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挑戦的な笑みを浮かべる、彼女は美しい



『DDD』開催当日。
『DDD』は間もなく開催されようとしている。各ユニットは各々のステージへ足へ運び、残り数十分で始まるライブへ挑む。

『TrickStar』は結局、北斗、真緒、真は戻ってこずスバルだけとなった。しかしユニットは一人では認められず、参加は不可能だ。そこであんずは『TrickStar』の衣装をもう一着用意し、覆面をしてなんとか『DDD』への参加を通過した。
しかしライブが始まれば、実質『TrickStar』はスバル一人でパフォーマンスをしなければならない。

ステージ付近であんずとスバル、そして様子を見に来た零が話していると、『TrickStar』の対戦相手となる古参の強豪ユニット『Knights』が姿を現した。そこに泉の姿は無く、話によれば無理やり真を連れ去った可能性があると言う。それにスバルは激怒し、探しに行くと言いだした。

無論、冷静な零はあまり賛同はしなかった。ライブ前に探し出し、戻ってこれなければそこで終わり。すでに『Knights』に移籍していた場合、再び手続きをするのに時間がかかる。
それでも行くのか、とスバルに問う零。その言葉にスバルが口を開こうとしたとき、背後から透き通った声が響いた。


「なら私が手を貸そうか」


笑みを携えながら現れたのは、骨喰夜月。夜月は先日の『S2』でも知った通り、彼らにとって心強い味方だ。夜月を見て、スバルやあんずは驚きと安堵を込めて声をあげた。


「夜月・・・・・・思ってたよりも早い登場じゃのう」


零がそう言えば、夜月はクスクスと笑みを零した。そしてこちらを見て、ニコリと口端をあげた。
その光景を一歩遠くで見ていた『Knights』の面々。そのうち二人は目を見開き、全身が氷のように固まる感覚を覚えた。


「――は? なん、で・・・・・・」

「あ、あら、やだ・・・・・・こんなタイミングで・・・・・・なんて・・・・・・」


狼狽える凛月や嵐。
その姿を見て、新入生の司は訳も分からず、不思議そうに彼らを見上げた。二人の視線の先は、一人の女子生徒。司も自然に、夜月へと視線を向けた。


「泉の暴走は私にも一因があるからね、時間稼ぎぐらいはできるだろう。まあ、私が出る幕はないかもしれないがね?」

「夜月先輩、ありがとう!! 朔間先輩、それじゃあよろしくね!」

「零、ちゃんと真くんの居場所へ先導するのよ」

「わかっておるよ」


スバルはすぐさま校舎に向かって駆けだした。その後ろ姿を見守るあんずを横目に、零はそそくさと携帯をだしてメールを打ち出す。

これで間に合ってくれれば良いけど、などと思っていると、「・・・・・・で」と小さく零された声に気付く。そちらに視線を向ければ、凛月が顔を俯かせていた。そうして凛月は意を決して顔をあげ、真っ赤な瞳を夜月に向けた。


「なんで――なんであんたが此処にいるのっ!!?」


辺りが、静まり返った。
凛月の瞳は真直ぐと夜月にむけられ、拳を握った手は力をいれすぎて震えていた。

「ちょ、凛月ちゃん・・・・・・」凛月の背後で心配そうに夜月と凛月を交代に見やる嵐。その隣では状況が呑み込めず、ただただ呆然としている司。凛月の耳には嵐の言葉など入ってはいなかった。

メールを打ち終えた零は口を挟むつもりはないらしく、視線だけを向けて行く先を見据えていた。

夜月は溜息を落とすかのようにやれやれとし、『Knights』の彼らと距離を詰めるように足を踏み出した。夜月の視線は凛月から逸れ、背後にいる司へと移った。そして優し気な笑みを浮かべる、


「あら、知らない子がいるわね」

「ああ、この子は新しく『Knights』に入った新入生よ。ほら司ちゃん、ちゃぁんと、挨拶するのよ?」


夜月の言葉に嵐がすぐさま答えた。嵐は戸惑う司の肩に手を置き、ニッコリと笑って彼女への挨拶を即した。司は戸惑いがちに夜月を見上げ、胸に手を当てる。


「お初にお目にかかります。一年の朱桜司と申します、以後お見知りおきを」

「そう、『Knights』は私にとって身内同然と言って良いぐらい大切な場所だ。新しい子が増えて嬉しいよ」


夜月は安心したと言って嬉しそうに朗笑した。その微笑みは花々が咲くように美しく、そして穏やかで、司は思わず見とれてしまった。

すると、彼女の視線は再び凛月へと戻った。睨みつけるかのような瞳を向ける凛月に、夜月は優しげな声で名前を呼ぶ。


「凛月、久しぶりね」


眠りに誘うような、静かな音。この音色で眠るのが、大好きだった。
凛月は答える気がないのか、しばらく返事が返ってこなかった。しかし目の前にいる夜月に聞こえるかどうかの声で「なんで、いま・・・・・・戻ってきたの」と呟いた。


「兄者、また夜月を巻き込もうとしてるの。だとしたらやめてよね」

「・・・・・・正直、我輩とて夜月を表に出すのは気が引ける。天祥院くんは夜月に対して見境が無くなるからのう。が、我輩が『女王クィーン』をどうこうできるわけがなかろう」


「まったく・・・・・・おぬしらの『女王クィーン』には困ったものじゃ」そうは言うものの、零は楽し気に喉で笑う。それに不快になりながら、凛月は再度夜月を見つめた。


「ねえ、夜月。夜月は革命とか、そんなものに興味ないでしょ。なのになんで、此処にいるの」

「そうだねぇ、確かに私は『TrickStar』や零みたいに停滞した学院とか、英智や敬人のような秩序とか、そんなものはどうでもいい。私は、私が愉しめればそれでいいからね」

「なら何? ”これ”に、夜月を楽しめるものがあるの?」

「ええ、そうね。彼らがどう転がりどんな結果をもたらすかは、わりと楽しいものだ」


何かを創造したのか、指先で唇隠しながらクスクスと笑みを零す。


「でも、今回は私にも目的がある。だから舞台からは降りないわ」

「――!」


先程までは楽し気に笑っていたのに、突如鋭利なナイフで突き刺すような声が響く。凛月と似た真っ赤な瞳はじっとこちらを見つめていて、射貫かれ釘を刺されて身動きが取れなくなる。背中に冷汗が流れ、思わず生唾を飲み込む。

夜月が瞳を閉じる。再び彼女の瞼が上がった時、背筋が冷えるようなあの雰囲気は影も形もなくなっていた。あるのは、愉し気な彼女。


「そろそろ舞台の幕上げよ。零も戻った方が良いわ、後から行く。さあ――はじめましょうか!」


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