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ごめん / 君に言えなかったことがある



「夜遅くまで練習に付き合ってくれてありがとうございます!」

「本当に家まで送らなくていいんですか? 俺たちなら平気ですよ」


日が完全に沈み、辺りは真っ暗。夜空には月が浮かんでいる。

久しぶりのプロデュースに熱が入ってしまい、ひなたやゆうたも気合を入れて練習にのめり込んでしまい、気付いたらこんな夜遅くになっていた。追求すべきところは全て伝え、彼らが実現させたい派手なパフォーマンスを完成させるための練習メニューも一緒に作り上げた。今日一日だけで充実した練習時間を過ぎせた。


「そうそう。夜月先輩は女の子なんだから、俺とゆうたくんが送りますよ。ね、ゆうたくん」

「うん。アニキの言う通り、やっぱり一人は危ないですよ」

「ありがとう、その気持ちだけで十分だよ。君たちはすぐにでも帰って身体を休めてよ」


送っていくと言う優しい二人に、夜月は大丈夫だと言って断りを入れた。心配そうにする二人に「ほら、私は夜遊びとかしちゃうような子だから平気だよ。家も近いしね」と軽く笑いながら言えば「あ、先輩悪い子だー」「ダメですよ先輩ー」と二人がのってくる。

そのまま手を振って二人を送りだす。ひなたとゆうたは何度か振り返って手を振り、「気をつけて帰ってくださいねー!」と大声で伝えた。全く元気なことだ。


「・・・・・・さて」


二人の姿が見えなくなったところで、夜月はポケットからスマホを取り出した。

零に頼まれたことは、なにも一つじゃない。そのうちの一つを今日達成し、次の頼まれごとに取り掛からなければならない。率直に言うと、薫を練習に参加させること。薫ならぶっつけ本番でも問題ないと思うが、『UNDEAD』が始動するのは久しぶりなのだ。一度は皆で合わせてみたい。

連絡先一覧をスライドさせ、羽風薫の名前を探す。

薫は女の子関連では、まあ多忙の身と言えるだろう。女の子とのデートの約束を入られらる前に、早く伝えて予定を取っておかなくは。

薫の名前を見つけて早速連絡を入れようとした、その時だった。


「夜月ッ!!」

「――!」


画面をタップしようとした腕を強くつかまれた。突然の事に驚いて腕をつかんだ人物に振り返れば、そこには思ってもみなかった人物を見て、驚きに目を見開く瀬名泉がいた。
泉は丸くした目をだんだんと鋭くして、睨むように見つめてきた。


「泉・・・・・・なんで・・・・・・」

「『なんで』だってぇ? それはこっちのセリフなんだけど」


――失敗した。

泉とは会わないようにしてきた。合わせる顔がなかったし、彼も思うところがあって必要最低限の交流だけを残してお互い距離を置き合った。ある日を境に、泉はその距離を埋めようとした。けれど、会おうとしなかった。彼は、この隠れた生活を送り始めた理由の第一の要因と言えるだろう。

隠れた学院生活に零も協力してくれたし、薫も上手く隠してくれてた。他にも協力してくれた人もいる。それが全部、水の泡になってしまった。一番あわす顔がなくて、避けていた人に見つかってしまったから。


「いつから戻ってきてたの・・・・・・いつから学院に通ってたの・・・・・・」


泉は顔を俯かせる。夜のせいもあって、影がかぶった表情を伺えない。それでも、その声から感情は伺えた。
腕をつかむ力がだんだん強くなって、痛い。


「い、泉――――」

「なんでっ!! なずにゃんやあの知らない一年には会うくせに、俺には会いに来ないのっ!!」


顔をあげて、真正面から見つめられて。今までため込んできたことを怒号にのせて。泉の気迫に押され、夜月は押し黙ることしかできなかった。掴まれた腕の力はさらに強くなって、骨が軋むよう。


「なんで俺に会いに来ないのっ! なんで俺のところには来てくれないのっ!!」

「・・・・・・」


泉の悲痛の声に、叫びに、答えることもできなければ答える資格すらも無かった。彼を此処まで追い詰めてしまったのは紛れもなく自分にあって、それを知っていて、何も言わずに離れていった。
その言葉を全て受け止めることしか、できなかった。


「なんとか言ったらどうなのっ!? 俺は、俺はあんたに――――っ!!」

「そこまでにしてくれんかのう」


強くつかまれた腕を解放され、泉との距離が遠のいた。
泉との間に割って入ってきた人物を見上げれば、そこには零がいた。自分の背に隠して、護るように泉と対峙している。「零・・・・・・?」驚いたまま名前を呼べば、零は微笑を浮かべる。


「朔間・・・・・・俺と夜月の邪魔ないでくれるぅ? ちょーうざいんだけどぉ」

「いや、我輩も余計な横槍を入れるつもりは無かったんじゃが。可愛い夜月がまた騎士なんぞに掻っ攫われてしまわぬか、心配でのう」

「勝手に俺たちのを横取りしといて何言ってんのぉ? 上手く俺たちから隠しちゃってさぁ?」

「クク、横取りはしておらんよ、瀬名くん。この愛し子を最初に見つけたのは我輩じゃ。途中で横取りをしたのは、むしろおぬしのほうじゃないかえ?」


夜月の首に腕を絡ませて抱き寄せながら、赤い瞳を細めて泉を見やった。その光景に泉は顔を歪ませ鋭く赤い瞳を睨みつける。それに零はクスクスと笑みを落とす。


「ほれ夜月、今宵は夜の散歩でも行こうではないかえ。我輩が家まで送っていくゆえ」

「はあ? ちょっと、まだ話は終わってないよ! 勝手に連れ帰られちゃ困るんだけどぉ」


零はそのまま夜月の手をさりげなく攫い、踵を返して校門を出ていこうとする。夜月は何も言わず、されるがままに流されるが、泉はそんなことは許さない。連れ去ってしまおうとする夜月の手を引く腕を掴もうと一歩足を踏み出すが、振り返った零の眼孔に悔しくも足踏みしてしまう。


「今のおぬしに夜月を送り出す気は無いぞ。何をしでかすかわかったもんじゃないからのう。返してほしくば、騎士らしく、堂々と我輩から奪い取って見せるがよい。もっとも、負ける気など一ミリもせんがな」


零の言葉は挑発にも似たものだった。
青い瞳が鋭利の刃の如く睨みつける。泉の表情が、彼の感情を全て語っていた。怒り、不愉快、悲痛、後悔。

黙ったままの泉を置いて、零は手を引いて校門を出ていこうとする。
手を引かれるままついていった夜月が、一度だけ、一瞬だけ足を止めて泉に振り返ったが、俯く姿を見て、結局何も伝えずに、誘われるがままに足を動かした。


「なんで、いま・・・・・・こんな時に、戻ってきちゃうの――――」


誰一人いないなか、静かに呟いた。

夜月が姿を見せた。朔間零が何か動いている。若輩の『TrickStar』が何かに向かって行動を起こしている。何かの予兆は、すでに見えていた。


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