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人殺しの歌



泉が借りたレッスン室で、夜月は言われた通り、一人黙々とレッスンの準備に取り掛かっていた。一応『バックギャモン』のレッスンとして借りているが、誰も来ない。それも当たり前だ。彼らは努力をしようとしない、堕落者なのだから。

しばらくすると、レッスン室の扉が開いた。


「おかえり、泉。準備なら終わってるよ」

「ああ、ありがとう夜月。レオくんなら病院に押し込んどいたよ」

「それはどうも」


無事レオを病院に送り届けてくれたらしい。話に聞くと、数日の入院で済むという。軽症で良かったと、ひとまず夜月は胸を撫でおろす。

そして泉とともに現れた人物へ視線を向けた。顔の整った茶髪の男子生徒。その男子生徒は、なんだか見たことのある黒髪の男子生徒を背負っていた。夜月の視線に気づいた茶髪の男子は、ニコリと笑いかける。


「あら、この子が夜月ちゃん? 綺麗で可愛らしい子ねぇ〜、泉ちゃんが気にするのもわかるわぁ」

「ちょっとなるくん? 余計なこと言わないでくれる〜?」

「・・・・・・で。この男は誰だ、泉」


夜月は表情を変えず、冷たく問いかける。「わ、わりとクールな子なのね」予想していたより冷たい解答で、茶髪の男子は苦笑する。「クールってより、辛辣っていうか素気ないっていう感じじゃない?」クールだと評する彼に泉が異をとなえる。「へえ、泉は私をそんな風に見ていたんだな。まあ、どちらにしても泉に言われたくはないが」フッと少し笑って夜月は応えた。


「というか、はっきり誰って言われると、あたしでもちょっとショックね・・・・・・」

「あんた、雑誌とか全然読まないからね〜」


「少しはファッションとかお洒落に興味持ったら?」という、泉の余計なお節介を夜月はいつもながら聞き流す。再び茶髪の男子に視線を向ければ、彼は改めて自己紹介をする。「あたしは鳴上嵐よ、学年はあなたの一つ下ね」愛想よく彼は微笑む。「昔、仕事関係で関わってね。一応『バックギャモン』のメンバーだよ」泉の補足説明に、夜月は「ふうん」と大して興味もなさそうに応答する。どうやら暇そうにしてたらしい嵐を泉がレッスンに誘ったらしい。


「で、そっちは?」


今度は嵐が背負っている、見たことのある男子に視線を向ける。「ああ、この子?」嵐が背負っている彼に目を向ける。「道端で倒れててね〜。ほっとけないし、とりあえず拾ってきた感じ」泉がそう夜月に説明していると、もぞもぞと嵐の背中で彼が動き出した。


「う〜・・・・・・うるさいなぁ。耳元でごちゃごちゃ騒がないでよ〜・・・・・・?」


眠そうな声で文句を言い、起きたての寝ぼけた目をゴシゴシと擦る。そして辺りを少し見渡し、嵐や泉を視線に入れた後、夜月を見てニコリと顔をほころばす。


「あ〜、夜月だぁ。なんか久しぶり〜」

「凛月・・・・・・また地べたに倒れてたな?」

「うん〜・・・・・・だって眠いもん・・・・・・ふぁ」


そんな凛月に夜月はため息を一つ落とす。「なに。夜月、くまくん?のこと知ってるの?」名前も良く分からないのか、泉は疑問形にして夜月に聞く。「ああ、まあ・・・・・・何度かね」深くは語らず、面識があることだけを示す。


「夜月がいるところに来るとかラッキ〜。あ、安心して。長居はしないつもりだし・・・・・・今、ま〜くんに連絡して迎えに来てもらうから」


「えっと、誰かすまほとやらを持ってない?」凛月はそういって泉から携帯を貸してもらった。そして画面を開くも、使い方がいまいちわからず手こずる凛月に、泉は甲斐甲斐しく代わりに操作してやり、ま〜くんもとい幼馴染である真緒へ電話をかけてやる。それを見た夜月は、いい加減この兄弟は文明の利器を身に着けてはくれないものか、と呆れため息をついた。

凛月は部屋の隅に移動し、泉と嵐はレッスンを始める。

準備運動を終え、CDに焼いたレオの新曲を流す。歌詞はまだついていない。だから今回は曲調とリズム感を覚え、ダンスの振り付けを徹底的に身に着ける予定だ。近々ライブはあるが、骨折しているレオを動かすわけにもいかない。そこでやる気のあまりない嵐を仲間へ引き入れた。すると、寝ていたはずの凛月まで音楽に惹かれて踊りだす。そうしていると、扉からドタドタと駆け足で真緒が入ってきた。


「りっちゃ〜ん! せめて自分がどこにいるとか教えろよっ、すっげぇ心配したんだからな!」

「ふふん。ま〜くんなら大丈夫、ま〜くんなら世界のどこに居ても俺を見つけられる」


得意げに笑う凛月に、毎回振り回される真緒も可哀想だ。少々騒がしくしていると、泉のお小言が入る。それに真緒は素早く謝る。いいけどね、と続ける泉は案外凛月のことを心配していたようだ。


