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君に触れたがる手



結局あの後、薫に連絡は入れず、翌日に回すことにした。
学院に登校し、また泉などに鉢合わせないよう注意しながら薫が居そうな場所を周る。屋上、海洋生物部室、ガーデンテラス、と薫が基本時間をつぶす時にいる場所へ行くが、薫は何処にもいなかった。他にもいろいろと回ってみたが、薫はいない。

夜月は探し回るのを諦め、スマホを取り出して電話をかけることにした。何回かコールが響いた後、電話の向こうから陽気な声が聞こえてくる。


「夜月ちゃん、どうしたの? 電話なんて珍しいね」

「やあ薫、いま何処にいるの?」

「俺? いまは教室にいるよ」

「あー・・・・・・それは探しても見つかるわけないよねぇ」


教室には一切近づかないため、見つからないわけだ。
とくにA組の人たちは会いにくい人ばかりが在籍している。


「俺に何か用だった? それなら今から行くよ! 夜月ちゃんは何処にいるの?」

「いや、いいよ。せっかく授業に出てるんだから。昼休みにでもガーデンテラスに来てよ、待ってるから」


今からでも抜け出してこようとする薫を止め、昼休みに会う約束を取り付ける。薫はそれに頷いた後「いやぁ、楽しみで待ちきれないよ!」と嬉しそうな声を零した。もうすぐに限目が始まる。電話を切ろうとすると今度は名残惜しい声がしたが、それ笑みを零して通話を切る。


「さて、それじゃあガーデンテラスで待とうか」



***



「はい、夜月ちゃん」


昼休み、ガーデンテラスで本を読みながら薫を待っていたら、薫は自動販売機で買ってきた缶の飲み物を持って、差し出してきた。お礼を言ってそれを受け取り、一口飲む。口の中にココアの味が広がる。


「それで? 俺に話ってなに?」


向かい側に座ってニコニコと笑顔を向ける。


「今度『S1』があるのは知ってる?」

「ああ、らしいね」

「それに『UNDEAD』も出るから、薫もちゃんと出てね」

「うんうん・・・・・・って、え! デートの話じゃないの!? 俺はてっきりそうだと思ったのに、残念だなあ」


項垂れる薫に呆れながらココアを口に含む。
「私がデートに誘ったことなんて一度もないじゃない」と事実を言えば「そうだけど〜・・・・・・」という薫の残念そうな声が戻ってくる。


「それでレッスンもしたいから、それにも出て欲しいの。一度出てくれればいいって零が言ってたよ」

「そっか。うん、いいよ。練習はいつなの? 今日? それとも明日とか?」


薫の反応に夜月は目を丸くした。
帰ってこない返答に首を傾げた薫を見て、夜月は続ける。


「あー・・・・・・予定は薫に合わせるよ」

「じゃあ今日がいいかな。そうすれば夜月ちゃんと一緒に居れる時間が増えるし! 夜月ちゃんも来るんでしょ?」

「うん、そのつもりだけど」


ココアを傾けながら、妙に素直な薫を怪訝そうに見つめた。そんな夜月に気付いていないのか、薫はニコニコとしている。


「やけに、素直ね。もっと嫌がると思ったのだけど」

「えー? 俺が練習とかドリフェスにでるのがそんなに珍しい?」


「そりゃあね」夜月は飲み終えた缶をテーブルに置く。
最近女の子とデートにあまり行けていないから暇なのか、と勝手に予測を付けてて聞けば薫は「そんなことないよ」という。「今度もデートするんだ〜」と空になった缶をテーブルに下ろす。


「でも、他の女の子たちと過ごすより夜月ちゃんと一緒に居れる時間のほうが、俺にとっては大事だから」


目を細めて柔らかく微笑む薫は、とても幸せそうに見えた。
視線を逸らして「そう」と素っ気なく答えても、薫は嬉しそうに「うん」と答える。少し、くすぐったい気持ちになる。


「じゃあ、ちゃんとレッスン室に来てね」

「えっ、もう行っちゃうの?」


腰をあげて空になった缶を片手で拾うと、向かいに座っている薫が目も丸くして見上げてくる。


「用はもう済んだからね。それじゃあ、またあとで――――」

「待って!」


立ち去ろうとする夜月を薫は慌てて手を掴んで引き留めた。「なに? 薫も私に何か用があったかい?」薫はそれにすぐ返答できず、歯切れの悪い反応を見せる。


「えーっと・・・・・・あともうちょっとだけ、一緒に居たいな」

「・・・・・・ふふ。うん、いいよ」


再び椅子に座り直した夜月。未だ引き留めた手は離されず、薫に握られたまま。そのまま薫を見れば、嬉しそうに可愛い笑みを零している。


「離しても行かないよ、薫」

「うーん、でも・・・・・・あともうちょっとだけ。こうしていたいな」


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