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いつでも僕は正義だから



講堂では『fine』と『UNDEAD』による『DDD』準決勝が行われていた。それはまさに、地獄であった。悪鬼羅刹が共食いをしながら血まみれで殺し合う、修羅場である。見ているだけで消耗するような、激戦だ。

完璧で無敵な圧倒的強者である『fine』の、とくに体力に問題のある生徒会長・天祥院英智の唯一の弱点を突くために、『UNDEAD』と『女王』は策を講じ、『2wink』と『流星隊』を動かし、彼の全てを削りに削っていた。
そんな零や夜月の思惑を悟っていないわけがないだろうに、英智はお気に入りの玩具で遊ぶ幼子のように愉しげだった。

けれど体力的には限界が近いのだろう、英智はよろめいて倒れそうになる。観客たちの投票を待っている間、英智がよろめいたことを気遣い審査員である教師はステージに天幕を下ろし、得票の集計に移った。
集計中はパフォーマンスをするのは原則として禁止されている。英智にとって休める機会だ、気が抜けてふらふらしている。


「クックック。ふらつて、病弱アピールしてお涙頂戴で帳票を得ようてか。こすっからい真似をするのう、『皇帝』陛下ともあろうものが?」

「・・・・・・よく言うね。実際、たいしたものだよ」


舞台上では妖魔のごとく邪悪にふるまう『UNDEAD』の零に揶揄され、英智はにこやかな笑みを浮かべる。細めた双眸の奥で、瞳が紅蓮に燃えていた。


「『三奇人』朔間零、決して侮っていたわけではないけれど。此処まで追い詰められたのは生まれて初めてだよ、君のような人を老獪と呼ぶのだろうね」

「なぁに、ちょっとした意趣返しじゃ。苦しめ苦しめ、悲鳴も憎悪も我ら『UNDEAD』の糧となる。とはいえ、ここが限界か。おぬしを倒しきるには、まだ足りぬ」


零はふらついた英智を支える弓弦のように英智に歩み寄り、夜闇の魔物が呪いの如き言葉を囁く。


「これが『B1』で恥をかかされた、いいや、これまで圧政に屈してきた我らからの返礼じゃ。因果応報じゃよ、ちっとは懲りたかの?」

「いいや。僕は間違っていない、今でもそう思うよ。かつて無秩序だった夢ノ咲学院を変革するには、圧倒的な統治者が必要だった。すべてを統一し、君臨する『皇帝』が」


清々しいほど前向きに、誇り高い英雄のように英智は真撃に応える。激戦の果てに、互いに血まみれながらも、王者と魔物は睦言を交わしている。
「勝利し続けるのが『皇帝』の義務だ。僕は、それを果たし続けてきた。そのことを後悔しない、たとえ最終的に断頭台にかけられようとも」あらゆる因果を振り払うように、英智は零を押しのける。煩わしそうに、穢らわしそうに、けれど少しだけ共感するように。


「誇り高く、笑顔で散ろう。もっとも、まだ玉座を下りる気はさらさらないけどね・・・・・・すまないけど弓弦、支えてくれなくて結構だよ。きちんと、僕は胸を張って立てる」


英智は自分を支えてくれていた手に触れ、弓弦を優しく遠ざけた。英智は深呼吸をして、姿勢を正す。そうしてその瞳は、舞台袖に視線を送った。


「それから、そろそろ顔を見せてくれないかな――夜月ちゃん」


英智の言葉、視線により、その場にいた全員が舞台袖に目を向けた。暗がりの奥から足音を高く鳴らして、夜月は姿を現す。
夜月は魔物たちを背後に英智と対峙する。


「おやおや、私は裏方の人間だぞ。主役同士で言葉を交わせばいいものを・・・・・・ふふ」


やれやれと腕を組みながらも、夜月はクスリと笑みを零した。
それに応えるように、英智もまたニコリと笑みを浮かべる。


「本当に、君はいつもいつも。『流星隊』まで味方に引き入れて、おかげで僕はもうヘトヘトだよ」

「そりゃぁ『皇帝』を討ち取るのだから、それぐらいの策は講じないと。だが愉しかっただろう、英智?」


そう言って首を傾げながら同意を求めれば、英智は言葉で答えるのではなく、微笑みで答えた。それは肯定だった。
そんな時、『女王』と『皇帝』の間に小さな影が割り込んだ。


「お前が主犯かっ! 僕たちや生徒会長の体力を削る作戦を作ったのは!」


小柄な可愛らしい少年は、ウサギのようにぴょんぴょん跳ねながら、夜月を睨みつけながら指をさした。愛らしい容姿とは逆に、言葉はたいそう悪そうに見える。
そんな小さな少年を見下ろして、夜月は考え込むように顎を指で挟んだ。


