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きみがとなりにいる



「お前の家に来るのも久しぶりだな!」

「そうだね、レオ」


その日の学校帰り、レオは久しぶりに夜月の家に足を踏み入れた。つい最近まで海外に行っていたこともあって、この家にレオが来るのは久しぶりだ。前まで毎日のようにレオがこの家にいたというのに。

レオは夜月の家にまるで我が家のように堂々と入っていく。此処はレオにとって第二の家だ。先にズカズカと靴を無造作に脱ぎ捨てて家に入っていったレオに苦笑を零し、夜月は玄関の戸に鍵をかけた。

それからというもの、あっという間に時間が過ぎていった。

夕飯の時間になって夜月が簡単なものを作って、二人で向き合って夕食を食べる。「夜月のご飯はいつも美味しいな!」久しぶりに口にした夜月の手料理をレオは嬉しそうに口に運んでいく。

そのあと交代にお風呂に入って、髪の乾かし合いをした。以前は濡れた髪を放置していたのだが、いつだかのお泊り会でそれを泉に見られ二人して酷くお小言をもらった。それ以来、濡れた髪を放置するレオの髪を乾かすとレオも自然と夜月の髪を乾かすようになった。

一通りやることを終えると、今度は事前に持ってきていたレオの作曲や海外の写真を眺めた。レオは何枚か撮った海外の写真を見せ、夜月に教えていく。それと一緒に海外で作曲した山のような楽譜を見せ、いつどこで作った曲だかを話していく。楽譜に綴るメロディは様々な感情を語っている。楽しいこと、嬉しいこと、驚いたこと、悲しいこと、寂しいこと。楽譜はレオの感情を語っている。レオの心情を語っている。楽し気に弾んだメロディの多い楽譜たちを見て、夜月は安心したように微笑んだ。

ここまでレオが回復できたのは斑のおかげだろう。落ち着いてきたとはいえ、まだまだ精神不安定だったレオを海外へと連れまわして広い世界を見せた。そして自分の足で、此処に戻ってきた。斑には感謝しないといけない。斑本人は得意ではないから、あまり会いたくはないが。


「ふあ・・・・・・レオ、そろそろ寝ないと。明日にひびくよ」

「待って! 今いいところだから!」


欠伸をしてレオにそういうが、レオは床に置いた楽譜にいそいそとペンを走らせる。周りにはレオが書き連ねた楽譜がちりばめられている。これは片付けが大変そうだ。「先に寝てて!」こちらに目を向けずにレオが言った。もう夜中もいいところだ。流石に眠い。「レオも早く寝るんだよ。おやすみ、レオ」やれやれとレオの背を見詰め、夜月は自室に向かった。

ベッドに入り込み、部屋の電気を消す。枕の上に頭を置き、寝返りをうって寝やすい体制を見つける。明日も学校だ。最近はレオにばかり構っていて、まともに自分の仕事をしていない。流石に反省するか。明日からはちゃんと仕事をこなそう。目を閉じてそんなことを思う。

カチ、カチ、と時計の針が時を刻む。ベッドに入ってから大分時間は立ったと思う。そろそろ本当に眠らないと、と思ったその時。自室の扉が音を立てないようにゆっくりと開かれた。


「ん、レオ?」

「あれ、まだ寝てなかったのか?」


布団から顔を覗かせて扉に目を向ければ、ようやく作曲を終えたレオがいた。レオはベッドに近づくと布団をめくって自分もベッドに入ろうとした。「夜月、もっとつめて〜」グイグイと入ってくるレオ。「レオ、流石にシングルベッドに二人は狭いよ・・・・・・」壁際に詰めながら夜月が零す。「じゃあダブルベッドでも買うか? っあ、いっそのことクィーンベッドでもいっか!」売れっ子作曲家はどうやら金に糸目をつけないらしい。「そんな大きなサイズ、部屋に入らないよ」まったく、と夜月は呟いた。

お互い向き合って横になる。狭いベッドに二人して横になっているため、距離も近い。布団の中ではレオの足が夜月の足に絡めていた。放り出された夜月の手を握り、ペンだこのできた指で夜月の細い指を絡めとる。目の前には満足げに目を細めるレオが見つめていた。


「夜月」

「なあに、レオ」


片方の手で夜月の頬や髪を優しい手つきで撫でる。夜月、と名前を呼べば心地い声音で答えてくれる。指で夜月の髪を耳にかけ、頬に手を添えて親指の腹でなぞる。


「だいすきだよ、夜月」


そっと緑色の瞳を細めて、少し頬を染めて、どこか幸せそうに笑った。夜月はそんなレオをじっと見つめた。


「わたしも、だいすきよ、レオ」


いつものように同じ答えを返すと、レオは少し困ったようなそして寂しそうな顔をして微笑んだ。頬を撫でていた手は夜月の背中に滑り、ギュっと身体を引き寄せた。握っていた手の力も少し加わる。コツン、とお互いの額をくっつけて瞼を下ろす。

――ああ、そうだったね。私が吐くこの言葉に何の意味も持たないと、ただの真似事の言葉だと、君はもう知っていたね。


「おやすみ、夜月」


だから、そっと額に触れた柔らかくて暖かい感触は、夢にしてしまおう。

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