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ありふれてる大切なこと



後日、転校生さんが慌てて夜月を探し出して半ば泣きついてきた。

どうやら思っていた通り、『TrickStar』は英智に心を折られ、空中分解しているのだと言う。北斗は『fine』へ、真緒は『紅月』へ、真は『Knights』への移籍を言い渡されたらしい。最初は反対していたらしいが、『B1』で心を折られ、真緒と北斗は移籍を受け入れている様子だったという。真はあれ以降姿を見ないため真意を確かめることはできず、スバルだけが抗っているのだと言う。


「プロデューサーとして、一緒に頑張っていくって決めたんです。なにかできることがあれば、彼らの力になりたいんです!」


そう告げる転校生さん――あんず――に夜月は助力することになった。端から革命には『TrickStar』が必要だ。ここで終わるのなら見込み違い。だが、そう簡単には終わらせない。

あんずにはまず、スバルだけの状況でもレッスンを指せるように言い渡した。プロデューサーの仕事は熟さなければ。また衣装の作成など。

夜月は助力にいたって、初めから英智に対抗するために仲間を増やすつもりだった。『紅月』は生徒会側だし論外、もとより『DDD』には参加しない。『Knights』は古参ユニットで実力のある強豪ユニット。仲間にできれば良いのだが、『Knights』は私情の事情など絡み合って助けを乞えそうにない。
そうなればやはり、仲間へ行き入れるに至って最適なのは、もう一つの古参強豪ユニットのみだ。



***



放課後、夜月は本日貸し切りにされている一つの防音レッスン室へ足を運び、遠慮もせずに堂々と重たい扉を開いて足を踏み入れた。


「やあ、千秋、奏汰! 少し話があるんだが・・・・・・おや?」

「ひゃっ!?」

「な、ななななんすかっ!?」

「え、だれ?」


勢いよく扉が開かれ、同時に入ってきたのは知らない女子生徒。レッスン室にいた三人の一年生はそれに驚き、動揺していた。
髪に赤いメッシュの入った子はビックリしながらも声をかけ、片目を隠した子は怯えてしまったのか、背の高い子の背に隠れてしまった。

その様子を見て夜月は少し申し訳ない気持ちになる。


「ああ、悪いね。今日この部屋は『流星隊』が貸し切りと聞いたんだが。君たち、『流星隊』の子かい?」

「そ、そうっすけど・・・・・・」


笑みを浮かべながら聞けば、赤いメッシュの子がおずおずと応えてくれる。背の高い子とその背後に隠れた子も、じっとこちらの様子をうかがう。


「一年生三人を入れたのか、なるほど。それなら話が早い。千秋と奏汰に用があるんだけど、君らのリーダーは知らないかい?」

「え、えっと。守沢先輩なら、深海先輩を連れに噴水場に行きましたけど・・・・・・」

「ああ、奏汰の回収に行ってるのか。なら待ってる方がすれ違わない。悪いが此処で待たせてもらうよ、お邪魔するよ」

「は、はいっす・・・・・・」


背の高い子から話を聞き、既に足を踏み入れているが再度入室の声をかける。そうしてレッスン室にある椅子に腰を掛ける。
未だ訳も分からず動揺している三人は、固まりながらちらちらと様子を伺い、コソコソと声を小さくして会話をしている。

んー、第一印象が悪かったか・・・・・・久しぶりに会うからと興奮して入ったのが悪かったな。一人心の中で反省し、改めて三人に声をかける。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。プロデュース科テストケース第一号、三年の骨喰夜月。千秋と奏汰とは仲が良くてね」

「あー、プロデュース科の人だったんすね! 俺は南雲鉄虎っす! 姉御以外にもプロデュース科の人いたんすね!」」


プロデュース科といえば納得してくれて、緊張の糸が緩くなり、赤いメッシュの子は元気よく自己紹介に応えてくれた。それに続き、背の高い子や片目を隠した子も自己紹介をしてくれる。


「高峰翠です・・・・・・はぁ・・・・・・」

「拙者は、仙石忍でござる。よ、よろしくでござる」


片方は無気力で、片方は人見知りといったところだろうか。やはり後輩というのは可愛いと思っていると、忍はおずおずと口を開いた。


「あ、あの・・・・・・骨喰先輩は、ゆうたくんが言っていた御仁でござるか?」

「んー、何て言われているが知らないが、葵双子は以前プロデュースしたよ。部活も一緒だったしね」

「やっぱりでござるか!」


話を聞けば、ゆうたやひなたはプロデュースをして貰ったことをクラスメイト達に話していたらしい。内容を聞けば、それは盛り過ぎではないかというものもあったが、だいたいはあっているし、悪気もなさそうなので流してしまおう。
翠も鉄虎も「ああ」と納得し、なんとか第一印象の悪さは払拭できたようだ。


