利口な子供の見解
悪の権化たる『五奇人』の一人である宗が倒れ、それを打ち取った『fine』は英雄のように讃えられた。それとともに、群衆たちは『五奇人』への悪意を大きく膨らませていった。それは、『五奇人』への本格的な攻撃を示していた。
宗はあれ以来、家に引きこもってしまった。あまりのショックで部屋からも出ていないという。
「姉さん・・・・・・」
「やあ、夏目」
ひどく沈んだ表情をする夏目に呼び止められる。夜月はいつものように笑顔を向けるが、夏目には笑顔を浮かべる余裕もないらしい。
「どうかした?」
「宗にいさんのこト・・・・・・」
夏目は言いにくそうに言葉を切った。自分によくしてくれた人が心を壊して閉じこもってしまったことに、夏目はひどく悲しんだ。
夏目は動揺した瞳を向ける。
「どうしよう、姉さん。次は奏汰にいさんが標的にされるみたいなんダ」
「そうみたいだね」
「奏汰にいさんは気にしてないみたいだシ、零にいさんや師匠も関わるなって言っテ」
次、生徒会が標的に選んだのは奏汰だという話をちらりと聞いた。今回相手をするのは『fine』ではなく、敬人が率いる『紅月』らしい。海神というドリフェスを行うらしく、『神様』とたたえられた奏汰に似合う名前だ。
奏汰も奏汰で弱り切っていた。いままで『神様』として願いを叶え続けてきたが、それは奏汰自身の力ではなく生徒会によるものだと、生徒に印象付けた。奏汰は生徒からの信仰心を捨てられ、はじめてのことに戸惑いを見せた。
「姉さんなラ、どうにかできるでショ!?」
零や渉に言っても、関わるなと取り入ってもらえない。夏目は最後の頼みの綱である夜月に泣きついた。身体を乗り出して訴える夏目に、困ったような笑みを浮かべる。
夏目ははっとなって、夜月から離れた。「ごめン、姉さん・・・・・・」うつ向く夏目に首を振る。「なんデ・・・・・・僕たちなんダ・・・・・・なんで僕たち『五奇人』なノ」夏目は小さな声で、そう訴えた。それもそうだ。彼らは何もしていない。突然『五奇人』だといわれて讃えられ、今度は悪の権化とされた。理不尽だ。
「僕たち『五奇人』が幸せになれる結末は存在するよネ」
夏目はまっすぐと夜月の目を見て言った。その顔つきは真剣そのものだった。
「そうだね、無いとは言い切れない。限りなく0に近くても、0ではない。絶対にありえないなんて、そんなものは存在しないよ」
「うン・・・・・・僕、考えてみるヨ。僕たち『五奇人』が幸せになれる方法を」
夏目は心に誓うように、そう言って見せた。「姉さんも、気を付けてネ。姉さんは僕たちとよく一緒にいたかラ、被害が及ぶかモ」近くにいた夜月を気遣って心配する夏目に、ありがとうと笑いかける。
それじゃあ、と告げて背中を向いて歩きだした夏目。どんどん小さくなっていく背中を見つめ、夜月は考える。『五奇人』が幸せになれる結末。ハッピーエンド。
「――――そんなに望むなら、書き換えてしまおうか」