっはっはっはっは!!」スカラビア寮に、ジャミルの笑い声が響き渡った。