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きみは変わらない笑顔で



「あら、夜月ちゃんじゃない!」

「うん? ああ、嵐」


後ろから声をかけられて振り返ると、嵐が笑顔でこちらに手を振っていた。嵐のほかに泉や凛月や司もいる。4人は夜月に向かって歩き出した。


「『Knights』はこれからレッスンかい?」

「そう。アンタは何してるの?」

「特に何も。暇を持て余しているところ」


「なら『Knights』のレッスンに付き合ってくれない?」暇をしているというと、泉はこれから行う『Knights』のレッスンに付き合えと提案する。つい最近まで活動自粛になっていた『knights』のプロデュースは久しぶりだ。予定もないことだし、夜月はその提案に乗り、『Knights』と一緒にレッスン室へ向かうことにした。

レッスン室に向かっている間、5人は世間話に花を咲かせた。とくに夜月に話しかけていたのは司で、目を輝かせて夜月に話しかける後輩の姿を兄のような視線で3人は見つめた。夜月も素直に自分に慕って来る弟のような司に朗笑した。

そしてちょうど廊下の曲がり角を曲がった時だった。


「ああ、広がっていく。無限の宇宙が目の前に! 書ける書ける、今なら名曲が書ける! あっはははは!」


目の前の光景に、夜月は目を丸くして硬直した。

廊下の曲がり角の先には、廊下のど真ん中に座り込んでいる男子生徒が一人。何枚もの紙にペンを走らせ、嬉々として声を上げている。「えぇ!? うそ・・・・・・あなた、『王さま』?」それを見て、まず最初に声を上げたのは嵐だった。「戻ってきたんだ・・・・・・ちょーうざい」次に泉がため息交じりに吐き出した。凛月も驚いた顔をしている。


「うん? ああ、ナル。リッツにセナもいる」


声に気づいて後ろを振り返るとレオはおっ、と声を上げた。「元気にやってるか〜、おれの『Knights』!!」座り込んでいた腰を上げ、笑顔で能天気に手を振るレオ。その姿に泉や嵐そして凛月はほっと息を吐きだした。

一方司はあれが『Knights』のリーダーだと気づき、目を輝かせて羨望のまなざしを嵐たちの背後から向けていた。それにレオが気づき、司に視線を移す。


「あれ? 知らない奴がいる。さては宇宙人だな! うっちゅー!」


レオの発言に司はムッとした。レオは語尾に星が付きそうな陽気な態度で不思議な挨拶をする。「司ちゃん。あの人が『Knights』の王様、月永レオ様よ」嵐は初めて対面する司にオレを紹介する。「あの方が、『Knights』のLeader・・・・・・?」司が思い描いたリーダー像が一瞬で崩れ去った。訝しげに視線を向ける司に嵐は苦笑を零した。


「あぁっ! 夜月もいる! うっちゅ〜、約束通りおまえに会いに来たぞ〜!」


ようやくレオは夜月に気づき、いつも通りの笑顔を向けた。そこで泉がハッとなった。すぐさま泉は夜月に視線を落とした。位置的に夜月の表情はうかがえない。けれど小さく口を開いていて、呆然と目の前を見詰めているのはわかる。泉は二人を見守るように瞳だけで交代に二人を見詰めた。


「うん? どうしたんだ、夜月?」


いつまでたっても反応を返さない夜月に、レオは不思議そうに首を傾げた。


「もしかして、勝手にママと海外に行ったことに怒ってるのか? それとも帰ってきても何の連絡も入れなかったのに怒ってるのか?」


夜月の目の前まで来て、腰をかがめてあわあわとした様子で夜月の顔を覗き込む。「ごめん夜月! 次からはちゃんと気を付けるから〜!」目尻を下げて不安そうに夜月にすがるレオ。そんな二人の様子を司以外は息をのんでみつめていた。

ふと、夜月の両手がレオに向かって伸びた。ゆっくりと伸びる腕にレオは首を傾げる。夜月の両手はレオの頬を包み込んだ。するりと頬の指でなぞる感覚に、レオはふにゃりと笑ってくすぐったそうにする。それを見て、夜月は安堵したかのように小さく息を吐きだして、そっと顔をうつ向かせた。

それも束の間で終わった。


「あぁっ、レオ! ようやく戻ってきてくれたのね。あぁ、今日はなんて最高の日だろう!」


突然夜月の纏う雰囲気ががらりと変わった。いつも通りの様子――いつもより興奮はしているが――に戻った夜月を見て、司はぎょっと目を丸くして泉たち3人はやれやれと息をついた。レオは気にした様子もなく「わははは!」と大きく笑う。


「君のために最高の舞台を用意したんだ! 最高の刺激を与えてあげる、君の望むものすべてを叶えてあげる!」

「あはは! おまえは面白いな、面白い奴は大好きだ! ああ、インスピレーションが止まらないっ! 夜月のそばは刺激だらけだ! 愛してるよ!」


止まらない言葉の交わし合い。その言葉の勢いといったら、まるでマシンガントークのようだ。お互いこれ以上ない笑みを浮かべて感極まっている。

レオは「インスピレーションが降りてくる!」と叫んで夜月の手を取ってそのまま廊下を走り去ってしまった。司は目をパチパチと瞬きさせ、泉はため息を落とし、凛月と嵐はまあいいんじゃないと口端を上げる。


「『王さま』も戻ってきて夜月もいて、やっと『Knights』らしくなったんじゃない?」

「そうねぇ、『王さま』と『女王様』いてこその『Knights』だもの。やっと『Knights』らしくなったわ。ねえ、泉ちゃん?」

「これ以上ないくらい騒がしくて面倒になったけどねぇ」


レオと夜月が走り去ってしまった廊下を眺めながら3人はそんなことを話す。そんなとき「あの・・・・・・」と司が控えめに三人に声をかけた。


「お姉さまとあのLeaderとの関係は、どういったものなのですか?」


初めて二人の様子を目のあたりにした司は不思議でたまらなかった。

いつも冷静で微笑みを浮かべていて、まさに『女王』の気風を持つ夜月。彼女も気分が上昇すれば高まって普段よりテンションが上がるが、先ほどのはそれと非じゃないくらい興奮していた。それにレオも軽々と夜月に向かって「愛してる」などくちにしている。

司の疑問はもっともだった。その司の問いに、泉が口を開いた。


「あの二人は、幼馴染だよ」


――そして、俺たち『Knights』の『王様』と『女王』。

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