未来計算
「よ、夜月ちゃん」
「なんだ、帰ってきてたのかい? 零」
零は手を振りながら夜月に近寄った。
最近、海外へ飛び回っているため零を見たのは久しぶりだ。
「何度も何度も海外へ飛び回って大変ね」
「まあな。おかげで時差ボケしまくってねみーよ・・・・・・ふあ」
零は眠そうに欠伸をした。
それを見た夜月が呆れながら言う。
「少しは留まったらどう? 倒れても知らないわよ」
「お、夜月ちゃん、俺様のこと心配してくれんのか? かわいーなあ」
「晃牙がきゃんきゃん煩いよ。どこに行ったのか、いつ帰ってくるのか、毎日のように君のことを聞かれる」
「はは・・・・・・あいつか・・・・・・」
今年の一年に、すごく零を慕っている子がいた。零のカリスマに魅入られて彼を崇拝するものは多いが、そういう人たちとは違った目をしていた。純粋に、朔間零という人間に尊敬と憧れを向けている。
その大神晃牙という一年生は、零のことを毎日のように追い掛け回している。零も面倒くさがって晃牙から逃げ回っていることが多い。
「ま、あいつがいるなら一先ず安心か。晃牙も男だしな、お前のこと俺の女だと思い込んでるし、番犬がわりにはなるだろ」
「ところかまわず誰にでも噛みつく番犬は厄介だよ」
零と一緒にいることが多かったからか、晃牙はなぜか夜月のことを零の彼女と認識していた。夜月は否定するが零は面白がって否定せず、むしろ肯定しようとする。零の恋人と認識されてしまった夜月も、零のことを知っていると判断され、晃牙につけられることが多い。
「んじゃ、お前の顔も見れたし、そろそろ行くわ」
「また海外に行くの? 最近やけに多くないか」
「あー、そうだな」
訝しむ夜月に、零は心当たりがあるのか、言葉に濁りながら答える。
「夜月」と、さきほどの態度とは一変して、真剣な目つきを向ける。
「なんか、嫌な感じがするからさ。お前も気をつけろよ」
「・・・・・・君もね、零」
どこか、いいように掌で転がされているような感覚がする。
そう感じたのが強くなったのは、いったい、いつごろからだっただろうか。
これから地獄が始まろうとしていることに、夜月は少なからず感じ取っていた。