「あまり無理して陽の下に出ないようにね、凛月」

「それ、夜月にとってもブーメランじゃない?」

「先輩も、たびたびすみません・・・・・・じゃあこいつは回収しますんで! ほら行くぞ凛月、あんまり手間かけさせんなよいつも!」


「じゃあね〜、夜月」バイバイと陽気に手を振り、凛月は真緒の背中に乗ってレッスン室を立ち去った。毎回のように凛月を回収する真緒も大変だが、世話焼きな性格上仕方ない気もする。

騒がしさも消え、レッスンに集中しようとすれば、今度は泉の携帯が鳴りだした。電話の相手はどうやらレオのようで、寂しいからと病院の公衆電話でかけてきたようだ。そんなレオに文句を言いつつアドバイスを言い渡し、最後に夜月と電話を替わって少し話してから通話を切った。


「まったくもう。寂しいから電話してくるとか、ちっちゃい子か」

「ちっちゃい子だよ」

「あんたがレオくんを甘やかすからでしょ〜」

「自分から世話を焼きに行く泉には言われたくない」


「うふふ。やっぱり泉ちゃん、『れおくん』さんや夜月ちゃんと喋ってるときは良い表情してるわね。ほんと、昔の泉ちゃんに戻ったみたい」2人の会話を眺めていた嵐は、嬉しそうに笑いながらそう言った。それから少し2人の昔話を離していると、突然扉が強引に開かれた。


「ははは! ママのことを呼んだかなあ!!」


次から次へと人が増える。そして次に現れたのがコレなのが問題だ。斑を見た瞬間、夜月は明らかに嫌そうな顔をして顔を逸らした。

「おお、夜月さんもいるなあ! おーい、夜月さーん!」そんな夜月のことなど気にせず、斑は無遠慮に話しかける。「おーい、無視か〜? ママ悲しいぞ〜?」無視をし視線を逸らす夜月を、斑は追いかける。「甚だ鬱陶しい、ウザイ」はっきりと告げる夜月に、斑はハハッと笑いながら「女の子がそんな言葉遣いしちゃダメだぞ〜、可愛いのが台無しだ!」と続ける。そして夜月も「迷惑」と続けた。

突然入ってきた斑に泉が文句を言うと「三拝九拝! 失礼があったなら頭を下げよう! だが実際、君たちが此処に居ると聞いて足を運んだんだよなあ!」と相変わらず大きな声で告げる。そして辺りを見渡して、レオがいないことに気づく。


「あいつは病院、腕の骨折っちゃってさ。あんた、レオくん・・・・・・と、夜月の知り合い?」

「友達だぞお! お互い気になってて、こないだ声をかけて仲良くなったんだぞお!」

「言っとくが、私は違うぞ」

「あんたのは見てれば分かるよ。ていうか、夜月がここまでヒト嫌ってんのも珍しいね」

「ははは! 2人とも手厳しいなあ!」


「ともあれ、そうかあ。レオさん痛そうにしてたけど骨折してたんだなあ・・・・・・それは可哀想に、あとでお見舞いに行こうかなあ?」知らなかった事実に、斑は心底心配そうな表情を浮かべる。そんな斑に「あんたはあいつが怪我をした理由知ってるの?」と泉が問いかける。


「だったら教えて。あいつも夜月も、頑なに内緒にしやがるから詳細が謎なんだよねぇ?」


「あいつ、無視も殺せないような優しい奴だし。乱闘騒ぎを起こしたってだけ聞いて耳を疑ったんだけど?」事情を一切聞いていない泉の話を聞き、斑は冷静に視線だけを夜月に送った。そして無言で瞼を伏せ顔をそむける夜月に、斑は一瞬目を細めた。


「んん。レオさんが黙ってることを、オレが勝手に言うわけにもいかんなあ」


斑は首を振り「ガミガミ怒られたくなくて君には秘密にしてるんだと思うけどなあ?」と憶測を口にする。「これだけ確認しとくけど、犯罪に巻き込まれたとかじゃないよねぇ? あいつ、世の中の悪意に対して無防備すぎるし心配なんだけど?」心配する泉は少ない情報だけでも確認しようと問う。

しかしその質問も難しい。言葉の定義から始めたいところだ。人間ひとりひとりが異なる思想を持てば、価値観も変わり定義も変わってくる。質問に答えるためには犯罪の定義を確認しなければならない。面倒な話だが、斑や夜月には少なからず必要な手段だ。


「まあともあれ、レオさんがいないなら仕方がない。君はどうもあの子と仲良しっぽいし、言伝を頼まれてくれるかあ? ああ、夜月さんもいることだし、夜月さんでもいいか」


ニコニコいた顔で斑は視線を向け、口を開く。「『猫は無事だ』『悪党は俺が始末をつけるから、君はもう関わるな』」この言伝を理解できたのは、夜月だけ。泉は首を傾げるばかり。そんな泉を置き去りにして、用を終えた斑は不躾なマザーグースを歌って部屋を退出する。

泉は勝手に張り込んで、言うだけ言って勝手に帰っていく斑に愚痴をこぼす。そして嵐に声をかけ、ようやくレッスンに集中しようとする。夜月は出ていった扉をじっと見つめた。そして泉に一言断って、部屋を出た。


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