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ここが舞台であるあいだ



ライブはひどいものだった。
金星杯や渉の公演は順調に成功を見せた。だが、そのあとに行われたドリフェスは身に耐えるようなものだった。

あの完璧な宗の世界が壊れた。
完璧に完成された世界を作り出すために、ダンスで声が乱れるのを防ぐため『Valkyrie』は音源に歌声を録音させたものを流していた。舞台に立つ彼らは、歌声に合わせて口を開き、パフォーマンスに集中するだけ。その音源が途中で切れた。

音源も舞台も細心の注意を払って確認していた。宗に限って見落とすわけがない。だがそれは、突然の停電というていで落とされた。ライトも音楽もすべてが止まった。
それでもプロを目指すならパフォーマンスを続けなければいけない。狼狽える宗に、みかとなずなは初めて舞台で生声を出した。いままで練習は秘かにしていたものの、実際にやるのは初めて。上手くは行かない。『Valkyrie』ははじめて生歌をうたい、ダンスをした。

『Valkyrie』のパフォーマンスが終わり、幕が閉じる。そして次に現れたのは、白い衣装に身を包んだ『fine』。彼らが現れたとたんに歓声のわっと湧きあがり、ライトが回復する。

宗は彼らに仕組まれたことだと確信した――――



* * *



一人夜月は楽屋に向かったが、そこにはみかとなずなの姿しかなく、宗はいなかった。宗を心配するみかを宥め、夜月は講堂を出て宗を探しに出た。
外はもう夕方。あたりがオレンジ色に染まる。
夜月は宗を探して、人込みをかき分けて校内を歩き回った。


一方そのころ、金星杯に出た明星スバルと千秋は噴水場の近くでうずくまる宗を発見していた。人を避けようとして、おびえた様子を見せている。何を言っても声を発さない宗に、二人は困った顔を見せる。


「どうした? 何があったんだ、動けないのか? 俺の声、聞こえているか?」

「・・・・・・!」


千秋が宗を心配して声をかけると、宗は突然千秋の手を掴んだ。
突然のことに、千秋は思わずビクリとする。


「頼む――」

「え、えっ? な、何か頼みがあるのか? いいぞ、なんでも俺に言ってくれ!」


ただ知れぬ雰囲気を感じ取って、千秋は宗の言葉に耳を傾ける。


「僕が馬鹿だった! 忠告に耳を貸さずにッ、喪ってから気づいても遅すぎるのに!」

「・・・・・・え? ・・・・・・え?」


怒号の声に、言葉に、千秋は理解できずにあたふたとする。


「あぁ零に、夜月に、渉に奏汰に! 誰よりも僕たちのかわいい小僧に伝えてくれッ! ”あいつ”と戦ってはならない!」

「ま、待ってくれ! 何を言っているのかわからない! どうしたんだ!?」

「宗」


何を言っているのか、何を伝えたいのかもわからない千秋。どうすればいいだと慌てていると、背後から透き通った声が聞こえた。振り向けば、宗を探して校内を歩きまわっていた夜月の姿があった。視線は宗に向いていた。


「夜月ッ!」


夜月の姿を見ると宗は千秋から手を放して、今度はすがるように夜月の手を掴んだ。指先は冷たくなっていて、小刻みに震えていた。夜月は落ち着かせるように両手で宗の手を包みこみ、うずくまる宗に少し体をかがめた。

どうしていいのかわからない千秋やスバルは、そんな二人を交互に見る。


「二人とも、宗は私に任せて行っていいよ」

「で、でも・・・・・・」

「行ってちょうだい」


スバルはそういわれて素直に立ち去ったが、心配する千秋は留まろうとする。夜月に再び言われ、心配で何度も振り返りながらその場を立ち去った。


「宗」


二人きりになって、夜月は優しく名前を呼ぶ。


「すまなかった、君にも忠告されていたというのにッ。君にはすべてが見えていたというのに!」


うずくまって顔を伏せて、痛みに耐えながら宗は声を出す。


「頼む、零たちに、何よりもかわいい小僧に伝えてくれッ! ”あいつ”と戦ってはならない! 根こそぎにされる、あいつが・・・・・・あいつこそが悪魔だ!」

「うん、わかった・・・・・・伝えておく」


カタカタと恐怖に震える宗。
夜月は余計な言葉をかけることもなく、宗の言葉を聞いては頷く。縋るように掴む宗の手をしっかりと握る。


「頼む・・・・・・夜月、夜月ッ」


何度も何度も、宗は繰り返す。
そのたびに夜月は頷く。


「せめて小僧だけは、助けてやってくれ・・・・・・君ならできるだろう・・・・・・」


力なく宗は言った。

『五奇人』の末っ子。彼らに愛された子。逆先夏目は確かに天才だ。『五奇人』の彼らとも並び立つ存在であるのは間違いない。けれどきっと、こんなことがなければ彼らと仲間入りすることはなかっただろう。彼は人数合わせで此処へ入り込んだ、迷子なのだ。
そんな夏目を夜月も『五奇人』も大切に思って、自分を慕う彼を可愛がった。宗も例外ではない。

夜月はすぐには頷かなかった。項垂れる宗を見下ろして、間をおいてから静かに口を開く。


「・・・・・・わかった。それを――君への償いとするよ」

「ああ・・・・・・」


最初からこうなることなんて、夜月にはわかっていた。それでも曖昧な忠告だけをして、明確なことを告げず、決して口にはしなかった。そんな夜月を責めることもしない。

優しい友である彼に、せめてもの償いを。


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