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夜闇を統べる魔王



「いったい何事なのだ・・・・・・?」


敬人は講堂の光景を見て、呆然とした。

生徒会室で仕事をしていたところ「蓮見殿、すぐに講堂まで参られよ!」とノックもせずに駆け込んできた神崎颯馬に連れ去られ、講堂までたどり着いた。講堂は観客たちの声援で熱量を帯びている。

今日行われる『S1』は外部から客が招かれる。先日の『S2』のように夢ノ咲学院の生徒たちのみが客ならば、おとなしく整然と並んでいるのが常だけれど。外から客を招き入れたことで上手く統制がとれず、雰囲気が変わるのはおかしなことではない。一般客は自由で、ある程度は管理されているのだろうが――完全には、生徒会の支配下には無いのだ。


「なぜ、演奏が始まっている? 歌っているのはどこのユニットだ? 今回の『S1』は大半のユニットが参加を辞退したため・・・・・・出演するのは俺たち『紅月』と、二年生のどこの馬の骨かもわからんユニットのみのはずだ」

「うむ。確か、我と同じ『くらす』の者たちが中心になっている『ゆにっと』である。だが、演奏しているのは彼らではない」


照明を最低限だけ照らし、辺りはほとんど真っ暗だ。暗中に光る数多くのサイリウムが眩しい。サイリウムの数だけでも、講堂の収容人数を越えている。


「よう、蓮巳の旦那」


既に『紅月』の衣装を身にまとった鬼龍紅郎が、壁に背を預けながら講堂のステージを見あえげていた。


「鬼龍」

「見ろよ。地獄の蓋が開いたみてぇだ。悪タレどもが、楽しそうに暴れてやがるぜ?」


戦意を高揚させ、鬼龍はステージの中央を睨んだ。

ステージには黒を基調とした過激な衣装を身にまとう、『三奇人』朔間零を首魁としたユニット――『UNDEAD』である。
危険な香りを漂わせながら、『UNDEAD』は闇の中に君臨していた。


「くははっ! 震撼しやがれ愚民どもっ、今回の『S1』は俺たちの貸し切りだ! 鼓膜が破れるまで、帰さねーぞ!」


最も激しく動き回り、喚いている晃牙。月に吼える野獣の如く歌っている。
そんな晃牙が激しく動かす手足に当たらない位置で、ふわりと微笑む人物がいる。


「ごめんね〜、眼鏡くん。あんまりモタモタしてるから、先に始めちゃったよ」


薫は唖然としている敬人に片目を瞑る。


「さぁさぁ、遠路はるばる集まってくれた一般人の女の子たち! 学院の男どもに見せるのはもったいないんで内緒にしてた、俺の本気を見せてあげよう! 今日はたっぷり、俺に惚れてってね〜」


暴れまわる晃牙の歌声を押しのけるように、甘やかな声音を重ねていく。
それぞれが好き勝手に歌っている、むしろ喧嘩をしているようだ。けれど奇妙に絡めとられ、闇の中で蠱毒のようにまぜあわせる。


「おいこらアドニスっ、テメーもなんか言えよコノヤロウ!」

「・・・・・・喋るのは、苦手だ。そのぶん、歌と演奏と、ダンスで『UNDEAD』に奉仕する」


ほとんど闇にとろけていく浅黒い肌。異国的な、ほりの深い目鼻立ち。
自由気ままにパフォーマンスをする晃牙や薫のやや後方で、二人を支えるようにして歌声とダンスの隙間を埋めている。

魔物たちは暗闇の中、跳梁跋扈している。


「貴様ら・・・・・・! 何をしているっ、これは生徒会への反逆行為とみなすぞ! 即刻、舞台から立ち去れ――ここは、貴様らの立っていい場所ではない!」

「まぁまぁ、蓮巳くん。そう、つれないことを言うものではないぞ?」


応えたのは、『UNDEAD』の首魁――『三奇人』朔間零。
彼は出しゃばらず、好き放題に暴れまわっている仲間たちの最奥で優雅に歌っていた。すべてを包み込む闇の化身のように、どこか満足そうに。


「朔間さん・・・・・・!」

「元来、ドリフェスはアイドルにとっての晴れ舞台じゃ。だが今回はちと、参加するユニットが少ないようじゃからのう? 我輩たいが、華を添えるために飛び入りしたのじゃよ」


気安く語り掛け、ぬるりと近づいてくる。
いけしゃあしゃあと、勝手な理屈を並べて。


「何をぬけぬけと・・・・・・!」

「待て、蓮巳。此処で問題を起こしてドリフェス事態を中止させれば、学院の信用にもかかわる」


頭に血の昇った敬人を鬼龍が引き留める。
ドリフェスの中止は最悪の事態。絶対に避けなければならない。敬人は眉をひそめた。


「ククク。どうせ片足を棺桶のなかに突っ込んだ老骨じゃ、派手に討ち死にしようが悔いはない。最後に、戦場で一旗あげたくてのう?」


彼は愛おしそうに観客席を眺める。
その赤い瞳には何を映しているのか。


「老兵は死なずただ消え去るのみ、とはいえ・・・・・・独り寝は寂しいからのう、地獄への道連れが欲しいのじゃよ」


闇の中で手招きする怪異そのもののような零に、敬人は顔をしかめる。
パフォーマンスを続行させる『UNDEAD』の面々を睨む。


「なに、今宵は我輩ら『UNDEAD』の復活祭だけではない。愛しいあの子が待ちわびた幕上げじゃ」

「そうそう、あの子のためなら何でもしちゃうよ!」

「ああ、俺も嬉しい。今日は良いこと尽くしのようだ」

「はっ、お前ら生徒会なんて屁でもないぜ!」


夜闇を統べる魔王が、不敵に笑みを零した。他のメンバーもそれに同意し、歓喜している。
夜の魔物たちが、祝福している。


「待て、お前たち一体何を――――っ!!」


各々に言葉を並べる彼らに、敬人はこれ以上何をするつもりだと声をあげた。だが次の一瞬で気づいた。ガラス越しに瞳が大きく見開かれた。

それを見て、魔王は笑みを深める。
そして高らかに声をあげる。愛おしそうに、その瞳を細めて。


「さぁ、我らが『女王』のお出ましじゃ」


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