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22


その後はアズールが考えた計画通りに効率よく進んだ。まず別れたフロイドがスカラビア寮生たちと朝食の準備をしていた。ジャミルが付いたころには、もう毒見の確認程度しか残っていなかった。次に無理な特訓はやめ、効率を重視した学習内容を徹底した。最初は古代呪文語で、アズールが丁寧に教えスムーズに進んだ。その次は模擬試験。頭を使った後は身体を使った特訓。それらが終わると食堂で昼食を作った。今回はカリムも料理に参加し、ジャミルに見守られながら挑戦した。とはいっても、鍋をかき回す程度しかしていないが。

トントン拍子に効率よい、有意義な時間が流れた。「こんなに有意義な合宿なら、学校に残ったのも悪くないな」「悪い夢を見てたみたいだ・・・・・・」カリムの様子も変わらなかったこともあり、不満を抱いていた寮生たちはそれらを忘れたように呟いた。それを聞き、秘かにジャミルが一瞬顔をしかめる。


「・・・・・・おや、もうすぐ3時だ。もう少し勉強をしたら休憩を取りましょう」


再び座学を談話室で進めていた時、ふと時計に目を向けたアズールが口にした。


「お茶を準備してきましょうか?」
「なら私も手伝います」
「いえ、僕が準備しましょう。一番課題が進んでいますので」


アズールは腰を上げ一人で向かおうとする。「俺も手伝おう」そこでジャミルが声を上げ「それは助かります。では行きましょうか、ジャミルさん」と2人は談話室を後にした。談話室を後にした2人の背を眺めていると「ヨヅキさん」とジェイドが声をかけた。ジェイドは含んだ笑みを浮かべる。「では、僕たちは僕たちで取りかかりましょう」



■ □ ■



談話室を後にした2人は、他愛のない会話をしながら廊下を進んでいた。「ヨヅキさんたちからカリムさんが情緒不安定にあると聞いていたのですが・・・・・・僕らが来てからは、彼の心も落ち着いている様子」前を歩くアズールが一歩後ろで歩くジャミルに視線を送らず喋る。「カリムさんも寮生からの信頼を取り戻せそうで良かったですね」アズールは笑顔で続けた。


「・・・・・・それじゃあ、困るだよ」
「え?」
「悪いが、これ以上君らをスカラビアには置いておけない。海の底へ帰ってもらおう」


「ジャミルさん、急にどうしたんです? ボク、なにか気に障ることでも・・・・・・?」足を止め振り返ったアズールは控えめに尋ねる。「本当にわからないのか? この俺の、悲しい顔を見ても?」ジャミルは悲しそうにつぶやく。「え・・・・・・?」


「――俺の目を見たな、馬鹿め」


自分の瞳を見たアズールに、ジャミルは口端を上げた。


「『瞳に映るはお前の主人あるじ。尋ねれば答えよ、命じれば頭を垂れよ――蛇のいざないスネーク・ウィスパー』」
「なにっ!? うぅ、頭が・・・・・・っ!」


危機を察知したころにはもう遅く、アズールは頭を抱えた。「抗えば苦痛が長引く。さっさと諦めて従うんだ――さあ!」ジャミルは口端を上げ、蹲るアズールに言い放つ。「・・・・・・アズール、お前の主人の名は?」ジャミルが静かに尋ねる。「僕の主人は――・・・・・・」


「あなたさまです、ジャミル様。なんなりと、ご命令を・・・・・・ご主人様」
「・・・・・・フ、ハハ。ハハハハハ!」


「俺を“平凡な魔法士”と思って油断していたな。オクタヴィネルの寮長ともあろう者が、ザマァない」高笑いをしたジャミルは目の前の虚ろ気な瞳のアズールに吐き捨てる。「まったく・・・・・・お前らのせいでコツコツ進めてきた計画がパァだ!」ふつふつと怒りを募らせ、ジャミルは続ける。「あともう少しでオンボロ寮のヤツらが寮生を焚きつけて、カリムを追い出してくれそうだったのに!」


「俺の手を汚さずにカリムを寮長の座から引きずり下ろすために、一体どれだけ面倒な下準備をしてきたと思ってるんだ」


「まずアズールに命令して双子と共に珊瑚の海へ帰省させて・・・・・・いや、待てよ」ジャミルはアズールに目を向ける。「アズール、君は先日契約で奪った能力を元の持ち主に返還したんだったな?」ジャミルの問いにアズールははい、と頷く。「チッ、ではランプの魔人のようにコイツを便利に使うのは無理か」アズールの『黄金の契約書イッツ・ア・ディール』の利用価値は高いが、ジャミルでもアズールを長時間洗脳し続けるのは難しかった。


「・・・・・・ですが、契約内容は覚えています」
「なに?」


「僕と契約するに至った人物の秘密、悩み、弱み、欲望・・・・・・僕はすべて覚えている」淡々とアズールは答える。「なんて趣味の悪いコレクションだ。やはりお前とは友人にならなくて正解だったな」ニヤリとジャミルは口端を怪しく持ち上げた。「その悪趣味なコレクションの中に学園長ディア・クロウリーの秘密はあるのか?」ジャミルの問いに「もちろんです。彼が漏らされたくない秘密を、僕は知っている」とアズールは頷く。


「は、ははっ・・・・・・やった。やったぞ!! これで、すべて上手くいく! やはりお前は俺のランプの魔人だ、アズール!」


「学園長の弱みが握れれば・・・・・・やっと俺は自由になれる・・・・・・」ようやく見えた終点に、ジャミルは口元を三日月形に持ちあげた。「学園からカリムを追い出し、寮長になれるんだ!」高らかにジャミルは薄ら笑った。