×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

安心してよちゃんと狂うから



あの日から英智は必死に夜月によって歪められた台本を立て直そうと躍起になった。だが、本来の形に戻すことはもう不可能だった。気づいたのが遅かったのだ。夜月はあの日の前から、すでに台本を書き換えていた。躍起になって走り回る自分を、彼女は嗤ってみているのだろうと、英智は思う。

彼女はいつの間にか、悪の権化である『五奇人』の頂点に立つ『女王』として名をはせた。五奇人の中で頂点に立つ朔間零と並び立つほどの存在だというのはすでに周知の事実だった。なら、そんな彼らの上に立つ『女王』が存在してもおかしくはない。骨喰夜月は悪の権化の『女王』として、学園に君臨し始めた。

必然的に彼女は群衆たちから憎悪を向けられた。『五奇人』の頂点に立つ存在、あれこそが悪の権化だ、悪の源だ。群衆たちの声に答えるのが、英雄の仕事だ。それが英雄の存在理由だ。生徒会という英雄は、正義をもって悪の権化たる『女王』を倒すしか道な残されていなかった。


「これはこれは、Your Majesty! ご機嫌麗しい」

「やあ、渉。ああ、最高に楽しい気分だとも!」


演技じみた態度と台詞で声をかけた渉に、夜月はとても楽しそうに返した。こうして『五奇人』の誰かと話すのは久しぶりだ。こういう事態に陥って、夏目は地下に閉じこもり、零は相変わらず海外に飛ばされている。宗は家に引きこもり、渉や奏汰はあまりお互いに接触しないように過ごしていた。


「それにしても、また貴女は規格外なことをしますねぇ。自ら悪の権化となるなんて」


まったく困ったものです、と渉はやれやれとした様子で言った。


「仲間外れなんて寂しいだろう? それに、私はもともと悪の権化たる怪物さ。何も間違ってないだろう?」


クスクスと笑う。「そうでしたね。貴女ほど人間をやめた人は見たことがありません」と言った渉に「お互い様だろう?」と夜月は言いやる。零ほどではないが、お互い似たもの同士だ。だからこんな軽口も叩ける。


「私は構いませんけど、零は貴女の行動を許しませんよ。大層ご立腹でいらっしゃる」

「おや、そうなのかい? 連絡を全て無視しているから知らなかったよ」

「やれやれ。私、知りませんからね」


ふふっと笑みを零す。

ああ、本当に楽しい。楽しくてたまらない。こんなにも楽しいこと、今までの人生ではなかった。どんなものよりも刺激があって、危機感があって、誰彼の思惑が渦巻き交差する。こんなに楽しいことがあっただろうか!

「それで渉、私に何の用だい? 意味もなく話しかけたわけじゃないだろう?」夜月は問うと「話が早くて助かりますね!」と渉は嬉々として答える。お互い暇ではない。長話をしている時間もないだろう。急かすように渉に視線を送れば、渉はいつも通りの様子で口を開いた。


「夏目くんを逃がす手助けをしてくれませんか、夜月」


夜月は渉を見据える。渉の様子は変わらない。「私だけでは心もとないので、貴女の協力があれば確実性があります」渉は続ける。「願ってもない話だ。無論、あの子は逃がすつもりだよ」宗との約束もある。夜月がそう答えると「助かります。ありがとうございます、夜月」と微笑む。


「それじゃあ、私はもう行くよ。『五奇人』と『女王クィーン』が一緒にいるところを見られたら面倒だろう?」

「そうですね。では、また会う日まで――我らが『女王』」


畝に手を当てお辞儀をする渉はまるで『女王』に使える従者のようだった。そんな渉を一瞥し、夜月は立ち去る。自分の前から立ち去っていく夜月の背を見詰めながら渉は独り言をつぶやく。


「未来を見据え、盤上を支配する。すべてを喰らいつくす、悪の『女王』――まるでお伽噺の怪物ですね」


『盤上を支配する悪食の女王』――――それが骨喰夜月の異名だ。


prev | next
Back
18/24


Bookmark