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畏れていたきざし



早くも翌日、学院に戻ってきた『皇帝』は手際よく事を進めた。
英智の動きに警戒しつつ予測をいくつか用意して、今後の動きを模索していた夜月。そんな時、自分の知らぬところで動いていた事が耳に入ったのは、既に事が進んだあとだった。

英智が率いる『fine』が『B1』に出場し、その対戦相手を『UNDEAD』に名指しした。『UNDEAD』は昨夜の『S1』で疲労がたまっている。それに加え、今回の『B1』は昼頃に行われる野外ライブだった。零の体質を考えても、『UNDEAD』にとっては不利な状況だ。

いつもならそんな不利な状況で出場することなんてない。だが、これもリーダーである零のあずかり知れぬところで事が進んでいた。どうやら『fine』は、この『B1』の果し状を晃牙に渡したらしい。晃牙は昨夜のライブで不満が溜まっていた。『TrickStar』の踏み台役として『UNDEAD』は参加したのだ。晃牙の性格からして、それは不服だろう。それを狙って、向こうもわざわざ晃牙に渡した。

案の定、頭に血の昇った晃牙はそれを受け入れ、『UNDEAD』はやむを得ず参加する羽目になった。それだけでは済まず、昨夜奇跡的に参加してくれた薫が思った通り不在だった。昼頃に野外ライブで、二枚看板が揃わず、疲労がたまってのライブ。『UNDEAD』にとって、散々なライブだった。

『fine』はまず、『TrickStar』の断罪をする前に、『UNDEAD』の公開処刑をした。
それは簡単に予測できる事態だった。それを避ける手立てもあったのだが、英智が仕組んだのか、夜月の耳に情報が入るのは遅れに遅れ、駆け付けた時、既に『B1』は終了し、英智が『DDD』を発表していた。



***



『B1』が終了し、英智から『DDD』開催を言い渡されたのは夕方ごろ。

ライブが終わってしばらくの間ぐったりとしていた零も日が落ちて回復し、夜月のメールから状況を知らされた薫も学院に戻ってきた。『UNDEAD』は軽音部部室に集まり、皆それぞれ複雑な表情を浮かべていた。


「浅慮というか、血気盛んというか・・・・・・それはわんこの美徳じゃがのう。今回ばかりは反省せねばならんぞ」

「うぐ・・・・・・」


重い空気の中、リーダーである零から淡々と告げられ、事を終えて反省の色が見える晃牙はさらに肩を縮こませた。
そんな耳をたれさせてしゅんとする晃牙を見て、アドニスは申し訳なさそうに晃牙を庇った。


「朔間先輩、あまり大神を責めないでやってくれ。果し状を受け取った時、俺も大神と一緒に居た。止められなかったのは俺の責任だ、すまない・・・・・・やはり相談しに行くべきだった」


アドニスはそう言って眉尻を下げた。声色やその様子から、素直に反省しているのがわかる。それを見て、零もそれ以上何かを言うことは無かった。
アドニスは零に頭を下げると、今度は夜月に向き直った。


「夜月先輩も、昨日久しぶりに良いライブをさせてくれたにも関わらず、恩を仇で返してしまった。本当にすまない・・・・・・」

「いや、アドニス! それは、俺の、せいで・・・・・・」


アドニスが再び頭を下げると、アドニスの背後で居心地の悪そうにしていた晃牙が今度こそ声をあげた。自分のせいだと素直に認める晃牙の声が、だんだんと小さく沈んでいく。

どんどん沈んでいく重たい空気に、そういうのが苦手な薫は居心地が悪そうな様子を見せた。それを横目に、今度は夜月が口を開けた。


「いや、今回の責任を問うなら私にあるよ。情報操作をされていたとはいえ、事を知るのが遅くなった。晃牙の不満を知りながら、昨日は君たちに踏み台役をしてもらったからね。それに、『TrickStar』ではなく『UNDEAD』が公開処刑に選ばれたのは、間違いなく私のせいだからね」


「すまないね」夜月はそう眉尻を下げながら申し訳なく、けれどこれ以上空気を静めないように笑みを添えた。
事の次第は自分に非があると告げる夜月に薫が「なにかあったの?」と樹に掛けた。夜月は溜息を落とす。


「昨夜、英智と出くわしてね。思い通りにならないなら容赦はしない、と言われてしまったよ。まあつまり、暗に私が降りなければ今度は『UNDEAD』を生贄に。もしくは、『fine』のプロデューサーにってところかしらね」


やだやだ、と夜月は面倒くさそうに顔を歪めた。
アドニスや晃牙、薫にいたっては、それを聞いて目を丸くする。


「え、じゃあ夜月ちゃん、あっちのプロデューサーになっちゃうの?」

「ならないよ。そんな退屈なこと、蹴るに決まってるでしょ。その結果、君たちを公開処刑に選ばせてしまったんだが。ごめんね、こういう性分で」


専属のプロデューサーとして登録されてしまうと、他のユニットをプロデュースできなくなってしまう。ひとまずそれは避けられたことに安堵し、三人は胸を撫でおろした。


「良い良い、おぬしが勝手に居なくならないならのう。我輩らは不死者、何度処刑されても蘇る。それが我ら『UNDEAD』じゃ。のう、わんこ?」

「――! おう、分かってんじゃねぇか吸血鬼ヤロー!」


しばらく黙っていた零が口を開き、落ち込んでいた晃牙に声を駆ければ、晃牙はキラキラと目を輝かせて普段通りの様子に戻っていった。最近はツンケンしていたが、やはり昔から懐いていたこともあり、零の言葉は絶大だ。


「俺たちには夜月ちゃんがついてるしね! 君のためなら頑張るよ、俺」

「ああ、今度こそ役に立って見せよう」


数分前の空気とは大違いだ。『UNDEAD』のメンバーも普段の雰囲気を取り戻し、立ち止まらず次に向けて姿勢を正した。


「なら再び革命に協力してもらおうか。未だ綺羅星の一つ星は輝いている。『DDD』には参加するだろう、零?」

「そのつもりじゃ、革命には持って来いの舞台になる」

「なら、まずはそこに向けて『TrickStar』の仲間を増やそうか。『皇帝』は手強いからね。期待しているよ」


夜月がそういってニッコリと笑顔を浮かべた。
革命は、物語は、やっと本編へと進み始める。


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