×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

辻褄合わせのカクテル



「暑い・・・・・・」


零が海外へ行ってからそれなりに時間はたち、季節はいつの間にか夏になっていた。太陽は鬱陶しいくらいの眩さを放ち、夜の時間が減った。気温も上がり、制服は半そでへと衣替えをした。
夏は嫌いだ。暑いし、汗は掻くし、体調を崩しやすくなるし、太陽が眩しくて外に出れない。

今日も初夏を味合わせる暑い日だというのに、夜月は夏には必需品である日傘を忘れてきてしまった。まだ初夏だと侮ったのが悪かった。

日差しが強く、早く室内へ入ろうと思うがそこまで歩いていく気力もない。仕方がないから、近くの木陰で日が沈むまで休もうと辺りを見渡す。すると丁度いい木陰を見つけた。だがそこには先客がいた。休んでいるというより、力尽きて倒れたように横たわる男子生徒。ほっといて本当に力尽きていたのなら、後で目覚めが悪い。夜月は木陰で休むついでに男子生徒の肩を揺らした。


「ねえ、君。具合でも悪いのか?」

「う〜ん〜・・・・・・もう・・・・・・だれぇ・・・・・・? 俺の睡眠を邪魔しないでよね〜」


もぞもぞと寝返りをうつ。
眠い目をこすりながら文句を言う。声からし不機嫌そうだ。


「ああなんだ、寝てたのか。紛らわしいから気づかなかったよ」

「あれ・・・・・・? あんた・・・・・・」


夜月の姿を見た彼は目を丸くしてボソッとそんなことをつぶやいた。
聞こえなかったのか、そんなことに興味なかったのか、夜月はそれに反応せず木に背を預けるように腰を下ろした。


「なんで此処にいるの」

「私だって日陰で休みたいんだよ」


「暑い・・・・・・」と手で仰ぐ夜月。
一人分の間をあけた隣に寝転がる彼は、目を吊り上げて警戒するように夜月を見つめた。


「俺に何の用? 兄者のことなら本人に言ってよ」

「別に用はないよ。というか、誰だ」

「は?」


素っ頓狂な声が出た。
目を丸くしてパチパチと瞬きをする。驚いた様子で寝転がっていた体の半身を起こして見つめてくる。その顔を見て、夜月はようやく気付くに至った。


「――――ああ、よく見ればそっくりな顔立ちをしているね。君、零がよく話す弟か」


「確か名前は……凛月、だったかな」小首をかしげて何時しかの記憶を思い返す。零は可愛がっている弟の話を何度かしていた。凛月の顔を見つめれば見つめるほど、よく似ている。弟も美人な顔立ちだ。
見つめてくる夜月から顔をそらして、凛月はうんざりしたように言った。


「俺は兄者と同じことはできないよ、どっか行って」

「・・・・・・? 何を言ってるんだ。君と零は兄弟であっても別の人間だろう、なぜ同一を求める必要がある」


訳が分からないと不思議そうに首をかしげる夜月に「弟、だし……」凛月は歯切れ悪く答えた。
だいだい察することはできる。出来の良すぎる兄を持つ弟。しかもその兄は誰もを引き寄せるカリスマを持っている。その弟となれば、周りにたかる人間たちは当然のように兄と同じ才能を弟に見るだろう。


「人間で同じなんてものはあり得ない。いくら血がつながっていようと、他人であることには変わらない。同じ血が通っているだけで別個体の人間、家族も兄弟も所詮は赤の他人なのさ」


「それを人間は絆とか言って共同体を作るのだろうけど。あいにく、そういう人が私にはいないからな。血のつながりに関して何も言えん」あくまで自分の見解で、正解でもなければ一般論でもない。夜月は総くぎを刺す。


「君はこれから先、優秀すぎる兄を持つがゆえに他人から同等かそれ以上の才能を期待される羽目になるだろう。それが人間だ。だが君は君という一人の別の人間だ。聞き流せ、そんなくだらないものに耳を傾ける必要はない。それを理解できない愚者たちがお門違いなのさ」


夜月はそう吐き捨てた。
凛月は一瞬にしてすべてを言い当てられてしまったことに呆然としたのと同時に、夜月の言葉を聞いてどこか気持ちが軽くなったような気がした。凛月は黙り込んだ。

「零から少し話を聞いたことがあるけど、日差しは大丈夫かい?」黙り込んだ凛月に問いかける。
「だから休んでるとこ」凛月はそっけないが言葉は返した。


「そう。同情する気はないが、日の下に出れない辛さはわかるよ」

「・・・・・・あんたも、日の光はダメなの……?」


凛月は何度目か、また目を丸くした。声色から、はじめて夜月という人間に興味を示したようだ。
夜月は釣り上げた瞳を丸くする様子を見て、まるで猫のようだと思う。


「アルビノって知ってるかい。肌、髪、瞳の色素が抜けて、紫外線への耐性が無いんだ。小さい時は外には全く出れなかった。私はそれほど酷い症状じゃないけど、今でも夏の日差しはダメだ。日傘がないと死んでしまいそうだよ」

「そう、なんだ・・・・・・」


凛月はゆっくりと夜月のことを下から上まで見つめた。
透き通るような真っ白な肌と髪に、それによく映える自分とよく似た真っ赤な瞳。彼女自身の顔立ちが美人であるのと重なって、まるで人形みたいな作りもののような容姿だ。

――そうか、同じなのか・・・・・・理由は違うが、日の光がダメなのは同じ。今は違うけど、小さい時は外に出ることさえもままならない。

凛月は夜月から視線をそらした。一人分空いた間を埋めるように夜月のそばまで来ると、膝の上に頭をのせるようにして体を横たえる。


「あんたもしばらく休むんでしょ、なら膝枕してよ」


突然膝枕を強要され、今度は夜月が目を丸くした。
許可を取る前にすでに横になった凛月を見下ろす。兄弟そろって強引だ。


「それと此処、午後からは日陰になって涼しい穴場だから。夜月なら、また来てもいいよ。他のいいところも教えてあげる」


凛月は人懐っこい笑みを見せる。本当に猫みたいだ。


「ふふ、それじゃおやすみ」

「ああ、おやすみ、凛月」


prev | next
Back
15/18


Bookmark