蜘蛛の巣と花鋏
「こんにちわ」
「・・・・・・?」
背後からそう声を掛けられ、足を止めた。
振り返ると、金色の髪をした儚げな印象を与える青年が微笑んでこちらに目を向けていた。夜月と目が合うと、青年は目を細める。
「良ければ、僕と一緒にお茶でもしないかい?」
* * *
ガーデンテラスにやってきた夜月は、青年に即され椅子に腰を下ろした。テーブルにはすでに二人分のカップとお茶菓子がおかれていた。
青年は慣れた手つきでポットからカップに紅茶を注ぐ。青年からカップを受け取り、向かいの席に座ったのを確認してから、夜月はカップの淵に口を付けた。
「口に合ったかな?」
「ああ・・・・・・いい茶葉だ、アールグレイね」
「紅茶が好きなのかな? 気が合うね」
茶葉を言い当てると、青年は嬉しそうに頬を緩めた。
カップをソーサラーの上に置き、青年に視線を向ける。
「私に何か用かい?」
「いや。ただ君と一緒にお話がしたかっただけだよ」
青年は紅茶を一口ふくんだ。
「自己紹介が遅れたね。僕は天祥院英智、よろしくね、夜月ちゃん」
ニコリ、と微笑を向ける。
自己紹介をしていないのに、名前を知られている。これにはもう慣れたことだ。女子生徒は一人だけだし、学院内でも夜月の存在は有名になっている。不審に思うことはない。
けれど英智は突然あったこともない人に名前を知られていたら警戒するだろう、と補足を足した。
「君と仲のいい敬人と幼馴染なんだ」
「ああ、たまに話に聞くよ」
「そうなんだ。あ、あと、君とよくいる月永くんとこの間まで同じ病室にいたんだ。彼と君はどういう関係なの?」
「幼馴染だよ」
「そうなんだ、二人とも仲がいいんだね」
英智はお茶菓子である小さめのケーキをお皿に乗せ、夜月に差し出した。
夜月はそれを受け取り、フォークで綺麗にカットしてから口に含む。くちのなかでほんのりと甘さが広がった。
「美味しいかい?」英智はフォークをすすめる夜月に問う。
「甘いものが好きなんだね?」
「・・・・・・私は、そんなにわかりやすい反応をしてたか?」
「どうだろう。でも好きなんだなってわかったよ。今度、お勧めのケーキでも御馳走するよ」
ニコニコと嬉しそうに微笑みながら、英智はそう続ける。
夜月はそんな彼を見て、フォークを皿に置き、改めて英智に視線を向ける。
「きみ」
「英智」
「・・・・・・英智は、私に何をさせたいんだ?」
「うん? なにって?」
英智は不思議そうに首をかしげる。
二人がしばらくの間見つめあっていると、英智はうーん、と唸って悩み、なんとか夜月の問いに応えようと回答を探した。
「そうだな・・・・・・強いて言えば、君ともっと仲良くなりたいな」
今度は夜月が不思議そうに首を傾げた。
可愛らしい反応に、英智はふふ、と笑みをこぼす。
「また一緒に、お茶をしてくれるかい?」
目を細めて朗笑する英智。その瞳にはどこか熱を孕んでいた。