「・・・・・・誰だい、この小さな小悪魔は?」

「なっ! ど、奴隷のくせに〜〜っ!」

「こら、坊ちゃま。女性に対して失礼でしょう。申し訳ありません、生意気なガキが」


一歩前に出て詫びを入れたのは、とても礼儀正しい青年だ。彼もそこそこ口が悪いように見える。


「ああ、紹介がまだだったね。こっちの可愛らしいのが姫宮桃李。彼はその執事の伏見弓弦だよ」


桃李はふんっとそっぽを向き、弓弦は胸に手を当てて深くお辞儀をした。
そっぽを向いた桃李を見て、英智は苦笑しながら優しげな声でそんな彼を咎めた。


「桃李、僕のために起こってくれるのは嬉しいけど、彼女は僕の大切な人なんだ。そんな酷いことを言ってはダメだよ」


「生徒会長の、たいせつな・・・・・・」桃李は英智にそう言われ、夜月のことをじっと確かめるように見つめた。そうして弓弦や英智に即されるまま、桃李は一歩引いて二人の様子を見つめる。


「『舞台ゲーム』はまだ続いているわ、もっと私を愉しませて頂戴」

「ふふ、そうだね、まだ僕たちのゲームは続いてる。あの日からずっと」


英智は呼吸を整えると、対峙する魔物たちへと宣言する。


「まず手始めに『UNDEAD』を処刑する。不死者でも二度と蘇えることができないほどに、徹底的に断罪してあげよう。下剋上などない。この内乱の、この騒動の始末は、この僕がつける。もともとこれは、僕が始めたことだからね」


英智ははっきりと宣言する。
その直後、先ほどまで姿をいつの間にか消していたある人が、まるでパフォーマンスをしているかのように、高らかに声をあげて登場する。


「ふっふふふ! 悲壮な決意です、どこまでも純粋で誇り高い! だからこそ貴方は面白い、Amazingと言わざるを得ません!」


長髪を靡かせ、渉は英智に寄り添う。彼も魔物めいた雰囲気で、大事に蒐集した宝物を守るように、撫でまわすようにしている。


「やあ渉、こうして会うのは久しぶりだね。元気にしてたかい?」

「これはこれは、女王陛下! 貴女とこうして対面できるとは、恐悦至極。お近づきの印にこれを捧げましょう、我らが『女王クィーン』」


渉は恭しく胸に手を当てお辞儀をし、膝を折り地面につけて、跪く。何処からか出した一輪の薔薇を出して『女王』に捧げる。
夜月が薔薇を受け取ると、渉は今度は友人として彼女と接した。


「それにしても、貴女の悪食には困ったものですねぇ。まだまだ満たされてはいないのでしょう?」

「っふ、この程度で満たされていたら今まで苦労していないよ。私の空腹が満たされるときは、きっと世界を喰らったときだろうねぇ?」


薔薇で唇を隠しながら、夜月は妖美に微笑む。瞳の奥には熱があり、結末を想像して愉し気にしている。
そんな彼女を見て、英智は呆れながらも嬉しそうに笑った。


「そうだね、君を満足させるのには僕や『三奇人』でも骨が折れる。そんな君に愉しんでもらえるように、僕は宣言する」


英智は夜月に歩み寄る。向かい合うように対峙する二人。
お互いに瞳を真直ぐと見つめる。


「この『DDD』で僕たち『fine』が勝利した暁に、夜月ちゃんには『fine』の専属プロデューサーになってもらう。この先ずっとね、勿論拒否権なんてないよ」


その言葉を放った瞬間、舞台の上が騒ぎ出した。

「ちょっとちょっと、それはいくら何でも急すぎでしょ。後から条件を付け足すなんて、ズルいんじゃない?」「さすがにそれは我輩らも黙ってられないのう」夜月の背後では『UNDEAD』の面々が言葉を零す。
「英智は夜月の事になると、見境なくなりますからねぇ」英智の背後では、渉が楽しそうに笑った。


「拒否権まで剥奪するか、強引だね〜」

「いいんですか、英智。強引になりすぎて、夜月に嫌われても知りませんよ?」

「ふふ、こんなことで夜月ちゃんは嫌いになったりしないよ。むしろ好意的に捉えてくれるんじゃない?」

「ふーむ・・・・・・この結果次第で私の今後の行き先もかかるか・・・・・・ふ、面白いじゃないか。いいだろう!」


夜月はクスクスと笑い、嬉々としてそれを受け入れた。そんな彼女に零は呆れ、薫たちは心配そうに夜月に詰め寄った。『UNDEAD』は布石だ。本番は『TrickStar』なのだ。勝利するかもわからないそんな彼らに掛けるのは、気が引けるものがあった。

そんな彼らはそっちのけで、夜月は楽しそうに声をあげる。


「ああ・・・・・・面白くなってきた! 君とはギャンブルをしているみたいな感覚になるわ!」

「喜んでくれて嬉しいよ」


英智はそういって微笑む。

もし、これで『fine』が勝利すれば、ようやく夜月を手に入れることができる。『Knights』でも『UNDEAD』でもない。僕だけのもの。
ずっとほしかったものが手に入るかもしれない高揚感に、英智は目を細めた。

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