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あの日の約束を今



レオが『Knights』のリーダーとして復帰して、数日が過ぎた。これで『Knights』のメンバーが全員そろった。とはいっても、変わったことはあまりない。レオは相変わらず自由奔放で、すぐにどこかへ行くし、迷子になる。なかなかレッスンにも参加しないし、遅れるなんて当たり前。そんなレオに青筋を立てる司と泉が、鬼の形相で連れて帰ってくるのがオチだ。

レオの笑顔を、この場所で見れた。レオと泉が昔みたいに居るのを、この目で見た。この『Knights』で、レオは笑っている。それだけで十分だ。夜月は満足そうに、そっと瞼を下ろして微笑んだ。

『ジャッジメント』も終わったことで、夜月はプロデューサーとして次の仕事に取り組んでいた。様々なユニットが、様々なイベントや催しを持ってくる。プロデュース科に所属する夜月や後輩のあんずは引っ張りだこであった。
こうして夜月が次の仕事へ目を向けたのも、レオはもう大丈夫だと、安心したからだろう。


放課後に廊下を一人で歩いていると、背後から名前を呼ばれた。振り返ると、あんずが駆け足でこちらに向かってきていた。「やあ、あんず。どうかしたのかい?」可愛い後輩に、夜月はニコリと笑って問いかける。するとあんずは夜月の前で足を止め、息を整えてから口を開いた。

あんずは、一緒に講堂へ来てほしいと口にした。その顔は真剣で、なにかありそうだった。「講堂へ?」と聞き返せば、何度も首を縦に振る。顎に指を添えて、何かあったのだろうかとあんずを観察するように見つめていれば、とりあえず来てくださいと、あんずは半ば強引に夜月を講堂へと誘った。少し強引なあんずを不思議に思いつつ、夜月はあんずの後を追う。

講堂の扉を開け中へ踏み込むが、何かが変わった様子は何もない。電気がついていないため辺りは暗く、客席には人ひとりいない。舞台も幕が下がっている状態だ。

講堂の中へ進むあんずの後を追うと、ちょうど中列の中間あたりで振り返った。少し待っていてほしいとだけ告げ、あんずはそそくさと舞台裏へ続く扉の中へ姿を消す。うーん、と不思議に思いつつ夜月は律儀にその場で待った。数分立ちっぱなしであんずを待っていると、立ちながら待ちぼうけをするのは面倒だと、夜月は観客席に腰を下ろした。それから少しして、講堂にブザーが鳴り響いた。

講堂でブザーが鳴るのは、ライブの開始合図だ。そのブザー音に驚いていると、スポットライトが光り始めた。それに伴い、聞いたことのない曲が流れ始める。スポットライトが辺りを照らしていると、舞台の幕が上がっていく。そしてすべて上がり切った後、講堂のスポットライトが舞台を照らしだした。

それを見て、夜月は目を大きく見開いた――。

スポットライトを浴びて舞台に、ステージに立つのは、5人の騎士。騎士をモチーフとした、白と紺をイメージカラーとした、煌びやかな衣装を身にまとって、マイクをもって、彼らは立っていた。

彼らは曲に合わせて、ステップを踏んで、歌いだす。踊る。歌う。魅せる。目の前で行われる歌に、踊りに、ライブに、夜月は目を丸くして見つめた。

なんだ、これは。なぜ、彼らはライブをしているんだ。今日はライブの予定はない、そんな予定も聞いていない。観客も誰一人いないというのに。聞いたことのない曲だ。新曲のリハーサルだろうか。これは、なんのためのものだ。

夜月は珍しく困惑していた。心底訳が分からなかったのだ。それでも彼らが、『Knights』が歌う歌を、レオが作った曲を聞き逃さないようにと、夜月は輝くステージを見詰めた。

やがて歌を終えると、一つ深呼吸を落として、レオはしっかりとマイクを握って、観客席に座る夜月をみつめた。


「おまえに、夜月に! ありったけの”ありがとう”を言いたくて企画したんだ! これはおまえに捧ぐ、おまえのための、おまえだけのライブだ!!」


マイクを通したレオの声が、講堂に響く。
夜月はそっと息をのんだ。目の前のレオは、愛しいものを見るような目で、見つめてくる。


「なあ、言わせて、今まで言えなかったこと。まずは謝らせて、ごめん。守ってるつもりで守られてた。いっぱい困らせた、いっぱい迷惑かけた。おまえを一人置き去りにして逃げた。いっぱいあって、何から謝っていいかわかんないけど、言い尽くせないほど、おまえを心配させた!」


