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ところどころ透明な夢



「あ? なにしてんだ、お前」

「うん? ああ、零か」


水浸しのままとりあえず着替えようと保健室へ向かっている途中で零にばったり出会った。
水浸しの夜月に近寄って見下ろす。


「びしょ濡れじゃねえか、まだ水遊びには早いぜ」

「私がそんなことをするとでも? 奏汰に引き摺られたんだ」


「おかげで制服が水浸しだ」夜月がすこし怒り気味に言うと、零はまたかといって笑った。奏汰に突然引っ張られて水浸しになることはこれまでに何度かあった。一度、零もやられたことがある。


「んじゃほら、行くぞ」


零はそういって夜月の手を取ると、向かっていた保健室とは反対方向へ歩き出した。


「どこに行くんだ?」

「その恰好じゃ風邪ひくだろ。服貸してやっから」


手をひかれるまま、夜月は零に従って廊下を歩いた。



* * *



連れてこられたのは生徒会室だった。
去年生徒会を結成すべく走り回っていた敬人はなんとかそれを成し遂げ、生徒会を設立した。その際、必要になった生徒会長を生徒に人気な零に頼み込み、零は暇つぶしにそれを引き受けた。

零から体育着のジャージとタオルを受け取り、ひとまず濡れた制服を脱いで貸してもらったそれに着替えなおす。性別も違えば対格差や身長差もある。ぶかぶかなのは仕方ない。
濡れた制服を渡させば、生徒会室に設置してある暖房機や扇風機をまわして乾かしてもらった。


「ほら、俺様が髪乾かしてやるよ」

「どっから持ってきたんだい、それ」


いつのまにか零の手にはドライヤーが握られており、生徒会長が座る椅子に手招きをした。

夜月はおとなしく椅子に腰を下ろした。ドライヤーにスイッチを入れて、零は丁寧に長い夜月の髪を乾かしていく。「熱くねえか?」髪に指を通しながら聞く。「平気よ」ドライヤーの音にかぶらない程度の音量で答える。


「最近、何かおもしれーことあったか?」

「特にないね。最近は君たち『五奇人』といるし、退屈はしないけど。この間も宗に着せ替え人形にされたよ」

「はは、またかよ。宗もお前のこと気に入ってるからな〜」

「それはいいけど、もうどこへ着てけばいいかわからない服が増えて大変だよ」

「んじゃ、今度私服でも買いに行くか? 俺様が見繕ってやるよ、お前、そういうことに関しては無頓着だからな」


はは、と笑って他愛のない話をする。
以前ほどの警戒心も薄れ、今では他愛のない話をして笑うぐらい、二人の仲は良好になった。これも飽きずに夜月にかかわろうとした零の賜物かもしれない。

『五奇人』と括られても、零との関係は変わらなかったし、零自身も気にした様子もなく夜月とかかわり続けた。零の隣にいるのが当たり前になるぐらいにいは。


「夜月」


髪を乾かし終え、ドライヤーの電源を切る。
乾いた髪を手で溶かしていると、背後から名前を呼ばれた。


「楽しいか」


零はそう控えめに微笑んで問いかける。
二人にとっては欠かせない必須事項。同じ色をした互いの瞳が見つめあう。


「私たちみたいのでも、青春なんてもの味わえるんだね、零」


零は「そうだな」と言って笑っていた。

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