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緩やかにいま墜ちてゆく



秋になったころ、学院は変わった。
新しい制度や設立した生徒会が動き出し、変わっていく環境に生徒たちは右往左往して、まんまと掌で転がされていく。

そんなさなかで、彼女の様子が変わった。

以前の彼女は大人しいくて、めったに笑顔を振りまかない人だった。楽しい時、嬉しい時に、控えめに目を細めて静かに微笑みを浮かべていた。言葉遣いも少し固くて言い方が強い時もあるけど、時折こぼす普通の女の子のようなことを言う彼女が可愛らしかった。

そんな彼女が一変したのは、いつからだっただろう。

あんなに笑わなかった彼女が、今ではいつでも笑顔を浮かべていた。目を細め、楽し気に口端を吊り上げる。その笑顔は妖美で、つい見惚れてしまう。あの赤い瞳と目が合った時、ぞわりと鳥肌が立った。目をそらさせずに釘付けにされ、魅入られる。あの笑顔を向けられたことに歓喜するとともに、どこからともなく恐怖が沸き上がった。


「あれが彼女の本性だ」


彼女をよく知る『五奇人』の誰かがそう言っていた。彼らが言うには、あれこそが彼女の本質。骨喰夜月という人間らしい。
たしかに、どこかいつも気を張っていて、自分を押し殺そうとしている気はしていた。だが彼女の本性があんなものだったとは、誰が想像できただろうか。

そんな、すべてをさらけ出した夜月を見て、朔間零はわずかに目を見張った後、困ったように笑った。それを見た夜月は笑顔を絶やさずに微笑みを浮かべながらふふ、と笑みをこぼしていた。

彼女はいったいどうして、今まで抑え込んでいた本性を見せたのだろうか。

考えてみると、そういえば彼女の様子が一変したのは、『Knights』する彼女の幼馴染である月永レオが行方不明になった後だ。彼女は誰よりも彼のことを大切にしていたし、彼もそんな夜月を大切にしていた。

そう考えると、あれが彼女の本心なのかわからなくなってくる。

大切な幼馴染が傷つき、壊れていく様を見て、彼女も心を壊してしまったのか。それとも本当に、あの得体のしれないものが彼女の本性なのか。彼女は壊れてしまったのだろうか。それとも最初から壊れていたのだろうか。それはきっと、あの『五奇人』でさえもわからないだろう。


「彼女を理解することなんて、きっと誰にも不可能でしょう。彼女は私たちとは次元が違いすぎます」


あまりにも、彼女は天才だった。いや、すでに人の域をそれは超えていたのだ。

彼女の瞳にはすべてが見えている。彼女の頭はすべてを理解していた。あらゆる状況、心情、人間関係・・・・・・そのほかにも様々な事象を駆使して、彼女は未来を導き出した。そんなもの、もはや人間の域を超えている。あくまで予知という『仮定未来』だが、彼女の予測した未来から外れたものはいない。1パーセントから99パーセントの確率の未来を、彼女は予測する。

ゆえに、彼女はいつも退屈に侵されていた。

すべてが分かってしまうから。すべてが見えついているから。思いもよらない結果など存在しないから。

だから、彼女は『愉しい』ことを求める。

彼女は観客。それ以外は役者。彼女は観客席から役者という彼らを鑑賞しているのだ。盤上の上を見詰めながら、彼らがどんなことを引き起こすのか、その中に自分を楽しませてくれるものはあるのか。自分は役者ではない。自分は傍観者。そして時には盤上を歩く彼らを動かす者に。


「ああ――――お腹がすいた」


退屈に飽きた彼女が、愉しみを求めて呟く。

退屈で退屈で仕方がない。何か楽しいことはないのだろうか。なにか自分の予測を超える何かは無いだろうか。どんなものでもいい。この空腹を満たせるのなら何でもいい。退屈にはもう飽きたのだ。これ以上は死んでしまう。

早く愉しいゲームをはじめておくれ。早く愉しい舞台を見せておくれ。結末がたとえ幸せなハッピーエンドでも、ひどくむごいバッドエンドでもいい。喜劇でも悲喜劇でも。希望にあふれていても、絶望に苛まれていても良い。愉しめればなんでもいいのだ。

退屈だ。退屈なんだ。だれか早くこの空腹を埋めてくれ。
踊ってくれ。無様に転がってくれ。まるで操り人形のように。でも壊れてしまわないように。すぐに壊れてしまったら、またつまらなく成ってしまうだろう。だから壊れないでくれ。

早くこの空腹を満たしてくれ――――


「さあ――――最高に私を愉しませて頂戴!!」



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