「ごめんなっ!」レオはバッと勢いよく頭を下げた。その様子を、周りの4人は微笑みながら見守った。

夜月は、真正面から送られたレオの誠心誠意の謝罪に、言葉をなくした。何も謝ることは無い。自分が好きでやったんだ。自分が選択した。そう口を開こうとしたとき、再び放たれたレオの声に止められた。


「それから、ありがとう! 感謝してもしきれないほどのありがとうをおまえに言いたい! ずっと守ってくれてありがとう。ずっと一緒にいてくれてありがとう。寄り添って、手を離さないでいてくれた。ありがとう。ありがとう、夜月!」


言葉では表せないほどの感謝を、レオは精一杯言葉で紡ぐ。こんなにも晴れやかなレオの笑顔は、今まで見ただろうか。


「春の革命も、おれのために、楽しい学校生活を取り戻そうとしてくれた。いっぱい戦って、いっぱい傷ついて。ありがとう、夜月。おまえのおかげでおれは、今! ここで! こうして笑って『Knights』としてステージに立ってる! 全部おまえのおかげだ!」


両手を大きく広げる。
泉も、凛月も、嵐も、司も。目元をやわらげて微笑んでいた。


「それで、えっと・・・・・・おまえになにかしてあげたくて。でもおれ馬鹿だし、おれがおまえにあげられるものなんて、きっとない。でも、おまえはおれが作った曲が好きだって言ってくれたから。だから、おまえのために作ったんだ! 抱えきれないほどの感謝を込めて、何度も何度も作り直して、やっとおまえのために書いたこの曲ができた!」


ああ、そういうことか。それなら、さっきの曲を聞いたことが無くて当たり前だ。レオが書いた、自分にだけに贈られた、世界に一つだけの一曲。

ああ、なんだろう。なんだろう、この展開。まるで絵本にある、民衆から感謝をされる英雄のような立場だ。こんなの、怪物には見合わない。『怪物』は、感謝されないんだ。それが絵本の、お伽噺のルール。それでも、レオ。君だけは、昔からずっと、そうやって、真っ直ぐに、こんな『怪物』に笑顔を向けるんだ。

夜月は輝かしいステージから目を伏せ、瞼を下ろした。


「夜月! 顔を上げてくれ! おれのこと、ちゃんと見てくれ!」


顔を上げて再びレオに目を向ければ、またあの笑顔がある。
ああ、その笑顔は眩しすぎる。その笑顔を、ずっと、見たかった。君が笑ってくれるなら、なにもいらない。君が笑っていてくれるなら、他に何も要らないんだ。


「おれはもう、大丈夫だよ。もう折れたりしない。おまえの剣に、騎士になる。だからもう一回約束させて、誓わせてほしい。今度こそ、おれがおまえを守るから。今度こそ、おれたち『Knights』が、おまえの『騎士』が、おまえを守るから」


あの日の約束を、もう一度。幼い日に交わした、子どもの約束。またレオは、満面の笑みを浮かべて、約束をするんだ。再会をしたときと同じように。


「さあ、聞いてくれ! おまえに捧ぐライブはまだまだ終わらないぞ! おまえに歌を捧ぐ! おまえに感謝を捧ぐ! おまえに、愛を捧ぐ! 愛してる、大好きだっ!」


最後の言葉は、レオらしい言葉だった。


「言っとくけど、俺たちもいるからねぇ。『王さま』ばっか見て俺から目を離すんじゃないよ」

「お昼に俺がこんだけしてるんだよ。よそ見なんて許さないから」

「あらあら、泉ちゃんに凛月ちゃんったら、熱烈ねぇ。アタシたちの愛が籠った歌を聞き逃しちゃダメよ」

「お姉さま。貴女に最上級の敬意を、敬愛を捧げます。どうか我ら『Knights』の想いをお聞きください」


一人ひとりが、しっかりと夜月の目を見詰めて言葉を紡ぐ。その様は本当の騎士のようであった。

この場所が大切だった。『Knights』と言う場所が、大切だった。レオが与えてくれた、居場所だった。レオと泉と、そして私で始まった『Knights』。それが今では5人となって、仲間が増えた。辛いことがたくさんあった。悔しいことがたくさんあった。後悔をした。衝突して、喧嘩して、たくさん涙を流した。それが今、それを乗り越えて、輝いている。こんなにも報われる未来があるのだと、知った。

笑っている。君がそこで笑っている。

それでいい、それで満足だ。
君が笑っていてくれるなら、それでいい。
君が笑っていてくれるなら、他に何もいらない。
それだけを、ただずっと望んでいる。
それだけで、全てが報われる。


「夜月、笑ってくれ!」


この光景を、私は一生忘れないだろう――。
この光景は、最期まで、私の胸の奥に、ずっと――。




――Fin.

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