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まだ青い林檎の毒に浮かされて



「未熟なおぬしらより、我輩らがこの嬢ちゃんを・・・・・・」


軽音部の部員である一年生の葵双子によって拉致された転校生。氷鷹北斗、明星スバル、遊木真は拉致された転校生を追って、真っ暗闇の軽音部へ誘われた。
そこで待ち受けていたのは、軽音部部長であり、三奇人として名高い朔間零。零は彼らに向かって、まだどこにも所属していない転校生に勧誘をした。


「断固として抗議する!」

「俺たちの希望は、絶対に奪わせない!!」


零の言葉に、三人は抗議した。転校生を守るように零の前に立ち、鋭い赤い瞳に睨まれながらも臆さず、彼らは睨み返した。
状況を掴めていない転校生は戸惑うばかり。しかし不穏な雰囲気に、口を出すこともできない。

「――ふ、よくぞ言った」臆さず睨み返してきた彼ら三人に、零は口端をあげる。


「では今から我輩の目の前で、アイドルとして一曲歌うがよい。この目にかなえば、未来を担う革命児だと認めて全力で支援してやろう」

「革命ッ!? なぜそれを・・・・・・!」


革命のことは、誰にも話していない。仲間同士の心の内に秘めていた。それを見抜かれ、三人は動揺する。
「どうじゃ、受けるか?」零は彼らに手を差し伸べ、返答を即す。


「と、当然だ! 貴方の助けを得られるなら、願ってもない!」


北斗は少し食い気味に答える。
彼ら三奇人は学院の頂点に立つ存在だ。今は動きがないが、その力は圧倒的。条件さえ満たしてしまえば、圧倒的な力を誇る。その助力を得られるという事は、革命を起こすには最重要だ。


「未だ何者でもないおぬしらよ、我輩にその価値を、証明して見せるがよい」


彼らは歌い、踊った。今までの努力を無駄にしないために、輝く星の如く、彼らは全力でパフォーマンスをする。
彼らの背後で音楽の流す転校生は、そんな彼らに見惚れていた。輝かしい光に目を奪われた。プロデューサーとしての自覚が、初めて芽生えようとしていた。

曲が終わり、彼らの息は上がった。
「では裁定を」棺に座っていた零は腰をあげ、採点を始めようとする。しかし彼らは「いや、まだだっ!!」と叫び、その後、何曲も歌い、踊り続けた。
これは彼らの意思表示であった。


「それまでじゃ」


その言葉で曲が止まり、疲れ切った彼らは息を絶え絶えにその場に崩れ落ちるように座り込んだ。床に手をつき、息を吸い込む。汗が顎を伝ってポタポタと流れていた。


「お主らの革命の覚悟のほど、しかと見届けさせてもらった。おぬしらの名は」

「『TrickStar』! キラキラ輝く星になってみせる、俺たちは!」


吼える彼らに、零は喉で笑う。「あっぱれ、あっぱれ。文句なく合格じゃ」零がそう言い切ると、三人は驚き顔を見合わせ、見る見るうちに顔を輝かせて歓喜した。
喜び合う彼らを横目に、晃牙はこっそりと零に言う。


「チ、どうせこれが狙いだったんだろ? アンタも夜月先輩も」

「さてのう。我輩は久方ぶりに見た学院の輝きを見ただけじゃ。夜月は夜月で、シナリオを描いているに違いない」


零の視線が背後に映る。そこにはひっそりと、カメラを向けている携帯がある。隠すように設置してあるそれに、話を聞いていた晃牙以外、気付く者はいない。
カメラの向こうにいるであろう彼女に、零は笑みを送る。


「『TrickStar』よ、おぬしらに助力してやろう」


「目指すのは二週間後の『S1』、そこが革命の日じゃ」零は部屋を照らす様に、閉め切っていたカーテンを開けた。窓から差し込む赤い光。外はもう夕暮れ時であった。
この光よりも、太陽の輝きにも勝るきらめきを。黒い髪の間から覗く赤い瞳が、彼らを見据えた。


「どうか我輩を灰にするほどの光を見せておくれ。尊く愛しい、煌めく夢を秘めた星々よ」


――そして願わくば、愛しいあの子の期待を裏切らないでおくれ。



* * *



人通りの少ない場所にある、一つの空き教室。教室の位置的にカーテンを開けても、太陽の光はあまり入らない。窓辺にだけ差し込む太陽の明かり。外から吹く春の風。温かい春の日。

その窓辺の近くに一人、女子生徒が足を組んで座っていた。傍らに置いてある机にスマホをたてて、イヤホンを繋いでいる。頬杖をつきながら画面を見つめ、かすかに微笑するその姿は、美しい令嬢だ。風が吹くたび靡く銀糸の髪が、さらに美しさを掻き立てた。


「『TrickStar』――――革命の綺羅星・・・・・・」


画面の向こうには、今ある自分たちの力を出し切って歌い、踊る『TrickStar』たち。夜月はそれを見つめていた。
瞼を下ろし、美しい唇が微笑を浮かべた。何かを想像したのか、クスリを笑みを零し、うっとりとした瞳が画面のその奥を見つめる。


「――――ああ、楽しくなりそうだ」



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