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おもいでの場所で



レオと夜月は駅のホームにきていた。レオは切符売り場の前に立って、駅地図を見上げてうーんと唸っている。夜月はそれを一歩後ろで眺めながら待っていた。

なぜこんなところに来ているのかというと、数時間前に遡る。いつも通り制服に着替えて学校に行こうとしたが、突然レオに手を取られ「行こう!」とグイグイ引っ張られた。連れてこられたのは駅で、適当に電車に乗り込んで今に至る。


「夜月、右と左どっちが好き?」

「左かな」

「うーん、じゃああっち!」


レオは夜月の手を取って左側のホームに出てまた電車に乗り込む。

レオはこうやって電車の向きとか、電車のラインの色とか、気になった方とかで乗り込む電車を選んだ。「どこに行きたいの?」と聞けば「どこにも?」と答える。これは目的のない電車旅だ。思うがままに進んで、たどり着いた場所が目的地。

それから何時間も電車に揺られた。思い至った時に電車を降り、また乗って。戻っては進んで、進んでは戻って。それを何度も繰り返す。都会の風景から田舎の風景に変わる。そうしてようやく、終電に夜月とレオはたどり着いた。

たどり着いた場所は海だった。学園のそばにある海ではなく、反対側の海だ。朝に出発したというのに、もう夕方だ。もうすぐ太陽が沈む。空も海も夕焼け色に染まり、黄昏時を迎えていた。

砂浜に立ってぼんやりと海を眺めていると、隣に立ったレオがおもむろに靴を脱ぎだし、ズボンの裾を上げて海に入っていった。


「レオ。いくら夏だからって、もう陽が沈む。風邪をひくよ」

「大丈夫だって。夜月も来いよ!」


ばしゃばしゃと海に入ったレオは、そう言って大きく手を振る。夜月は荷物を下ろし、同じように靴を脱いだ。裸足になって海に入り、レオのところまでいく。ちょうど膝ぐらいまでの深さだ。

「見ろ、夜月!」レオは海の先、水平線を指さす。「綺麗だなあ。あの時も、こんなだったな」夜月は隣に立つレオを見上げた。レオは懐かしそうにどこか遠くを見つめていた。そっとレオの手を握ると、レオもそれを握り返した。


「ここに来たかったの?」

「ううん。結局ここにたどり着いただけ、そうだろ?」


水平線に向けていた視線をレオは夜月に移した。握った手を離さないようにギュっと握りなおす。絶対に離さないように、何処にもいかないように、見失わないように、迷子にならないように。

しばらく無言で水平線を眺めていれば、ふいに手を引かれる。「夜月! もっとあっち行こう、もしかしたら名曲が生まれるかもしれない!」浅瀬の向こうを指さしながら、レオはグイグイと夜月の手を引っ張る。「レオ、そんなに引っ張ると・・・・・・っ!」忠告は遅く、夜月は足取りを取られ身体を傾けた。

地面は砂で海の中だ。足取りは悪く、夜月は足を取られて身体を崩した。引っ張っていたレオがそれに気づき、咄嗟に夜月の身体を支える。しかしレオもバランスを崩し、一緒になってその場に倒れた。転んだことにより、水しぶきがはねた。尻もちをついて座り込んだ二人は全身びしょ濡れになった。


「わははっ! びしょ濡れだな!」

「だから言ったのに・・・・・・はあ」


レオは楽し気に声を上げて笑う。夜月はため息を落とした。それからお互いをじっと見つめると、笑いがこみあげてきてフッと二人して笑い始めた。海の中、座り込んだまま、二人は声を上げて笑う。

あの時とはまるで、正反対だ。

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