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予告された幕引



今日は渉と『fine』によるライブがある。これで悪の権化である『五奇人』は倒され、正義の生徒会『fine』が英雄となる。悪は打倒され、革命は終わり、新たな時代が、新たな新体制が築かれる。この永く続いた舞台も幕引き。このゲームももう終わり。台本通りに事は進んでいる。


「・・・・・・やっぱり零にいさんの言った通り、師匠は負けるつもりなノ?」

「なんで私だけ『師匠』なんですか、私はあなたに何も教えてませんよ。他の『五奇人』のように『にいさん』なんて呼んでほしいですけどね」


ライブ前、夏目は渉と話すためにまだ観客の入っていない講堂に訪れていた。渉は既に舞台衣装に身を包んでいる。「そっちにその気がなくてモ、こっちは勝手に学んだかラ。この現代まで生き残っタ、本当の魔法をネ」夏目は不思議そうな顔をする渉に応える。渉は首を振った。「いいえ、貴方は何も学んでいません。すっとあなたは悪い魔法に掛けられて、妖魔にさらわれて異界で遊んでいただけ。あなたは普通の、良い子ですよ」


「だから。貴方が持参したその封筒は、どこかにしまっちゃってください」


ニコリと笑う渉。夏目ははぁ、と息を吐いた。夏目の手には封筒が握られている。その中身を、渉は理解している。「ボク、頑張って考えたんだヨ。駆けずり回っテ、何度も徹夜して死に物狂いデ」何度も何度も書き直して、答えを見つけようと必死に足掻いた。


「ボクたちが、ハッピーエンドに辿りつく可能性を模索したヨ。ボクたちにも、『五奇人』にモ、ねえさんにも・・・・・・幸せになる権利はあるでしょウ?」

「『悪役』にも幸福はありますよ。あなたはまだ若いから、わからないだけ・・・・・・あなたが必死に用意したすべてのものは、この現実に影響を与えられない夢物語です」


子どもを論するように渉は言う。「自分たちの幸福ために、無数の他者を踏みにじってしまえば・・・・・・私たちは、本当の怪物になってしまいますよ」両手に掲げた封筒を掴み、押し下げる。「そうでしょう、零?」渉の言葉に目を丸くして振り向けば、コツコツと足音を鳴らして例が姿を現した。


「おっ、やっぱ気づいてたか。ほんと目ざといよな〜、渉」

「貴方は目立つんですよ、役者としては妬ましいぐらいです」


「海外が騒がしいと聞いていますけど、こんなところで油を売っていいんですか?」と問う渉。「おいおい、渉ぅ・・・・・・俺を誰だと思ってんだよ、俺様だぞ」零は自信満々に答える。渉はフフッと笑った。「えぇ、あなたは朔間零です。我らが魔王、世界中の誰よりも人間味の溢れた怪物・・・・・・貴方に看取ってもらえるなんて、私は果報者です」


「あら、私は仲間外れなのかい? また寂しいことをするじゃないか」


すると今度は講堂の中に夜月の声が響いた。零がやってきた方から夜月が姿を現す。「姉さん!?」退院して以降、こうして人と会うのは久しぶりだ。夏目をは目を見開いた。零はまるで知っていたかのように二人して目配せをした。


「これは我らが『女王』! 貴方にまで看取ってもらえるなんて、私はなんて幸せ者でしょう!」


大げさな態度を取る渉に、フッと笑う。「やあ、夏目。その様子だと、完成したそれを渉に弾かれてしまったようだね」視線を夏目に移し、手に持った封筒に視線を下ろした。「姉さん、わかってて言うのはやめてくれないかナ」夏目は拗ねたようにムッと唇を尖らせた。「おや、ごめんね夏目」夜月は笑みを浮かべたままそう言った。


「俺としちゃ夏目に一票くれてやりたいぐらないんだけどな。洒落者のこいつが目ぇ腫らしてまで頑張ったんだぞ」

「はい。その事実だけで、私はあらゆる艱難辛苦を甘んじて受けられます」


「ありがとう、夏目くん。ありがとう、零。ありがとう、夜月。あなたたちのことが、大好きでした」一拍置いて、渉ははっきりと言葉を紡ぐ。「貴方たちと過ごした日々は、青春は・・・・・・キラキラと輝いていて、まるで・・・・・・あぁ、自分の言葉で喋るのは苦手です」困ったように笑う渉は、満足そうに見えた。「だいじょうぶ。わかってるよ、渉。俺たちは、ぜんぶわかってるから」言葉をかみしめるように、零は言う。渉は何も言わず、笑顔を浮かべた。


「ほら夏目、いつまでも居座ってたら邪魔だから観客席に移動しようぜ。宗も奏汰も呼んだからさ。久方ぶりの全員集合だ」

「ちょっ、抱っこして運ばないで零にいさん! ボクの話はまだ終わってないヨ!」

「はっはっは! 暴れても無駄だ〜、魔王からは逃れられない!」


夏目を担ぎ上げ、零はさっさと後方席に夏目を連れていく。担がれた夏目は文句を垂らしているが、力強い零に敵うわけもなく、されるがまま連れ去られた。「それじゃあ渉、またいつか会う日まで。今日の舞台も楽しみにしているよ」夜月もいつもの調子で笑って言葉を送り、2人の後を付いて行った。


「フフフ。こんな結末においても、いつものように騒がしいですね」


講堂の舞台に一人残された渉は、三人の背を見詰めて呟く。


「それでこそ『五奇人』、それでこそ『女王クィーン』、我が生涯の同胞です。本当に、嘘じゃなく、あなたたちを愛していました」


自分には一生手に入らないものだと諦めていた、生涯の友。理解し合える唯一の友。それを皮肉なことに、『五奇人』という異名を経て巡り合い、手に入れることだできた。あの輝かしい日々は、自分たちにとってはかけがえのない宝物だった。


「けれどまぁ・・・・・・哀しいけれど、しばしのお別れですね。友よ、麗しき青春の日々よ・・・・・・また逢う日まで、さようなら」


こうして、『五奇人』と生徒会の幕は下りた。
『五奇人』は倒され、『fine』は英雄として名をはせる。そして新たな時代が切り開かれた。この先に何が待っているのか、『五奇人』にも英智にはわからない。けれどもう引き返せない。英智は『皇帝』として、血だらけの玉座に腰を下ろし、新たな変化を待ち望んだ。


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