「今度は『流星隊』のプロデュースでもしてみようか。新しくなった『流星隊』も見たいことだしね」

「本当でござるか!」

「今から楽しみっす!」


忍と鉄虎は嬉しそうに燥ぐ。その一歩後ろでは「早く帰りたい・・・・・・」など翠がぼやいている。なんとも『流星隊』には意外なネガティブ思考な子だ。けれど、以前の千秋を考えればそれもありかもしれない。

他愛のない話も織り交ぜながら一年生と交流を深めていれば、ようやくずぶ濡れの奏汰を連れて千秋がレッスン室に姿を見せた。ずぶ濡れの奏汰をずるずると引きずりながら入ってきた千秋は、夜月を見るなり声をあげた。


「夜月!? 夜月じゃないか!! 元気そうで何よりだ、安心したぞ!」

「わあ、おひさしぶりですね〜夜月」


二人は、ぱあっと笑顔を咲かせて嬉しそうに言った。
スキンシップ癖のある千秋からのハグをさらりと避け、一年生三人はタオルをいそいそと用意し、ずぶ濡れの奏汰や濡れた床を拭いていく。

一息つくと、改めて千秋が口を開いた。


「それで、どうしたんだ突然。今まで全く姿を見せなかったというのに」

「ああ、そうそう。君たちに頼みがあるんだ。助けてくれないかい?」

「む、お前からそう言ってくれるのは初めてじゃないか!」


千秋は単純に夜月が自分をと寄ってきたことに喜び、任せてくれと胸を強くたたいた。
相変わらずだなあ、と千秋を見ていれば、その隣にいた奏汰が「それで、たのみってなんですか?」と尋ねてくる。


「『DDD』についてだ」


先日、界隈を言い渡された『DDD』の単語を聞き、一瞬目を見張った千秋は真剣な顔で夜月の話を聞き始めた。一緒になって話を聞く奏汰はいつも通り微笑みを浮かべるも、黙って話を聞く。
三年生三人の真剣な空気に、一年生たちは一歩引いたところで事の行き先を見つめた。

まず、『TrickStar』が『紅月』に勝利したことで始まった革命の狼煙に、零と夜月が関わっていたことから話を始めた。革命の狼煙はシナリオ通りに進んだが、予想よりも早く退院した英智によって予定は狂い、早々に『TrickStar』は心を折られ、手始めの見せしめに『UNDEAD』が公開処刑をされた。『DDD』は革命を起こすのに絶頂の舞台。『TrickStar』のスバルがたった一人でも革命を諦めないのなら、手を貸した者として、最後まで付き合う。


「作戦としては『TrickStar』と『fine』が対決するまでに、英智の体力をできる限り削ること。その役目を『UNDEAD』と『2wink』に加え、『流星隊』にも頼みたいんだ」


一通り説明し、彼らに頼みたいことを明確に話す。
内容を聞いた千秋は指で顎を挟んで、真剣に事を考えた。しかし、彼の中ではすでに答えを出していたようである。


「夜月に頼まれるまでもない。『TrickStar』には明星や衣更もいるからな!」


どうやら明星や衣更はバスケ部らしく、千秋の後輩にあたるらしい。先輩として後輩を助けるのは当たり前だと、千秋は言う。
夜月は腕を組み、改めて問う。


「いいのかい? 『TrickStar』に味方するという事は、『DDD』での勝利をはじめから手放すという事だ。さっきも言った通り、『TrickStar』は空中分解している。『fine』と対決するまでに間に合うかもわからない」

「それでも俺はあいつらを信じている。ヒーローとして、全力で俺は『TrickStar』をさサポートしよう!」

「隊長! そこは『流星隊』って言って欲しいっす!」

「拙者もがんばるでござる!」

「俺は、どっちでも・・・・・・」

「ブラック、イエロー、グリーン・・・・・・! よし、『DDD』に向けて特訓だ! 気合を入れてくぞー!」


「おーっ!」と千秋や一年生主に二人と叫んだ。
『DDD』に向けて気合を入れて盛り上がる彼らを遠目に眺めていると、奏汰は夜月の隣にやってくる。


「どうかしましたか?」

「いや、今回ばかりはダメかと思ってたんだ。『流星隊』のチャンスを棒に振るわけだし、一年生という後輩も今は抱えているからね」

「千秋もこどもたちもやさしいですからね〜」


和気藹々とする彼らを見つめながら、どこか遠い目をして二人は話す。


「こんかいはちゃんと、ぼくたちをたよってくれましたね。ひとりでかかえないで、ぼくもあんしんです」

「今回ばかりは、私が一人でどうこうやっても意味がないからね。それに、私はどこまで行っても傍観者、君たちと同じように役者にはなれない」


遠い日々を、思いだす。
学院は荒れ、そこに埋もれてしまう者も多かった。けれどそんな中、人生で一番の輝かしい青春を過ごした。今では過ぎ去って、褪せてしまった、宝物。


「楽しそうでよかったよ、奏汰」

「はい。あなたも、たいせつなひとがかえってくるといいですね」


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