予定された終焉の時
「おや、宗。君、ドリフェスに出るのかい? あんなに嫌がっていたのに」
「ああ」
夜月の言葉に、宗は嫌々うなずく。
本心では相当嫌なのだろう。だが、それを彼のプライドが許さない、といったところか。
学院は春から少しずつ少しずつ変化を見せていた。それが顕著に表れたのは、秋ごろ。夏が終わったあとだった。ドリフェスはその一つだ。
アイドル同士のライブバトル、ドリームアイドルフェスティバル、通称『ドリフェス』が生徒会によって設立された。最大5人最小二人1組のアイドルユニットが1人ずつパフォーマンスをして、より多くの観客を魅了できたユニットが勝者として選ばれる。活躍すればするほど、そのユニットは学院から恩寵をえられることができる。ユニット制度とともに設立されたそれにより、『流星隊』や『バックギャモン』もとい『チェス』などの大所帯は散り散りになった。
学院の変化かはそれだけではない。
今年の春から誰かがささやいた、五人の天才児もとい異端児である『五奇人』。学院の頂点に君臨し、その才能を大いに振るった。群衆たちは彼らを崇め讃えた。そんな彼らの立場が一転したのだ。
学院に君臨する『五奇人』のせいで、自分たちは報われない。どんなに努力をしても、彼らの陰に埋もれてしまう。讃えられた『五奇人』は、いつのまにかこの学院に混沌を招いた『悪の権化』とかしていた。
そしてそんな彼らを打ち取ろうと生徒会が立ち上がり、ユニット『fine』が台頭した。天祥院英智、青葉つむぎ、乱凪砂、巴日和をメンバーとしている。彼らの学院からの人気は急上昇だ。
宗が今回参加するドリフェスは、『Valkyrie』と『fine』が参加する。2ユニットのパフォーマンスの前に、余興として金星杯も行われるようだ。
金星杯とは優秀な新入生4人に参加を認められる。1年生だけでライブをした、という実績を得る為だけのもので、どの学年の生徒にも活躍の場があるとアピールするポーズのようなもの。その証拠に、必要最低限の予算しか組まれておらず、宣伝費も一切かかっていない。だから客もあまり入らない。
あくまでこれは、零と夜月の推測であるが、おおむね間違ってはいない。
これに零の弟である凛月や夏目も選ばれていたが、凛月は留年していて実際には学年が違うということで辞退。夏目も零と夜月の推測を聞いて、参加しても無駄なだけだと判断し辞退した。
「『fine』だが知らないが、誰が王者なのか思い知らせてやる」
『五奇人』のうちの一人であり、大衆向けではないパフォーマンスをする『Valkyrie』は、ドリフェス制度のせいで落ちぶれていた。学院に君臨していたユニットであり『帝王』としてその名を轟かせた彼のプライドがそれをゆるはずがない。一応、零とともに出るべきではないと忠告をしたのだが、どうやら届かなかったようだ。
「夜月、君も手伝いたまえ」
手伝うといっても、彼のパフォーマンスは彼が作り出す繊細な一寸の狂いもない世界だ。彼の作り出す世界に、どう手伝えというのだろう。すでに完璧を示しているのに。
息まく宗を横目に、頭の隅にちらつく一つの結末から目をそらして、夜月は頷いた。
「いいよ、最期まで付き合うさ」